帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二569~571

2009-08-04 08:44:41 | 和歌

  



 藤原興風、よみ人しらずの寛平御時后宮の歌合の恋歌。併せて、小野小町のこの集にない歌を、言の心で聞きましょう。


  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       569~571


569
 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
               藤原興風
 わびぬればしひてわすれんとおもへども 夢といふ物ぞ人だのめなる

 悩むので、強いて恋をば忘れようとは思っても、夢というものが、あてにさせむなしくさせるのだ……おとろえたので、強いて乞いをば忘れようとは思っても、妄想というものぞ、空しくも求めてしまう。

 「わぶ…思い悩む…心細くなる…おとろえる…おちぶれる」「わする…忘れる…見捨てる…決別する」「ゆめ…寝て見る夢…煩悩の妄想」「人だのめ…見せかけの頼もしさ…期待させるがあてにならないようす」「なる…なり…断定の意をを表わす」。

 上一首。夢に寄せて、おとこの恋と乞いを詠んだ歌。



570
             よみ人知らず
 わりなくもねてもさめてもこひしきか 心をいづちやらばわすれん

 わけもなく寝ても覚めても恋しいことよ、心をどちらへ遣れば忘れるのでしょう……どうしょうもなく寝ても覚めても乞い求めるわ、この心、どこへ遣ったら忘れるの。

 「わりなし…わけがわからない…どうしようもないほど苦しい」「恋…乞い」「か…詠嘆・疑問を表わす」「心をやる…心を晴らす」「わする…忘れる…見すてる…決別する」。女の歌。



571
 こひしきにわびてたましひまどひなば むなしきからのなにやのこらん

 恋しさにつらくて魂惑うので、わたしは虚ろな殻となって、うわさには残るでしょうか……乞い求めおとろえて、たましい惑いでるならば、この君は空しい殻との名を残すでしょうよ。

 「恋…乞い」「わぶ…思い悩む…心細くなる…身おとろえる」「まどふ…惑う…うろたえる…途方にくれる」「から…殻…空」「名…うわさ…評判…名目…虚名」。女の歌。

 上二首。乞いざまを女の立場で詠んだ歌。歌合の歌なのに「よみ人しらず」とは変でしょう。女のこのような歌だから、匿名希望にしたのでしょうかね。



 こぐふねのかぢをなくして

 「後撰集」にもある小野小町の歌を、言の心で聞きましょう。原文、清げな読み、心にをかしきところの順に示す。

小野小町集33
 さだまらずあはれなる身をなげきて
 あまのすむ浦こぐ舟のかぢをなみ 世をうみわたるわれぞかなしき

 夫、定まらず、憐れなわが身を嘆いて、
 海人の住む浦漕ぐ舟の梶を失くして、世をうみ渡る、われぞ悲しい

 心、定まらず、憐れなわ我が身を嘆いて、
 尼のように澄む心、こぐふ根のかぢをなくして、夜を倦みすごすわたしがよ愛おしい。

 「あま…海士…尼」「すむ…住む…澄む…清む」「うら…浦…心」「こぐ…漕ぐ…かきわける…おしすすむ」「ふね…舟…ふ根…おとこ」「かぢ…梶…ふねの推進具…加持・加護」「うみ…海…倦み…うんざりして」「かなしき…悲しい…悲しい…愛しい」。

 後撰集では「さだめたる男もなくて物思ふころ」。歌をこのように聞けば、やまとうたは「人の心を種として、よろずの言の葉となった」という仮名序の貫之の言葉が思い出される。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず