こひのうた
凡河内躬恒、清原深養父、よみ人しらずの恋歌。併せて、和泉式部の恋歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
580~582
580
題しらず
凡河内躬恒
秋霧のはるゝ時なき心には たちゐのそらもおもほえなくに
秋霧の晴れる時なき恋心には、立ち居のことなど、うわのそらにも思えないなあ……飽き限りの張れる時なき心には、たち居ることすら思えないなあ。
「秋霧…飽きの心に立ち込めるもやもやとしたもの…飽き切り…厭き限り」「はるる…晴れる…張れる」「たちゐ…立ち居振る舞い…立っている…起っている」「そら…空…うわのそら…でさえも…すら」。
581
清原深養父
虫のごと声に立ててはなかねども 涙のみこそしたにながるれ
虫の如く声に立てては鳴かないけれど、恋し涙ばかりは、下隠しに流れているよ……虫のように声に立ててはなかないけれど、涙の身こぞ下にながれる。
「虫…秋の虫」「涙…恋しい涙…乞しいつゆ」「のみ…ばかり…の身」「こそ…強く指示する詞…子ぞ」「こ…子…この君…おとこ…身の虫」「下に…うわべ取り繕って下隠しに…身の下で」「ながるれ…流るる…どうしょうも無くそうなる」。
上二首。秋霧、虫に寄せて、男の恋おとこの乞いを詠んだ歌。
582
これさだのみこの家の歌合のうた
よみ人しらず
秋なれば山とよむまでなくしかに 我おとらめやひとりぬるよは
秋になれば山響くまで鳴く鹿に、わたしは劣るでしょうか、独り寝る夜は……飽きとなれば山ばさわぐまで泣くし下に、わたし劣るかしら、独り寝る夜は。
「秋…飽き…厭き」「山…山ば」「とよむ…鳴り響く…なきさわぐ…ゆれ動く」「鳴く鹿…妻呼び鳴くさ牡鹿…泣く子下…おとこ涙を流す士下」「は…とくに取り立てて区別する…詠嘆の意を表わす」。
上一首。歌合での恋に見せかけた乞い歌。女の歌、匿名希望かな。
泣くべきかたもなし小枝絶えたので
和泉式部の歌を言の心で聞きましょう。原文、清げな姿、心にをかしきところの順に示す。
五日、あかつき、めをさましてきけば、かしがましきまでありし虫の音せぬに
ねをだにも今はなくべきかたもなし まぎれし虫の声絶えぬれば
(十月)五日、暁、目を覚まして聞けば、やかましかった虫の音しないので
声出して、今は泣くべき方策もなし、紛れし虫の音が絶えたので
心の冬のはじめ、暁方、めを冷まして聞けば、さわがしかった身のむしのおとしないので、
根おさえも、今は泣くべき形もなし、まぎれた身のむし小枝絶えたので
「め…目…女」「さまし…覚まし…冷まし」。「ねを…音を…根お…おとこ」「かた…方…方法…跡形…形…ものの形」「むし…秋の虫…身の虫…おとこ」「声…こゑ…小枝…おとこ」。
上の一首を「いとをかし」と聞ければよし。聞こえなければ、歌の半分以上埋もれたままよ。
和泉式部は、「ものをのみ思ひの家をいでて」(1286)・1456)などと詠む時、自らが、煩悩に身を焼くひと、火宅の人であることは、十分に承知している。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
凡河内躬恒、清原深養父、よみ人しらずの恋歌。併せて、和泉式部の恋歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
580~582
580
題しらず
凡河内躬恒
秋霧のはるゝ時なき心には たちゐのそらもおもほえなくに
秋霧の晴れる時なき恋心には、立ち居のことなど、うわのそらにも思えないなあ……飽き限りの張れる時なき心には、たち居ることすら思えないなあ。
「秋霧…飽きの心に立ち込めるもやもやとしたもの…飽き切り…厭き限り」「はるる…晴れる…張れる」「たちゐ…立ち居振る舞い…立っている…起っている」「そら…空…うわのそら…でさえも…すら」。
581
清原深養父
虫のごと声に立ててはなかねども 涙のみこそしたにながるれ
虫の如く声に立てては鳴かないけれど、恋し涙ばかりは、下隠しに流れているよ……虫のように声に立ててはなかないけれど、涙の身こぞ下にながれる。
「虫…秋の虫」「涙…恋しい涙…乞しいつゆ」「のみ…ばかり…の身」「こそ…強く指示する詞…子ぞ」「こ…子…この君…おとこ…身の虫」「下に…うわべ取り繕って下隠しに…身の下で」「ながるれ…流るる…どうしょうも無くそうなる」。
上二首。秋霧、虫に寄せて、男の恋おとこの乞いを詠んだ歌。
582
これさだのみこの家の歌合のうた
よみ人しらず
秋なれば山とよむまでなくしかに 我おとらめやひとりぬるよは
秋になれば山響くまで鳴く鹿に、わたしは劣るでしょうか、独り寝る夜は……飽きとなれば山ばさわぐまで泣くし下に、わたし劣るかしら、独り寝る夜は。
「秋…飽き…厭き」「山…山ば」「とよむ…鳴り響く…なきさわぐ…ゆれ動く」「鳴く鹿…妻呼び鳴くさ牡鹿…泣く子下…おとこ涙を流す士下」「は…とくに取り立てて区別する…詠嘆の意を表わす」。
上一首。歌合での恋に見せかけた乞い歌。女の歌、匿名希望かな。
泣くべきかたもなし小枝絶えたので
和泉式部の歌を言の心で聞きましょう。原文、清げな姿、心にをかしきところの順に示す。
五日、あかつき、めをさましてきけば、かしがましきまでありし虫の音せぬに
ねをだにも今はなくべきかたもなし まぎれし虫の声絶えぬれば
(十月)五日、暁、目を覚まして聞けば、やかましかった虫の音しないので
声出して、今は泣くべき方策もなし、紛れし虫の音が絶えたので
心の冬のはじめ、暁方、めを冷まして聞けば、さわがしかった身のむしのおとしないので、
根おさえも、今は泣くべき形もなし、まぎれた身のむし小枝絶えたので
「め…目…女」「さまし…覚まし…冷まし」。「ねを…音を…根お…おとこ」「かた…方…方法…跡形…形…ものの形」「むし…秋の虫…身の虫…おとこ」「声…こゑ…小枝…おとこ」。
上の一首を「いとをかし」と聞ければよし。聞こえなければ、歌の半分以上埋もれたままよ。
和泉式部は、「ものをのみ思ひの家をいでて」(1286)・1456)などと詠む時、自らが、煩悩に身を焼くひと、火宅の人であることは、十分に承知している。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず