こひのうた
友則、貫之の恋歌。併せて、道綱の母の歌を紹介しましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
595~597
595
題しらず
紀 友則
しきたへの枕のしたに海はあれど 人をみるめはおひずぞありける
しきたへの枕の下に涙の海はあるけれど、ひとを見る機会は生じず、海草は生えはしないなあ……しき絶えのまくらの下に憂みはあれども、人をみるひとは極まらずだなあ。
「しきたへの…枕、床などの枕詞、戯れる。敷き妙の、士気絶えの、色絶えの」「枕…曲ぐら」「ら…状態を表わす」「うみ…憂み…つらいこと…いやなこと…海…女」「人…女…男」「みるめ…海松…海藻…見るめ…見る機会…合うとき」「みる…見る…まぐあう」「め…機会…女」「おひず…生いず…生じず…老いず…ものの極みこず…感の極みに至らず」「おひ…おい…生い…老い…追い…極まり」。
596
としをへてきえぬおもひはありながら よるのたもとはなほこほりけり
年を経て消えぬ思い火はありながら、夜の袂は、やはり涙に凍ってることよ……疾しを経て消えた、思火はありのまま、夜の他もとは、なおこほっているなあ。
「とし…年…年月…疾し…早すぎ…一瞬」「ながら…であるのに…のままで」「たもと…袂…手もと…他もと…他の手もとのもの」「なほ…猶…やはり…さらに…なお」「こほり…凍り…情熱冷え…こ掘り…子折り…まぐあい」。
上二首。みるめ、袂に寄せて、おとこのふがいない乞いざまを詠んだ歌。なお友則はご壮健ではなかったようで、この集の完成を待たず亡くなられた。
597
貫 之
わがこひはしらぬ山ぢにあらなくに 迷ふ心ぞわびしかりける
我が恋は知らぬ山路でないものを、迷う心ぞ、心細くもさびしいことよ……我が乞いは知らぬ山ばのみちではないのに、ゆきまよう心、みすぼらしいかりだなあ。
「恋…乞い」「知らぬ山ぢにあらなくに…知らない山の路ではないのに…なじみの山ばの路であるのに」「山…山ば」「路…女」「迷う…とまどう…うろたえる…ゆきわずらう」「わびし…心細い…ものたりない…みすぼらしい」「かり…あり…狩り…もとめたのしむ…まぐあい」。
折ることは尽きたけれど朽ち果てるまでよ
道命阿闍梨の歌のついでに、人に聞いたことだけど、道綱の母上の歌を紹介しましょう。
枕草子288
道綱の母上は、普門という寺にて八講があったとき、聞いて、次の日、小野殿に人々がたいそう多く集まって、音楽を奏で漢詩なども作ったときに、
たきぎこる事は昨日につきにしを いざをのゝえはこゝにくたさん
と詠みになられたという。とっても愛でたいことよ。
薪きることは、昨日で尽きたので、いざ、斧の柄は此処に朽ち果てさせましょう。
お釈迦さまが水を汲み薪をきりつつ修行した有難いお話は昨日で終りました、さあ、今日は、ここ小野で、その斧の柄の朽ちるまで時を忘れ楽しく過ごしましょう。
多気木を折ることは、昨日で尽きたので、いざ、おとこどもの身の枝は、ここお野で朽ち果てさせるわよ。
「たきぎ…薪…多気木」「木…男」「こる…樵る…きる…伐採する…折る…逝く」「をの…小野…山ばでないところ…斧…男の」「え…柄…枝…身の枝…おとこ」「くたす…朽たす…斧の柄が朽ちるほどの時間を過ごす…おのの枝が朽ち果てるまで尽きない女の情熱・煩悩」。
「女の言葉は聞耳異なるもの」「歌の言葉は浮言綺語の戯れのようなもの」と心得、言の心を心得て、歌から上の全ての意味を聞き取りましょう。さすれば「いとめでたけれ」とある枕草子も正当に読まれたことになる。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
友則、貫之の恋歌。併せて、道綱の母の歌を紹介しましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
595~597
595
題しらず
紀 友則
しきたへの枕のしたに海はあれど 人をみるめはおひずぞありける
しきたへの枕の下に涙の海はあるけれど、ひとを見る機会は生じず、海草は生えはしないなあ……しき絶えのまくらの下に憂みはあれども、人をみるひとは極まらずだなあ。
「しきたへの…枕、床などの枕詞、戯れる。敷き妙の、士気絶えの、色絶えの」「枕…曲ぐら」「ら…状態を表わす」「うみ…憂み…つらいこと…いやなこと…海…女」「人…女…男」「みるめ…海松…海藻…見るめ…見る機会…合うとき」「みる…見る…まぐあう」「め…機会…女」「おひず…生いず…生じず…老いず…ものの極みこず…感の極みに至らず」「おひ…おい…生い…老い…追い…極まり」。
596
としをへてきえぬおもひはありながら よるのたもとはなほこほりけり
年を経て消えぬ思い火はありながら、夜の袂は、やはり涙に凍ってることよ……疾しを経て消えた、思火はありのまま、夜の他もとは、なおこほっているなあ。
「とし…年…年月…疾し…早すぎ…一瞬」「ながら…であるのに…のままで」「たもと…袂…手もと…他もと…他の手もとのもの」「なほ…猶…やはり…さらに…なお」「こほり…凍り…情熱冷え…こ掘り…子折り…まぐあい」。
上二首。みるめ、袂に寄せて、おとこのふがいない乞いざまを詠んだ歌。なお友則はご壮健ではなかったようで、この集の完成を待たず亡くなられた。
597
貫 之
わがこひはしらぬ山ぢにあらなくに 迷ふ心ぞわびしかりける
我が恋は知らぬ山路でないものを、迷う心ぞ、心細くもさびしいことよ……我が乞いは知らぬ山ばのみちではないのに、ゆきまよう心、みすぼらしいかりだなあ。
「恋…乞い」「知らぬ山ぢにあらなくに…知らない山の路ではないのに…なじみの山ばの路であるのに」「山…山ば」「路…女」「迷う…とまどう…うろたえる…ゆきわずらう」「わびし…心細い…ものたりない…みすぼらしい」「かり…あり…狩り…もとめたのしむ…まぐあい」。
折ることは尽きたけれど朽ち果てるまでよ
道命阿闍梨の歌のついでに、人に聞いたことだけど、道綱の母上の歌を紹介しましょう。
枕草子288
道綱の母上は、普門という寺にて八講があったとき、聞いて、次の日、小野殿に人々がたいそう多く集まって、音楽を奏で漢詩なども作ったときに、
たきぎこる事は昨日につきにしを いざをのゝえはこゝにくたさん
と詠みになられたという。とっても愛でたいことよ。
薪きることは、昨日で尽きたので、いざ、斧の柄は此処に朽ち果てさせましょう。
お釈迦さまが水を汲み薪をきりつつ修行した有難いお話は昨日で終りました、さあ、今日は、ここ小野で、その斧の柄の朽ちるまで時を忘れ楽しく過ごしましょう。
多気木を折ることは、昨日で尽きたので、いざ、おとこどもの身の枝は、ここお野で朽ち果てさせるわよ。
「たきぎ…薪…多気木」「木…男」「こる…樵る…きる…伐採する…折る…逝く」「をの…小野…山ばでないところ…斧…男の」「え…柄…枝…身の枝…おとこ」「くたす…朽たす…斧の柄が朽ちるほどの時間を過ごす…おのの枝が朽ち果てるまで尽きない女の情熱・煩悩」。
「女の言葉は聞耳異なるもの」「歌の言葉は浮言綺語の戯れのようなもの」と心得、言の心を心得て、歌から上の全ての意味を聞き取りましょう。さすれば「いとめでたけれ」とある枕草子も正当に読まれたことになる。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず