こひのうた
躬恒、貫之、よみ人しらずの恋の歌。恋の心情をどのように詠んであるのでしょう。併せて、伊勢物語のこひの歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十一恋歌一
481~483
481
凡河内躬恒
はつかりのはつかにこゑをきゝしより なかそらにのみものを思ふかな
初雁の、かすかに声を聞いてより、われは空ごとばかり思っているなあ……初かりの、わずかにその声を聞いてより、虚ろの身、ものを思うかな。
「初雁…その秋初めて飛来する雁…初めてのかり」「鳥…女」「かり…狩り…刈り…漁り…めとり…むさぼり…まぐあい」「なかぞら…中空…中身の無い空しい…おとこの果て…筒」「のみ…だけ…限定…の身」。
上一首。初雁に寄せて、乞いにきわまり果てた男の思いを詠んだ歌。
482
貫 之
あふことはくもゐはるかになる神の おとにきゝつゝ恋ひわたるかな
逢うことは雲居のように遥かで、鳴る雷の音のようにうわさに聞きながら、恋つづけていることよ……合うことは心雲の果てしなく、なるひとの声に聞きつつ、乞いつづけることよ。
「あふ…逢う…合う…覯」「雲居…空の上…身分など高い…心の雲の居る…情欲などある」「はるか…遠い…果てしない」「なる…鳴る…泣く…成る」「神…上…女」「音…声」「つつ…反複・継続・並行している意を表わす」「恋…乞い…求め」「わたる…し続ける」。
上一首。鳴る神に寄せて、あふことについて詠んだ男の歌。
483
よみ人しらず
かたいとをこなたかなたによりかけて あはずはなにをたまのをにせん
片糸を、こちらあちらと縒りかけて、あわせなければ何を宝玉の緒にするのだろうか……かた井とを、こちらあちらに寄りかけて、合わずは何を、我が命とせん。
「かたいと…片糸…片井門」「かた…片…独り身…堅」「い門…女」「あはず…逢わず…合わず…和合せず」「玉の緒…宝玉を貫く緒…こと切れやすいもの…人の命」「緒…お…おとこ」。男の歌。
上一首。片糸に寄せて、あふことについての男の思いを詠んだ歌。
泡を緒に縒り結んだもので…
伊勢物語の、逢い合うことについて詠んだ歌を聞きましょう。
恋とは、逢えば亦逢いたい心よ、乞いして合えば又と思う股の心よ。
伊勢物語30
むかし、をとこ、はつかなりける女のもとに、
あふことはたまのをばかりおもほえて つらき心の長く見ゆらん
昔、男、逢うことが、わずかであった女の許に、
逢うことは、たまたまの玉の緒のように短くて、つらい心が長いと思うのだろうな……合うことは、偶々のおとことばかり思えて、つらい心が長く見えてるのだろうな。
むかし、おとこ、合うことがほんの少しであった女の下に、
「逢う…合う…和合する」「緒…を…おとこ」「見…覯…合…まぐあい」。
伊勢物語35
むかし、心にもあらでたえたる人のもとに、
玉の緒をあはをによりてむすべれば たえてののちもあはむとぞ思ふ
昔、心外にも、絶えてしまったひとの許に、
玉の緒を泡緒に撚りて、結んで絶えた、後も逢いたいと思うよ……たまのおを、泡緒に撚りかけ結んできれた、命絶えての後も合いたいとぞ思う。
以前、おとこ、心にもなく絶えてしまったひとの下に、
「玉の緒…大切だがこときれやすい…命」「逢う…合う」。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
こひのうた
壬生忠岑、貫之、元方の恋についての歌。その心情を聞きましょう。併せて、万葉集の春の歌を聞きましょう。はたして季節の春の景趣の歌かな。
古今和歌集 巻第十一恋歌一
478~480
478
かすがのまつりにまかれりける時に、ものみにいでたりける女のもとに、家をたづねてつかはせりける
壬生忠岑
かすが野の雪まをわけておひいでくる 草のはつかにみえしきみはも
春日の祭にでかけた時に、見物に出ていた女のもとに、家を訪ねて贈った歌
春日野の 雪間を分けて生え出くる草のように、初々しく見えたきみだことよ……春の野べの白ゆきの間を分けて極まり来るひとが、かすかに見えた、きみはあゝ。
かすかのまつりで間かりした時に、もの見にいでたった女のもとに、井へをたづねて遣った
「春日野…春、おとめおとこの集うところ…若菜摘み小松引くところ…春のひら野」「雪間…おとこ白ゆきの間…逝き間」「おひいで…生えでる…極まりくる」「おひ…生える…おい…年齢や感情などが極まる」「草…女」「の…比喩を表わす…主語を示す」「はつか…わずか…かすか…ほのか…初つか…恥づか」「見…覯…まぐあい」「きみ…女君」「はも…強い詠嘆を表わす」。
479
ひとの花つみしける所にまかりて、そこなりける人のもとに、のちによみてつかはしける
貫 之
山ざくら霞のまよりほのかにも みてし人こそこひしかりけれ
ひとが花摘みしていた所にでかけて、其処にいたひとのもとに、後に詠んで遣った歌
山桜、霞の間よりほのかにも見ていたひとこそ、恋しかったことよ……山ばのお花、か済みの間よりほのかにも見たひとこそが、もとめかりしたことよなあ。
ひとがお花つんだところに間かりて、底にいたひとのもとに、後に詠んで遣った
「山…山ば」「桜…木の花…男花」「霞…春霞…か済み」「か…接頭語」「間…時間…ものの間…女」「見…覯」「人…女」「こひ…恋…乞い…求め」「かり…あり…狩り…めとり…あさり…むさぼり…まぐあい」。
上二首。雪間、霞の間に寄せて、ひとのもの見のさまを男が詠んだ歌。
480
題しらず
元 方
たよりにもあらぬ思ひのあやしきは 心を人につくるなりけり
便りでもない思いが、不思議なのは、思う心がだ、人に届き着くことだったよ……頼りにもならないわが思い火が、あやしいのは、心をひとのために尽すことだなあ。
「たより…便り…頼り」「思ひ…思い…思い火」「心…思う心…情…情熱」「人…他人…女」「に…対象を示す…ために…原因理由を表わす」「つく…着く…届く…尽く」「る…自然にそうなる意を表わす…受身の意を表わす」。
上一首。思ひに寄せて、おとこのもの見のさまを詠んだ歌。
なきゆくなるは誰れ呼ぶ小鳥
万葉集でも、もの見のさまは、それとは見えないように詠まれてある。巻十春雑歌より一例。1827、1834。
歌の清げな姿と共に心にをかしきところを聞き、味わいたまえ。
春日なるはがひの山ゆ佐保の内へ 鳴きゆくなるは誰れよぶ子鳥
春日の羽交の山より佐保の内へ、鳴き往くのは誰呼ぶ子鳥……かすかに成る、羽根交わす山ばよりさおのうちへ、泣きゆき成るは誰呼ぶ小むすめ。
言の心は古今集の歌と同じ。
「かすが…春日…微か」「はがひ…羽かひ…羽を交わす…ちぎりをむすぶ」「山ゆ…山より」「山…山ば」「さほ…佐保…地名…さお…おとこ」「鳴く…泣く」「子鳥…ひな鳥…小鳥…小娘」「こ…子…小…可愛い」「鳥…女」。
梅花咲きちり過ぎぬしかすがに 白雪にはにふりしきりつつ
梅の花咲き散り過ぎた、しかしながらも白雪庭に降り敷きつづく……お花さき散り過ぎた、それでも白ゆき庭にふりしきつつ。
「梅花…木の花…おとこ花」「白雪…白ゆき…おとこの情念」「には…庭…場…女」「つつ…継続…筒…中空…尽き」。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
こひのうた
貫之、業平、よみ人しらずの恋の歌。どのような恋が歌われてあるのでしょう。併せて、伊勢物語99を読み、大人の男と女の言葉の心におかしきところを聞きましょう。
古今和歌集 巻第十一恋歌一
475~477
475
貫 之
世中はかくこそありけれ吹くかぜの めにみぬ人もこひしかりけり
女と男の世の仲は、こうしたものだったのだ、吹く風のように目に見ぬ人も恋しいのだなあ……夜の中は、こうしたものだったのだ、吹く心風が目に見ぬ人も、乞いし、かりするのだなあ。
「世…夜」「中…仲」「風…心に吹く風」「の…比喩を表わす…主語をしめす」「恋しかり…恋しくあり…こいしてかり」「こひ…恋…乞い…求め」「かり…狩…刈…あさり…むさぼり…まぐあい」。
上一首。風に寄せて、姿を目にせぬひとを恋い求めるさまについて詠んだ歌。
476
右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりけるくるまのしたすだれより、女のかほのほのかにみえければ、よんでつかはしける
在原業平朝臣
見ずもあらずみもせぬ人のこひしくは あやなくけふやながめくらさん
右近の馬場の予行演習の日、向かいに停まっていた牛車の下簾より、女の顔がほのかに見えたので、詠んで遣った歌
見知らぬでもない、見知ってもいないひとが恋しくて、我はぼんやりと、今日一日もの思いして暮らすのだろうか……見ずでもない、見てもいない人が恋しくは、みだれて京を長め、もの思いに耽ってくらそう、そうしょう。
「ひをりの日…ひ折りの日…衣を引折の日、緋おりの日、その姿から練習の日」「見…覯…合…まぐあい」「けふ…今日…京…山の頂上…山ばの極み…絶頂」「ながめ…眺め…長め…もの思いに耽る」「ん…む…だろう…推量の意を表わす…しょう…意志・勧誘の意を表わす」。
477
返 し
よみ人しらず
しるしらぬなにかあやなくわきていはん おもひのみこそしるべなりけれ
見知る見知らぬと、なんでわけもなく、ひとをば分けていうのでしょう、思い火だけが恋のしるべよ……しるしらぬ、どうしてよ、わけもなく分けていうのでしょ、思い火の身こそ、京へのしるべよ。
「しる…知る…見知る…まぐあいしる」「わきて…分けて…わけ入って」「思ひのみ…思火だけ…思火の身…情熱の炎の身」「しるべ…道標…恋路のみちしるべ…京へのみちしるべ」。女の歌。
上二首。みる、しるに寄せて、京での思いざまでひとを誘い、それに応じた歌。
後は誰と知りにけり
伊勢物語99には、次のようにある。
むかし、右近の馬場のひをりの日、むかひにたてたりける車に、女のかほの、したすだれより、ほのかに見えければ、中将なりけるをとこのよみてやりける。
毎年夏に行われる騎射行事の予行演習の日。中将であった業平の君、衣を折りあげ脚でも見せていたのでしょう、汗まみれの馬上の男を、向かいの車の中からひそかに見つめていたひとがいた、と思いたまえ。歌の、誘い方、応じ方を味わうべし。
伊勢物語99には、「のちはたれとしりにけり」とある。このひとの乞いざまを見たのちに、誰だったかわかったという。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
こひのうた
藤原勝臣、在原元方の恋の歌。恋心と乞う情が聞こえる。併せて、万葉集の恋の歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十一恋歌一
472~474
472
藤原勝臣
白浪のあとなき方にゆく舟も 風ぞたよりのしるべなりける
白波の航跡のない方へ行く舟も、風が頼りの路案内だったなあ……白なみの消えて跡もない方にゆくふ根も、心に吹く風が頼りのしるべだったなあ。
「白波…男波」「白…果ての色…おとこの色」「ふね…舟…男…夫根…おとこ」「風…海路に吹く風…心に吹く風」「たより…頼みとするもの」「しるべ…路案内…導くもの」。迷い恋の歌…迷い乞いの歌。
473
在原元方
をとは山をとにきゝつゝあふ坂の 関のこなたに年をふるかな
音羽山、うわさに聞きつつ、逢坂の関のこちらで、逢えず年を経ることよ……おと端の山ば、おとにききつつ、合う坂の関のこちらで、合えず疾しをふることよ。
「をとは山…音羽山…山の名、名は戯れる。音端山、はしたない声のする山ば、お門端の山ば、おとこととの山ば」「を…おとこ」「と…門…女」「逢坂…合坂…越えれば合う身又は宮こ」「としを…年を…疾しを…早過ぎるおとこ」「ふる…経る…振る…古る」。逢えない恋の歌…合えない乞いの歌。
474
たちかへりあはれとぞ思ふよそにても 人に心をおきつ白浪
立ち返りあわれとぞ思う、他所ながらひとに心を寄せていた、沖の白浪……たち返り、あはれとだ思う、よそにてだ、ひとに情を置きつ白らなみ。
「あはれ…強く心に感じる…ああはれ、哀れ、憐れ」「よそにて…遠くにて…他所にて」「人…女」「心…情念…魂…白玉」「おき…沖…置き…おくり置き」「白浪…白波…男波…おとこなみ」「白…おとこの色…果ての色」。隔たった恋の歌…隔たった乞いの歌。
上三首。舟、逢坂、白波に寄せて、男の恋と乞いのありさまを詠んだ歌。
万葉集も恋の歌に満ちている
巻第十一より、白波にちなんだ二首を聞きましょう。2726、2822。
清げな姿は字儀の通り。言の心も同じなので略す。
風吹かぬ浦に浪立ち名無しを われは負へるか逢うとは無しに
……心風吹かぬ、ひとのこころに波がたち、ななしおよ、われは果てたか合うとは無しに。
たくひれの白浜浪のよりもあへず 荒ぶる妹に恋つつぞ居る
……たくひれの白は間波の寄りもできず、すさぶるひとに、こいつつぞ折る。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
こひのうた
よみ人しらず、素性法師、紀貫之の恋についての歌。清げな姿にどのような心があるのでしょう。併せて、貫之、清少納言、俊成の、歌の言葉についての考えを、あらためて聞きましょう。
古今和歌集 巻第十一恋歌一
469~471
469
題知らず
よみ人しらず
ほとゝぎすなくやさ月のあやめぐさ あやめもしらぬこひもするかな
ほととぎす鳴くや、五月の菖蒲草、ひとは道理も知らない恋もするかなあ……ほと伽すなくや、さつきのあやめのひとよ、みだれた乞いもするかなあ。
「ほととぎす…郭公…且つ乞うと鳴く鳥…ほと伽す」「鳥…女」「なく…鳴く…泣く…無く…無くなって」「や…感動の意を表わす…疑いの意を表わす」「さつき…五月…さ月…さ突き…さ尽き」「さ…接頭語」「月…月よみをとこ(万葉集の歌語)…おとこ」「あやめ…菖蒲…草花…女…あや女…整って美しい女…文目・綾目…筋道・道理・分別」「草…女」「恋…乞い…且つ乞うさま」「かな…感嘆を表わす」。男の歌。
470
素性法師
おとにのみきくのしら露よるはおきて ひるは思ひにあへずけぬべし
話には聞く菊の白露、夜は置いても、昼はおもての日に堪えきれず消えるであろう……話にのみ聞くその白つゆ、夜は送り置いても、昼は思い火に、合えず消えるであろう。
「聞く…きく…草花…女花」「白露…白つゆ…おとこ白つゆ」「おき…天からおり…男が贈り置き」「おもひ…おもての陽…思い火」「あへず…敢えず…堪えられず…合えず…和合せず」「けぬ…消えてしまう…常にあるものではない」「べし…だろう…推量の意を表わす…当然そうなる意を表わす」。
471
紀 貫之
よしのがはいはなみたかく行く水の はやくぞ人を思ひそめてし
吉野川、岩波高く流れ行く水のように、はやくも人を思い初めたのだ……好しのかは、心波高くゆくひとが、はげしくも人を、思いそめたのだ。
「よしのがは…川の名、名は戯れる。良しの川、好しのかは」「川…女…かは…だろうか…疑問を表わす」「岩…女」「波…川波…ひとの心波」「ゆく…行く…逝く…果てる」「水…女」「の…のように…比喩を表す…が…主語を示す」「はやく…早く…激しく」「人を…男を…男のをを」「そめ…初め…染め…身に染む」。
上三首。草花、白露、水に寄せて、ひとの恋と乞いのありさまを詠んだ歌。
言の心を心得れば言の葉となった人の心の種が聞こえる。
貫之は序文でいう、歌のさまを知り言の心を心得える人は、古歌が恋しくなるだろうと。
言葉は字義だけではなく、色々な心(意味)を孕んでいる。それは心得るしかない。
清少納言枕草子にいう、同じ言だけれども聞き耳によって(意味の)異なるもの、それは、男の言葉、女の言葉、法師の言葉であると。
歌の言葉は女の言葉、一義に聞いて何とする。
藤原俊成は古来風躰抄にいう、歌の言葉は浮言綺語の戯れにも似ているけれど、そこに歌の趣旨が顕れると。
先ずは言の戯れぶりを知り、言の心を心得ましょう。
藤原公任は、優れた歌について、心深く、姿清げで、心にをかしきところがあるという。
これらのことを無視すれば、和歌の様を見失う。あらたに古歌の表現様式を見つけようと、歌のここまでは「序詞」とか、これとこれとは「縁語」だ「掛詞」だと、歌のそれらしく見える部分に名札を貼り付けても、歌は解けない。そんな名さえ、もとより平安時代にありはしない。間が違ってしまった歌の聞き方が、広く蔓延って数百年経つ、今も間違えたまま。
今の人々には、たぶん、この伝授の和歌の方が奇異に聞こえるでしょう。困ったことよ。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
■■■■■
都のよしか、大江千里、僧正聖寶のものの名をおりこんだ歌。どのような心の歌でしょう。併せて、大和物語42の或る法師の歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十 物名
466~468
466
をき火
都 良香
流れいづる方だに見えぬ涙かは をきひるときやそこはしられん
おき火
流れ出る方さえ見えぬ涙川、沖干る時に、底は知られようか……流れ出る方さえ見えない涙かは、男き干る時にか、其処は痴られるだろうなあ。
をき火
「をき火…沖火…奥火…女の思い火…男木火…おとこの思い火」。「涙かは…涙川…涙の女…涙かは?…おとこのなみだか」「川…女…かは…疑問の意を表わす」「沖…奥…女」「そこ…底…其処」「しられん…知られるだろう…痴られるだろう…愚か物とされるだろう」。
上一首。涙川に寄せて、ひとのそこしれぬゆきざまと、おとこのはかなさを詠んだ歌。
467
ちまき
大江千里
のちまきのおくれておふるなへなれど あだにはならぬ田の実とぞきく
粽
後蒔きの遅れて生える苗だけど、無駄にはならぬ、頼みの田の実と聞いている……後まきの、遅れて極まる汝枝なのに、あだにはならぬ頼みの身と効く。
ちま木
「ちまき…粽…ちま木…男木…おとこ」。「のちまき…時季を少し後にずらして種を蒔くこと…たねを散らすのを遅らせること…後まきのおとこ」「おふ…生える…追う…ものの極みに至る…感極まる」「苗…汝枝…我がおとこ」「田の実…多の身…頼み身」。
468
はをはじめ、るをはてにて、ながめをかけて時の歌よめと人の言いければよみける
僧正聖寶
はなのながめにあくやとてわけゆけば 心ぞともにちりぬべらなる
はを初めに、るを果てにて、眺めをかけて時の歌詠めと人が言ったので詠んだ歌
花の眺めに飽きるかなと分け行けば、花と共に心も散ってしまいそうだ……お花の長めの見に、飽き満ちるかなと、かき分けゆけば、お花と共に、おとこ心も散ってしまうだろう。
はを初めに、るをおしまいに、長めを掛けて、その時の歌を詠めと人が言ったので詠んだ
「はる…春…張る…春情」「時の歌…季節の春の時の歌…情の春の時の歌」「ながめ…眺め…長め」。「花…おとこ花」「ながめ…眺め…長め…もの思いに耽る」「飽くやとて…ひとが飽き満ち足りるかと」「心…情…おとこの情」「ちる…散る…果てる」「べらなり…そうなりそうだ…そうなるのだろう」。
上二首。田の実、花に寄せて、お花を強がるさま、あだなるさまを、それぞれ男と僧が詠んだ。
何を種に心極まりましたか
ものの名(評判)の巻の最後に、大和物語42の或る法師の歌を聞きましょう。
ゑしうと言ふ法師の、あるひとの、おほむつかうまつりけるほどに、とかく世中に言ふことありければよみたりける、
さとはいふ山にはさはぐしら雲の そらにはかなき身とやなりなむ
となむありける。又、このひとのもとによみたりける、
あさぼらけ我身はにはのしもながら なにをたねにて心をひけむ
ゑしうと言う法師が、或る御ひとの御奉仕してさしあげていたときに、とかく女と男の仲について、言うことがあったので詠んだ歌、
このように言われる、山では騒ぐ白雲が、空しくはかない身となるだろうと……さ門は言う、山ばで騒ぐ白くもが、ひとにはかない身となるのかしら。
とあった。又、この御ひとのもとに詠んだ歌、
朝ぼらけ、我が身は庭の霜ですが、何を種にてあの心が芽生えたのでしょう……浅ぼらけ、我が身はにわのしもながら、あなたは何を種にして心極まりましたでしょうか。
「おほむつかうまつる…お仕え申しあげる…ご奉仕してさしあげる…ご行為なされる」。「さと…そうと…里…女…さ門」「白雲…おとこの情欲…おとこの煩悩」「そら…天…女…空…空しい」。「には…庭…ものごとの行われるところ…女」「しも…霜…下…しもべ」「をひ…おい…生える…極まる」。
以上で、古今和歌集、巻第十、物名四十七首の伝授を終える。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
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源忠、よみ人しらず、在原滋春のものの名をおりこんだ歌。どのような余情があるのかな。併せて、伊勢物語45の歌を二首、言の心を心得て聞きましょう。
古今和歌集 巻第十 物名
463~465
463
かつらのみや
源 忠
秋くれど月のかつらのみやはなる ひかりを花とちらすばかりを
桂の宮
秋来ても月の桂の実は成るか、光を花と散らすだけだよ……飽き来ても、月人壮士の且つらのみとかは成るのかな、おし照る光を、お花と散らすばかりだよ。
且つらの身や
「かつらのみや…宮殿の名、名は戯れる。桂の実や、且つらの身や、且つらの見や」「桂…月に生える木…男木」「且つ…さらにまた」「ら…状態を表わす」「や…疑問…詠嘆」。「秋…飽き」「月…月人壮士(万葉集の表記)…男…おとこ」「実…身…見…覯」「なる…生る…成る」「光…月光…栄光、威光、男の輝き、魅力など、光る源氏の光る」「花…おとこ花」「を…詠嘆、感嘆を表わす」。
464
はくわかう
よみ人しらず
花ごとにあかずちらしし風なれば いくそばくわがうしとかは思ふ
百和香
花毎に飽き満ち足りぬまま散らした風だから、どれほどに、ひどいと思ったことか……お花さく毎に、飽き満ち足りないのに散らした心風なんだから、どれほどわたしが、つらがってきたと思うのよ。
白和こう
「はくわかう…百和香、香の名。戯れて、百和合、白和合、百引く一の和合、九十九の和合」。「花…おとこ花」「風…心に吹く風」「憂し…いやだ…つらい…つれないのでうらめしい…ものたりないのでつらい」。女の歌。
上二首。月、風に寄せて、おとこの散りざまを、それぞれに詠んだ歌。
465
すみながし
在原滋春
春かすみなかしかよひぢなかりせば 秋くるかりはかへらざらまし
墨流し
春霞、中に通い路無かったら、秋に来る雁は帰らないだろうに……春が済み、長し通い路無くなれば、飽きくるひとのかりはくり返さないだろうにな。
済み無かし
「すみながし…墨流し…済み無かし…す身長し」「す…女」「かし…強める言葉」。「春…張る…春情」「なかし…中し…長し」「し…強める言葉」「路…女」「秋くる…飽き繰る…飽き満ち足りを繰り返す」「かり…雁…鳥…女…狩り…刈り…あさり…むさぼり」「かへる…帰る…返る…繰り返す」「かへらざらまし…かえらずだろうにな…打消し・仮想する意を表わし、希望の意を込める」。
上一首。通い路に寄せて、ひとのゆきざまを、詠んだ歌。
あき風吹くとかりに告げてくれ
伊勢物語45は、「人のむすめのかしづく」が「ものやみになりて、しぬべき時」の話。
他人の娘の、愛育されていたのが、ある病となって死ぬという時の話と読むのは、もの語りの清げな姿。同時に、ひとのむすめの愛育していたのが、もの止みとなった時の話と読む。いせもの語りを、一義に読めば、紫式部に笑われるよ。
この物語に、ひとのゆきざまを詠んだ男の歌二首が添えられてある。その心を聞きましょう。たぶん業平の作。ひとのむすめが逝ったあとも且つらと見えたので詠んだ歌。
ゆくほたる雲のうへまでいぬべくは 秋風ふくと雁につげこせ
逝く蛍、雲の上までゆくならば、秋風吹いていると雁に告げてくれ……逝くほたる、心雲の上までゆくならば、我が心には厭き風吹いていると、かりひとに告げてくれ。
くれがたき夏のひぐらしながむれば そのこととなく物ぞかなしき
暮れ難き夏の日暮らし長めれば、そのことでなく、なんだかかなしい……はて難き熱き日々を長見れば、そのことでなく、我がものがものがなしいよ。
「ほたる…秋に逝く夏虫…ほ垂る…お萎える」。「雲…心に煩わしくも湧き立つもの…情欲…煩悩」「雁…鳥…女…かり…あさり…むさぼり…まぐあい」。
ついでながら、源氏物語に雲井雁というひとが登場するようだけれど、どのような女性かな、情が深く子などあまたいらっしゃって、嫉妬も深く、男君を嘆かせていないかな。そんな人を登場させ、そんな名を付けた紫式部こそ、いみじきひとよ。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
貫之、忠岑のものの名をおりこんだ歌。心におかしきところを聞きましょう。併せて、伊勢物語の、おとこのさがの歌を聞きましょう。さらに、枕草子の「野は」も。
古今和歌集 巻第十 物名
460~462
460
かみやかは
貫 之
むばたまのわがくろかみやかはるらん かゞみのかげにふれるしらゆき
紙屋川
うばたまの我が黒髪が、変わるのだろうか、鏡の影に降る白雪よ……うばたまの夜の我が妻や、変わるだろうか、彼が身の陰に降った白ゆき。
かみやかは
「かみ…紙…髪…神…上…女」「や…屋…女…疑問の意を表わす」「かは…川…女…疑問・反語の意を表わす」。「むばたまの…黒や夜の枕詞」「髪…かみ…女…妻」「かはる…変化する」「鏡…彼が身…ひとの身…おとこの身…屈身…萎えた身」「かげ…影…映像…陰…隠れたところ」「白雪…白髪…白ゆき…おとこの情念」。
461
よどかは
あしひきの山辺にをれば白雲の いかにせよとかはるゝ時なき
淀川
あしひきの山辺に居れば、白雲が我にどうせよというのかな、晴れるときがない……あしひきの山ばのすそ野にもの折れば、白きわが雲どうせよとかな、ものはる時なし。
よどむかは
「よど…淀…よどむ…ことが進まない」「かは…川…女…疑問」。「あしひき…山の枕詞」「山…山ば」「をる…居る…折る…挫折する…逝く」「白…おとこの色…白じらしいもののはて」「雲…心に煩わしくも湧き立つもの…情欲など」「はるる…晴るる…張るる」。
462
かたの
忠 岑
夏草のうへはしげれるぬま水の ゆく方のなきわがこゝろかな
交野
夏草が上に繁ってる沼水のよう、行方のない我が心かな……なづむひとが、上は繁れる沼水のよう、ゆくすべのない我が心だなあ。
片野
「かた野…狩野…交野…片野」「野…ひら野…山ばでないところ」。「なつ…夏…繁る…なづ…泥づ…ゆきわずらう」「草…女」「しげる…繁る…たびかさなる…頻りである」「沼水の…泥沼のよう」「沼・水…女」「の…比喩を表わす」「ゆくかた…行く方…行く方法…分け入るてだて」。
上三首。白雪、白雲、沼水に寄せて、おとこの白と、ひとのゆきよどむさまを詠んだ歌。
野に出でてかるぞ侘びしき
伊勢物語52。
むかし、をとこありけり。人のもとより、かさなりちまき、おこせたりける返事に、
あやめかりきみは沼にぞまどひける 我は野にいでてかるぞわびしき
もの語りの清げな姿は、ちまたで解き明かされてあるとおりだから略す。言の心で読む、
むかし、おとこ健在だった。ひとのもとより、重なりちまきをよこした。その返事、
あや女かりして、きみは泥沼で惑うたのだなあ、我はひら野にいでて涸れるぞ侘びしい。
「かさなり…重なり…重ねてのものの要求を示す」「ちまき…粽…おとこのかたち」「ぬま…しげれる沼…ゆき泥む沼…情欲の泥沼」「野…ひら野…山ばでないところ」「かる…刈る…枯る…涸る」「わびし…気抜けする…よわつてしまう…つらくてやりきれない」。
野は、さがの、さらなり。(以下略)。
野は、嵯峨野、いまさら言うまでもない……ひら野は、おとこの性野、ひとは更にというそうよ。
「さら…更…二度目…かさねてもう一度」「なり…断定を表わす…伝聞を表わす」。
枕草子162より、野の名の戯れの、ほんの一例。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
兼覧王、阿保経覧、伊勢のものの名をおりこんだ歌。清げな姿と心におかしきところを聞きましょう。併せて、枕草子と万葉集より、ほぼ同じ題と心のうたを聞きましょう。
古今和歌集 巻第十 物名
457~459
457
いかゞさき
兼覧王
かぢにあたる浪のしづくを春なれば いかゞさきちる花とみざらむ
いかが崎
櫂に当たる波の雫を、春だから、どうして咲き散る花と見ないだろうか……か路にあたる汝見の滴を、春成れば、どうしてさき散るお花と、ひとは見なさないのだろうか。
如何咲き
「さき…所の名の崎…あと先の先…お花の咲き」。「かぢ…楫…舟の推進具…おとこ…か路…彼の路…女」「浪…思いの波…あだ波…汝見」「春…情の春…張る」「花…おとこ花」「見ざらむ…みないだろう…みなさないのだろう…みないのだろう」「見…覯…まぐあい」。
458
からさき
阿保経覧
かのかたにいつからさきにわたりけん 浪ぢはあとものこらざりけり
唐崎
彼の方に、いつ唐崎に渡ったのだろう、波路は跡も残らないことよ……あの方に、我はいつから先にわたったのだろう、なみ路は跡も残らなかったなあ。
空咲き
「からさき…唐崎…空咲き」。「かの方…彼の方…向こう岸…逝くところ」「さき…崎…咲き…先…先発」「わたる…川など渡る…通り過ぎる…目的とするところへ行く」「浪路…水路…女の路…汝身路」「波…思いの波」「ぢ…路…女」「跡…航跡…ふ根のいった跡」。
上二首。波の雫、波路に寄せて、おとこのはかないさがと、ひとのそれとの差を詠んだ歌。
459
伊 勢
浪の花おきからさきてちりくめり 水の春とは風やなるらむ
唐崎
波の花、沖のほうから、咲いては散って来るようね、水の春とは風により成るのかしら……なみのお花、奥から咲いて散りくるようね、ひとの春とは、心に吹く風が成るのかしら。
空咲き
「波…思いの波…汝身…汝見」「花…おとこ花」「沖…奥…女…心の奥…身の奥」「水…女」「春…季節の春…春の情」「風…心に吹く風」「なる…春になる…春の情が成る」。
上一首。波花に寄せて、男波とひとのゆきざまを詠んだ歌。
うたの言は浮言綺語の戯れ
枕草子269・270より、ほぼ同じ題と心のうた。
さきは、からさき、みほがさき。
屋は、まろや、あづまや。
崎は、唐崎、みほが崎……咲きは、空咲き、見おが先。
屋は、まろ屋、あづま屋……ひとは、そのままよ、あが妻でしょうが。
「さき…崎…咲き…先」「から…唐…空」「ほ…お…おとこ」。「屋…女」「まろ…まるまる…素朴」「や…感嘆詞…疑問詞」。
万葉集巻第七に古集出として載せられてある、ほぼ同じ題と心の歌。
大舟を荒る海にと漕ぎ出でて 八ふね多気 あが見しこらがま見はしるしも
「舟…ふ根…おとこ」「見…覯」「こ…子…娘子」「ら…複数を表わす…親しみを表わす」「しるし…験…効果…汁し」「しるしも…しるしなりとも…しるしたかなあ」。旋頭歌。男の歌。
ももしきの大宮人の踏みし跡 奥つ波 来よせざりせば失せざらましを
「大宮人…おお見や人…大身や人」「失せざらましを…失せてしまうでしょうが…何が多気よ気が失せてしまうでしょうが」。旋頭歌。女の歌。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
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紀乳母、兵衛、安倍清行の物の名をおりこんだ歌。どのような余りのこころがみられるかな。併せて、枕草子のものの名の羅列を紐解きましょう。
古今和歌集 巻第十 物名
454~456
454
さゝ まつ びは ばせをは
紀乳母
いさゝめに時まつまにぞひはへぬる 心ばせをば人に見えつゝ
笹、松、枇杷、芭蕉葉
すこしの時と待つ間によ、日は経った、心のうちをば、あの人に見せていて……ほんのちょっと、その時待つ間に、思い火はすぎてしまった、その気をばひとに見せつつ。
ささ、待つ日よ、初背をば
「ささ…笹…さあさあ…細…すこし」「まつ…松…待つ…待つ女」「ひは…枇杷…日は…火は」「ばせをば…芭蕉葉…はせをば…初背おば…初めての男をは」。「へぬる…経ぬる…経過してしまった…すぎてしまった」「心ばせ…気のあるぞぶり…情のあるさま」「見…覯」「つつ…つづける…反復・継続の意を表わす…詠嘆の意を表わす…筒…中空…むなしい」。
上一首。ものに寄せて、不満な女の思いを詠んだ歌。
455
なし なつめ くるみ
兵 衛
あぢきなしなげきなつめそうき事に あひくる身をばすてぬものから
梨、なつめ、胡桃
つまらない、嘆きつめるな、憂きことに繰り返し遭う身をば、いちいち捨てて、おれませんから……こんなはずではと、嘆きつめるな、浮きことに合い繰る身をば、捨てられないもの。
無し、なづ女、くる見
「梨…無し」「なつめ…果実の名。泥づめ、ゆきなずむ女」「め…女」「くるみ…果実の名。繰る身、繰り返す身、来る見、山ば来る覯」。「あぢきなし…不満だ…どうしょうもない」「あひくる…遭い繰る…繰り返し厭なことに遭遇する…合い繰り返す」「身をば捨てぬ…嘆きの池などに身を捨てられない…合い繰り返す身をば捨てられない」。
上一首。ものに寄せて、不満な心地と、浮き見を捨てられぬ女の思いを詠んだ歌。
456
からことといふ所にて春のたちける日よめる
安倍清行朝臣
浪のおとのけさからことにきこゆるは 春のしらべやあらたまるらん
唐琴という所にて立春の日に詠んだ歌。
波の音、今朝から異に聞こえるは、春の奏でる調べでも、新たになっているのだろうか……波のおと、今朝空事に聞こえてるのは、張るの調子でも、変わったせいか。
空事というところで、はるが絶った日に詠んだ
「波…岸に寄る波…男波…片男波…岩に砕けるあだ波」「からこと…唐琴…空事」「春…季節の春…春情…張る」「あらたまる…改まる…よくなる…革まる…わるくなる」「らん…らむ…推量を表わす…原因・理由の推量を表わす」。
上一首。波に寄せて、おとこ波の片男波ぶりを嘆いてみせた歌。
名の羅列と侮るなかれ
枕草子には、ものの名を色々と羅列してある。そのおかしさを紹介しましょう。すでに述べたものも含めて幾つか示す。これは、ほんの一例。
七八九月十一二月。 第2段
七、八、九月、十、一、二月……なな、やあ、ここのつき・長突き、とほほ、余りひとふたつき。
「月…ささらえをとこ…突き」
みねは、ゆづるはのみね、あみだのみね、いやたかのみね。12
峯は、譲る葉の峯、阿弥陀の峯、いや高の峰……山ばは、于つる端の頂き、無量寿の頂き、いやあ高い山ば。
「峯…絶頂」「ゆつる…于つる…いってしまった」。
はらは、みかのはら、あしたのはら、そのはら。13
原は、みかの原、朝の原、園原……ひら野は、身かの腹、あくる朝のはら、其の腹。
「原…山ばでないところ…腹…心地」「み…身…見…覯」。
海は、水うみ、よさの海、かはぐちのうみ、いせの海。15
海は、湖、よさの海、川口の海、伊勢の海……憂みは、見ず憂身、よさの憂み、かわ口の憂み、井背の憂み。
「海…女…憂身」「川…女」「いせ…女と男」「い…伊…井…女」「せ…勢…背…男」。
文芸の上半身を見ただけで、誰も「をかし」とは言わない。情半身も下半身もお見逃しなく。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず