帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三628~631

2009-08-31 07:57:27 | 和歌
  



 壬生忠岑、御春有助、在原元方、よみ人しらずの恋歌。併せて、忠岑の子息、壬生忠見の恋歌を聞きましょう。それぞれどのような心にをかしきところがあるのでしょう。


  古今和歌集 巻第十三恋歌三
       628~630

628
 題しらず
                忠 岑
 みちのくにありといふなるなとり川 なきなとりてはくるしかりけり

 陸奥にあると言われる名取川、事実ではない評判とっては、苦しいことだなあ……みちの奥にあると言われる汝取りかは、亡き汝取っては、苦しいかりだなあ。

 「みちのく…陸奥…未知の奥…路の奥」「路、奥…女」「な…名…評判…噂…汝…おとこ」「とり…評判をとる…噂がたつ…汝を取り込む」「川…女…かは…疑問の意を表わす」「なきな…無き名…無実の噂…亡き汝…亡きおとこ」「かり…あり…狩り…求め楽しむ」。



629
      御春有助(みはるのありすけ)
 あやなくてまだきなき名のたつた川 わたらでやまん物ならなくに

 道理なく、早すぎる無実の噂が立ったかは、広がらず止むものではないだろうなあ……筋は通らず、その時でもない亡き汝が立ったかは、ひとのもとへと渡らずに、止まる物ではないからなあ。

 「なきな…無き名…無実の噂…亡き汝…ゆき伏した物」「川…女…かは…疑問の意を表わす」「わたる…渡る…広がる…ひとの許へ行く」。

 上二首。なとり川、たつた川に寄せて、おとこのこいざまを詠んだ歌。



630
                元 方
 人はいさ我はなき名のをしければ 昔も今もしらずとをいはむ

 他人は知らない、我は亡き後の名を大事にしたいので、昔も今もあなたのことを、知らないと言いますよ……ひとはさあどうか、我は亡き物が愛しいので、むかしも今も、しらしめていると言うだろう。

 「なきな…無き名…無実の噂…亡き汝…折れ逝ったもの」「をし…惜しい…愛しい」「しらず…知らず…関係無い…知らす…お治めになっている…厳然と存在している」。



631
             よみ人しらず
 こりずまに又もなき名はたちぬべし 人にくからぬ世にしすまへば

 懲りもせぬ間に、又も無実の噂は立ったらし、他人の事は大好きな世に、住んでるので……性懲りも無く、またも亡き汝は立ったようねえ、ひと憎からぬ夜に、すもうしてるので。

 「なきな…無き名…無実の噂…亡き汝…先ほど折ったもの」「また…復…又…股」「人憎からぬ…他人の噂が好きな…ひとのことが好きな」「世…夜」「すまふ…住まう…相撲する…とっくみあう」。女の歌。

 上二首。なき名に寄せて、性懲りも無いこいざまを詠んだ歌。



 我が汝はまだき立ちにけり

 忠岑の子、壬生忠見の歌を、同じ言の心で聞きましょう。


天徳四年三月三十日内裏歌合二十番左。(西暦960年)
 こひすてふわがなはまだきたちにけり 人しれずこそ思ひそめしか

 恋をしているという噂は早くも立ったことよ、人知れずあのひとを思い初めたのに……乞いしてるという我が汝は早くも絶ったなあ、ひと知れず思い染めたのだ。

 「こひ…恋…乞い」「な…名…評判…汝…おとこ」「たち…立ち…絶ち」「人…他人…女」「そめ…初め…染め…白染め」。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三625~627

2009-08-30 07:15:01 | 和歌

  



 壬生忠岑、在原元方、よみ人しらずの恋歌。どのような心にをかしきところがあるのでしょう。併せて、伊勢物語72を同じ言の心で読みましょう。


  古今和歌集 巻第十三恋歌三
       625~627


625
 題しらず
               壬生忠岑
 晨明のつれなくみえし別れより あか月ばかりうき物はなし

 明け方の、ひとのつれなく見えた別れより、暁ほどつらいものはない……早朝のつれなくまみえた別れより、あか尽きほどにつらい物はない。

 「晨明…明け方…日の明りのはじめ…月明かりの残り」「つれなく…薄情に…連れもて逝かない」「みえし…目に見えた…思った…覯した」「あかつき…暁…赤尽き」「赤…元気色」「つき…月…おとこ…尽き…尽き果て」「うき…憂き…辛い…いとわしい…うらめしい」「もの…こと…物…おとこ」。

 上一首。月に寄せて、逢って合えないこいを詠んだ歌。



626
               在原元方
 逢ふ事のなぎさにしよる浪なれば うらみてのみぞたちかへりける

 逢う事が渚に寄せる男波だから、浦見ただけでたち帰ったなあ……合うことが、ひとのなぎさに寄せる心波だから、裏見ての身ぞ、起ち返るのだなあ。

 「逢…合」「なぎさ…渚、浜、岸…女」「浪…男波…女の心波」「うら…浦…裏…心」「うらみて…恨んで…くり返し見て」「見…覯…まぐあい」「たちかへり…たち返り…起ち返り…再三再起」「ける…けり…過去・詠嘆・気付きなどを表わす」。
伊勢物語の業平の孫の歌。



627
             よみ人しらず
 かねてより風にさきだつなみなれや あふことなきにまだきたつらん

 以前より風に先だつ波なのね、逢ってもいないのに、はやくも立ったらしいわね……まえまえから心の風に先発つ汝身なのね、合うことなしに、まだなのに、どうして絶つのかしら。

 「風…心に吹く風」「なみ…波…男波…汝身…並み…普通のおとこ」「あふ…逢う…合う…和合する」「まだき…その時でないうちに…早くも」「たつ…立つ…発つ…絶つ」「らん…推量を表わす…原因・理由を推量する意を表わす」。女の歌。

 上二首。浪に寄せて、それぞれの立場で詠んだ、逢って合えない乞いの歌。



 うら見ただけで帰る並みなのね

 伊勢物語72の、波に寄せた、女の歌を聞きましょう。原文、清げな読み、心にをかしき読み、言の戯れと言の心の順に示す。


伊勢物語72
 むかし、をとこ、伊勢のくになりける女またえあはで、となりのくにへいくとて、いみじううらみければ、女、
 おほよどの松はつらくもあらなくに うらみてのみもかへるなみかな


 昔、男、伊勢の国の女に、もう一度逢うことが出来なくて、隣の国へ行くといって、とっても恨んだので、女、
 大淀の松は、ひどく薄情でもないのに、君は浦見ただけで返る浪なのねえ


 昔、おとこ、いせの国の女に、また合えなくて、終わりの国へ逝くといって、とっても恨んだので、女、
 大いに淀み待つひとは、ひどく薄情でもないのに、君は裏見て帰る並みなのね

 「伊勢の隣の国…尾張…終わり」「あふ…逢う…合う…和合」「淀…女…よどんでる…はげしくない…ゆっくりしている」「松…待つ…女」「うら…浦…裏…表と裏の二度」「なみ…浪…男波…汝身…並み…へいぼんなおとこ」。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三622~634

2009-08-28 07:36:57 | 和歌

  



 在原業平、小野小町、源宗于の恋歌。どのような乞いのこころが詠まれてあるのでしょう。併せて、伊勢物語25を詠みましょう。


  古今和歌集 巻第十三恋歌三
       622~624


622
 題しらず
               業平朝臣
 秋ののにさゝわけしあさの袖よりも あはでこしよぞひぢまさりける

 秋の野で笹分けた朝の袖よりも、逢えなくて帰り来た夜ぞ、涙に濡れ勝ったことよ……飽きのひら野で、ささ分けた朝の身の端よりも、合わなくて山ば越した夜ぞ、ぬかるみましたよ。

 「秋…飽き…飽き満ち足り」「野…山ばでないところ」「ささ…笹…しかじか…然々…それあれ」「わく…分け入る…分け出る」「袖…そで…端」「あふ…逢う…合う」「あはで…あえないで…あわずに」「こし…帰り来た…山ば越した」「ひつ…水に浸かる…涙に濡れる」「ひぢ…泥…ぬかるみ」。



623
              小野小町
 見るめなきわが身をうらとしらねばや かれなであまのあしたゆくくる

 みるめ無き、わが身を、そんな浦とは知らないからか、刈れもせず、海人が朝行き来する……見るめなき、わが身を、そんな心と知らないからか、かれもせず、あまの吾下ゆくくる。

 「見るめ…海松布、海藻の名…見る目…見る機会…見るみこみ…見るめ」「見…覯…まぐあい」「め…女」「うら…浦…裏…心」「かれなで…離れないで…刈れないで…涸れないで」「刈る…狩る…求め楽しむ…むさぼる…まぐあう」「あま…海士…海女…あ間」「間…女」。

 上二首。袖、浦に寄せて、男と女がそれぞれに詠んだ、合わないこいの歌。



624
             源宗于朝臣
 あはずしてこよひあけなば春の日の ながくや人をつらしとおもはん

 逢わずして、今宵明けたなら、春の日のようにながく、ひとをひどいなあと思うだろうよ……合わずして、こ好いはてたなら、張るの火の長くとか、人のをを、ひどいと思うだろうな。

 「逢わず…合わず…和合せず」「あけ…夜明け…期限切れ…はて」「はる…春…張る…春情」「ひ…日…火…情熱の火」「人を…女を…男を…おとこを」「つらし…ひどい仕打ちに耐え難い…情が浅くいやだ」。

 上一首。春の日に寄せて、今なりひらとも言うべき人が、合わない乞いについて詠んだ歌。



 合わずやまば越した夜ぞぬかるみ増したよ

 伊勢物語25では、業平と小町の歌は、直に交わされた歌のように、次のように語られてある。原文、清げな読み、心にをかしき読みの順に示す。


 むかし、をとこありけり。あはじともいはざりける女の、さすがなりけるがもとに、いひやりける。
 秋ののにさゝわけしあさの袖よりも あはでこしよぞひぢまさりける
 色好みなる女、返し、
 見るめなきわが身をうらとしらねばや かれなであまのあしたゆくくる


 昔、男がいた。逢わないとも言わなかった女の、そうであっても、その通りでもなさそうなもとに、言ってやった。
 秋の野で笹分けた朝の袖よりも、逢えなくて帰り来た夜ぞ、涙に濡れ勝ったことよ
 色好みなる女、返し、
 海松布のないわが身を、そんな浦とは知らないからか、刈れもせず海人が朝行き来するわ


 昔、おとこがあった。合わないとも言わなかった女の、そうであってもそうでもなさそうなもとに、言ってやった。
 飽き満ちたひら野で、ささ分けた出た朝の身の端よりも、合わなくて山ば越した夜ぞ、ぬかるみ増したことよ。
 色好みなる女、返し、
 みるめなきわが身を、そんな心と知らないからか、かれもせず、あまの吾下、ゆきき繰り返す


 今の人々は、清げな読みにて止まっているでしょう。歌の言葉に限らず、言葉は聞耳により意味が異なるものと思えるほどに戯れるもの。貫之のいう「言の心」を心得ることの他に、歌の心に近づく手立てはない


 四条の大納言藤原公任は、最も優れた歌を「ことばたへにして、あまりの心さへあるなり」と評した(和歌九品)。即ち「言葉の用い方が絶妙で、歌には心にをかしき余情さえある」という。

 やがて、言葉の戯れを逆手に取った和歌という文芸が、すばらしいと思えるでしょう。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三619~621

2009-08-27 07:22:25 | 和歌

  



 よみ人しらずの恋歌。内一首は人麻呂の歌という。併せて、万葉集の、人麻呂の死を知らされた妻の歌を聞きましょう。


  古今和歌集 巻第十三恋歌三
       619~621


619
 題知らず
             よみ人しらず
 よるべなみ身をこそとほくへだてつれ 心は君が影となりにき

 寄る辺がなくて、身は遠く隔ててしまった、心は君の影ぼうしとなった……たよる処なくて、身おこそは、遠く隔てて、心は君の面影
ばかりになってしまった。

 「よるべなみ…寄り付く辺りなくて…頼りとするところがなくて」「身を…身お…おとこ」「こそ…強調する意を表わす…子そ…おとこよ」「とほくへだてつれ…遠くへ隔てた…遠いところへ旅に出た…いでていった」「かげ…影ぼうし…おもかげ…実体のないもの」。

 上一首。女の歌。



620
 いたづらに行きてはきぬるものゆゑに みまくほしさにいざなはれつゝ

 いたづらに行っては来たことなのに、逢いたさ見たさに誘われつづけて……いたづらに往来した物のせいで、見たさ欲しさに誘われつづけて。

 「いたづら…悪戯…出来心」「ゆきてはきぬる…行き来した…通った…逝き起した」「きぬる…返って来た…山ばなどがきた」「ものゆゑに…ことなのに…物が原因で…おとこが原因で」「見…覯…合」。

 上一首。男の歌。

 伊勢物語65では、事あって遠い国へ流された男、その魂は夜毎に女の許へ飛んで来るが、お仕置きのため蔵に閉じ込められた女に逢えない。女は帝に仕えるための修行中だった。男は遠い国にあって、この歌を詠んだという。



621
 あはぬ夜の降る白雪とつもりなば 我さへともに消ぬべきものを
           このうたは、ある人のいはく、柿本人麻呂が歌なり

 逢わない夜が、降る白雪のようにつもるので、我さえ共に消えるのだろうな……合わぬ夜が、ふる白ゆきとなりつもるので、我さえともに、消えるのだろうなあ。
           この歌は、或る人の言うには、柿本人麻呂の歌である。

 「逢わぬ…妻と逢っていない…妻と合っていない」「白雪…白ゆき…おとこ白ゆき…おとこの情念」「と…として…となって…とともに」「つもる…雪が積もる…月日が重なる…おとこ白ゆきつもる」「消ぬ…消えてしまう…死んでしまう」「べき…にちがいない…ことになっている…推量・予定などの意を表わす」。

  上一首。白雪に寄せて、みやこにのこした妻と再びはあえぬこいの歌。


 石川の貝にまじりて在りと

 柿本人麻呂は、和泉式部の言うように、柿が遠い国へ流れ流れて梨となった人。即ち流されて消えた人。

 万葉集には、人麻呂の死の知らせを聞いた時の、人麻呂の妻の悲痛な歌がある。次のように聞くと、人麻呂の歌も、より心が伝わるでしょう。

 万葉集巻第二224・225 柿本朝臣人麻呂死時妻依羅娘子作二首
 且今日且今日とわが待つ君は石川の貝に交じりてありと言はずやも

 今日か又は今日かと、わが待つ君は、その辺の川の貝に交じって健在だと言ってくれないのかあ……且つ今日且つ京かと、わが待つ君は、その辺の女のかいに交じりて健在だよと、言っておくれ否、言わないであゝ。

 「且…また…そのうえ…なおも」「けふ…今日…期日…京…極まったところ」「石川…ありふれた川の名…その辺りの女」「石、川(水)、貝(峡・谷)……女」。

 直にあふはあひかつましじ石川に 雲立ちわたれ見つつ偲ばむ

 ただに逢うことは叶わないでしょう、石川に雲立ち渡れ、見つつ君を偲びましょう……直に相合えないでしょう、いし川に君の心雲立ち渡れ、見つつ偲びましょう。

 「石川…女川…女…わたし」「雲…心に湧き立つ諸々の思い…君の思い…君の情念…君の魂」「見…覯…合」。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三617~618

2009-08-26 07:43:55 | 和歌

  



 敏行の恋歌、実は業平の代作。および、女の返歌、実は業平の代作の歌を聞きましょう。併せて、同じ歌のある伊勢物語107を読みましょう。


  古今和歌集 巻第十三恋歌三
       617~618


617
 なりひらの朝臣の家に侍りける女のもとによみてつかはしける
               敏行朝臣
 つれづれのながめにまさるなみだ川 袖のみぬれてあふよしもなし

 業平の朝臣の家に居た女のもとに詠んで遣った歌
 相変わらずの長雨に増さる涙川、袖のみ濡れて、渡って行けず逢うてだてもなし……つくづくと思い沈むに、増さる涙かは、端の身濡れて合うてだてもない。

 「つれづれ…長々しく続くさま…相変わらずのさま」「ながめ…長雨…もの思いに沈む」「川…女…かは…疑問の意を表わす」「そで…衣の袖…端…身の端」「あふ…逢う…合う…和合」。



618
 かの女にかはりて返しによめる
               業平朝臣
 あさみこそ袖はひづらめ涙河 身さへながるときかばたのまん

 彼の女に代わって返しとして詠んだ歌
 浅いからこそ、袖ばかり浸るのでしょう、わたしを思う涙川、深みに身さへ流れると聞けば、頼りにしますわ……浅めこそ、身のそでは濡れるでしょう、喜びの涙川、身さへ流れると、ききますればお頼みしますわ。

 「浅み…川が浅いので…情が浅いので…浅め」「そで…袖…端…身のそで」「涙川…愛しさの涙川…喜びの涙川」「ながる…逢えない悲しみの涙川に流る…合う喜びの涙の川にながれる」「きく…聞く…効く」。

 上二首。長雨、涙川に寄せた、逢った後に逢えなくなった恋歌。逢って和合できない若者の乞いの悩みに業平が答えた歌。



 あさみこそ喜びの涙の川に身さえ流れる

 伊勢物語107では、この二首について、ほぼ次のように語られてある。

 むかし、高貴な男の妻の妹のもとに、敏行が夜這いをした。だけど、敏行らは若かったので、ふみもおさなく、ことばもささやき方知らず、いわんや、歌は詠めなかったので、高貴な男が案を書いて敏行に歌を書かせてやった、敏行は感心したか愛で惑うたという。さて、高貴な男の詠んだ歌は、
 つれづれのながめにまさる涙河 そでのみひちてあふよしもなし
 返し、例の男、女に代わって、
 あさみこそそではひつらめ涙河 身さへながるときかばたのまむ
と言ったので、若き敏行、たいそう愛でて、今まで、巻物にして文箱に入れてあるなんて言っているそうだ。

 自問自答の形式で、業平に和合の奥義の一つを伝授され、十四、五歳の敏行は巻物にして文箱に入れ大切にしていたらしい。それが、ここに載る歌でしょうね。

           伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
           聞書 かき人しらず


 


帯とけの古今和歌集 巻第十三恋歌三616

2009-08-25 08:22:01 | 和歌

  



 在原業平の恋歌。ただの恋歌と思う人はいないでしょう。どのような乞いざまが詠まれてあるのでしょう。併せて、伊勢物語の同じ歌を聞きましょう。

  古今和歌集 巻第十三恋歌三
         616



616
 
やよひのついたちより、忍びに人にものらいひてのちに、雨のそほふりけるによみてつかはしける
             在原業平朝臣
 おきもせずねもせでよるをあかしては 春の物とてながめくらしつ

 三月の一日より、忍んでひとに言葉など交わした後に、雨がしとしと降ったときに詠んで遣った歌
 起きもせず寝もせず夜を明かしては、春の雨だと眺めていて日が暮れました……おくり置きもせず、あなたの声もせず、夜を明かしては、張るの物だと、思いに耽ってはてました。
 やよいのつい立ちより、忍びにひとにものなど交わした後に、お雨がそぼと降ったので、詠んで遣った。

 「やよひついたち…三月一日…春爛漫…やあ好いのつい立ち」「人…女」「雨…春雨…おとこ雨」。「おき…起き…立ち…置き」「ね…寝…音…声」「はる…春…張る」「ながめ…眺め…もの思いに耽る…長雨…淫雨…おとこ雨」「くらす…過ごす…日暮れを迎える…ものが果てる」。



 やよひのつい立ちお雨そぼ降る

 伊勢物語2は、同じ歌を、次のように語っている。原文、清げな読み、心にをかしき読みの順に示す。


 むかし、をとこありけり。ならの京ははなれ、この京は人の家まださだまらざりける時に、にしの京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは、心なんまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。かのまめをとこ、うちものかたらひて、かへりきて、いかが思ひけん、時はやよひのついたち、あめそほふるに、やりける。
 おきもせずねもせでよるをあかしては 春の物とてながめくらしつ


 
昔、男がいた。奈良の京は遷都で離れ、この京は、人家がまだ定まらなかった時に、西の京に女がいた。その女、世の人よりは優れていた。その人、容姿よりは、心が優れていたのだった。独り身ではなかったらしい。かのまじめで実直な男、すこし話などして帰って来て、何と思ったか、時は三月一日、雨がしとしと降っているのに、歌を詠んで届けさせた。
 起きもせず寝もせずに、夜を明かしては、春の雨だと眺め、もの思いに耽って過ごしました。


 むかし、おとこがあった。ならの京を離れ移ったこの京では、通うべきひとのいへ、定まっていなかった時に、辺鄙な西の京に女がいた。その女、世の人よりまさっていた。その人、容姿よりも心が優っていた。独りだけで居たのではなかったらしい。それをあの熱心な勤勉おとこ、うちもの片らひて、帰ってきて、何と思ったか、時はやよいのつい立ち、おとこ雨そぼ降るので、やったのだった。
 おくり置きもせず、あなたの声もせず、夜を明かしては、張るの物だと、思いに耽ってはてました。


 伊勢物語も歌も、清げな読みのままで留まらず、言の戯れと言の心を心得て、心にをかしきところをも聞くことが出来れば、物語の作者は誰か、この女は誰か、なぜこのような語り方するのかといったことなども、やがて自ずから、わかるでしょう。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二612~615

2009-08-24 08:02:15 | 和歌

  

 深養父、躬恒、友則の恋歌。さて、どのようなおとこの乞いざまが聞けるでしょうか。併せて、土佐日記を読み、貫之の教示することを聞きましょう。


  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       613~615


613
 題しらず
                深養父
 今ははやこひしなましをあひみんと たのめし事ぞ命なりける

 今は早くも恋い焦がれ死ぬだろうよ、相見ようと頼みにしたことが、我が命だったのだなあ……いまはあゝ、乞い死ぬだろうおゝ、合い見ようと頼みにしたことぞ、おとこの命だったのだ。

 「恋…乞い…相手を求める」「しなましを…死んでしまうだろうよ…逝くだろうお」「まし…事実ではないことを仮に想像して述べる」「を…感嘆・詠嘆を表わす…お…おとこ」「あひ見む…相見よう…逢おう…合い見よう…和合しよう」「見…覯…合」。



614
                躬 恒
 たのめつゝあはでとしふるいつはりに こりぬ心を人はしらなむ

 頼みにしつつ逢わずに年経る偽りにも、懲りない心を、ひとは知ってほしい……多のめ筒合わず、疾しを経る偽りに懲りず、わが乞う心をひとは知ってほしい。

 「たのめ…頼みに思うこと…多のめ…多情の女」「つつ…継続を表わす…筒…中空…おとこ」「あはで…逢わないで…合わずに…和合できず」「とし…年…疾し…疾患的早さ…おとこの恒常的さが」「人…女」。



615
                友 則
 いのちやはなにぞは露のあだものを あふにしかへばおしからなくに

 命って何んだよ、露のようなはかないものよ、あのひとに逢うことに換えれば、惜しくないなあ……おとこの命は、何かってだな、白つゆのようなはかないものよ、合うことに、換えるなら惜しくはないなあ。

 「露…消えやすいもの…ほんのわずかなもの…おとこ白つゆ」「あだ…徒…かりそめなさま…短時間に終るさま…はかないさま」「逢う…合う」。

 上三首。命、懲りぬ心、露に寄せて、おとこの乞いざまを詠んだ歌。


 ふねさし寄せよ憂さ忘れできるかしら

 土佐の国に赴任早々、国の守夫妻は女児を病で亡くした。四年後の帰京の時になっても、この女児のことが忘れられない。土佐日記二月五日。ようやく、一行の船が住吉の辺りを漕ぎ行くところで、ふな君が、「いま見てぞ、身をば知った、すみのえの待つひとよりさきに、われは経にけり」などという歌をよむものだから、母も詠んだ。

 原文、清げな読み、心にをかしきところ、言の戯れと言の心の順に示す。


 こゝにむかしへびとのはゝ、ひとひかたときもわすれねばよめる、
 すみのえにふねさしよせよわすれぐさ しるしありやとつみてゆくべく
となむ。うつたへにわすれなむとにあらで、こひしきここちしばしやすめて、またもこふるちからにせむとなるべし。


 そこで、いぜん亡くなった人の母、一日片時も忘れられないので詠んだ、
 住之江に船さし寄せよ、憂さ忘れ草、効き目あるかと、摘んで行きたいので
という。けっして本当に忘れようとするのではなくて、亡き女児恋しい心地を、しばらく休めて、またも恋しがる力にしようとするのよ。  


 そこで、昔人間である母、ひとひかたときも忘れられないので詠んだ、
 澄みの江に夫ね差し寄せよ、思い忘れ具さ、霊験あるかと、つみとってゆきたいからなんてね。決して本当に忘れようとするのではなくて、亡きものこいしい心地しばし休めて、又も乞いしがる力にしょうというのよ。


 「すみのえ…住江…澄みのえ…心澄んだひと」「江…女」「ふね…船…ふ根…おとこ」「忘れ草…摘めば憂さや思いを忘れることができるという草…わすれ具さ」「ゆく…行く…逝く」。
 これらは、「心得るべき言の心」「聞耳異なる女の言葉」または「浮言綺語の戯れにも似た歌の言葉」。これらは、近世より現在まで完全に見失ったこと。文芸の清げな姿から何を読み取るのかな。

 以上で、巻第十二恋歌二、六十四首の伝授を終える。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二610~612

2009-08-23 08:05:05 | 和歌
  



  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       610~612


610
 題しらず
               春道列樹
 梓弓ひけばもとすゑ我方に よるこそまされこひの心は

 梓弓引けば本末我が方に寄る、夜ほど増すよ、恋の心は……あづさ弓引けば元先、我が堅に、よるこそ増さる乞いのこころは。

 「あづさ弓…梓弓…弓の名。ま弓、つき弓、弓張り、おとこ」「かたに…方に…堅に…堅固に」「よるこそ…寄るこそ…夜こそ…よる子ぞ…よれる、よじれる、くたびれる子の君だからこそ」「こひ…恋…乞い…求める」「心…情…色情」。



611
                躬 恒
 わがこひはゆくゑもしらずはてもなし あふを限りとおもふばかりぞ

 我が恋は行く方も知れず果てもなし、あなたと逢うのを、限りと思うだけだよ……我が乞いはゆく枝も知らず果てもなし、合うを限りと思うだけだよ。

 「恋い…乞い」「ゆくゑ…行くへ…ゆく枝…逝く身の枝」「あふ…逢う…合う…和合する…山ばの頂の京で合う」「限り…限界…それっきり」。



612
 我のみぞかなしかりけるひこぼしも あはですぐせる年しなければ

 我だけが悲しいことよ、彦星も七夕姫に逢わずに過ごす年はないので……われの身ぞ、かなしいかりしたことよ、彦星も合わずに過ごすとしはないのに。

 「のみ…限定の意を表す…の身」「かり…狩り…乞い求め」「あはで過ぐせるとししなければ…打消しの打消し…毎年確かに逢っているので…合わないで過ごすとしはないので」「とし…年…疾し…す早い出来事…門肢…門・おとこ」「あはで…逢わずに…合わずに…和合せず。七夕姫は年に一たび逢うは合うかは(秋歌上178)と問われれば、寝る夜の数が少ないだけで合っていると躬恒は言う(179)」「ば…ので…のに」。

 上三首。梓弓、逢うに寄せて、おとこのこいざまを詠んだ歌。



 いま見てぞわがみを知りぬる

 土佐日記(二月五日の部分)を読みましょう。貫之は何を語り、何を教示しているのでしょうか。

 言の心と、その使用のされ方を学ぶ。原文、清げな読み(皮相な読み)、言の心での心におかしき読み、言の戯れと言のこころの順に示しましょう。


 いしづといふところのまつばら、おもしろくて、はまべとほし。またすみよしのわたりをこぎゆく。ある人のよめるうた、
 いまみてぞみをばしりぬるすみのえの まつよりさきにわれはへにけり


 石津という所の松原、趣があって、浜辺が遠く続いている。つぎに、住吉の辺りを漕ぎ行く。或る人が詠んだ歌、 
 今見てぞ、我が身を知った、住の江の松より先に、我は年とったことよ  


 いし・つというところの待つはら、おも白くて、は間べ遠くつづく。また、す身好しのあたり、おこぎ逝く、あの人(ふな君)が詠んだ歌、 
 い間みてぞ、我が身の見を知った、す身の江の待つひとより先に、我は経てしまったなあ


 「石・津……女」「松…待つ…女」「原…腹」「お…を…男…おとこ」「浜…ひん…は間…女」。「い…井…女」「間…女」「見…覯…まぐあい」「すみのえの松…住の江の松…長寿なもの…長くつづくひと」「す…女」「江…女」「へにけり…経てしまった…年月が経ってしまった…こと過ぎてしまった」。

           伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
           聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二607~609

2009-08-21 07:56:42 | 和歌

  



 友則、躬恒、忠岑の恋歌。どのような乞い歌と聞こえるでしょう。併せて、枕草子に書き散らしたもののことを明かしましょう。


  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       607~609


607
 題しらず            
                友 則
 ことにいでていはぬばかりぞみなせ川 したにかよひて恋しき物を  

 言葉に出して言はないだけぞ、水無瀬川、下隠しに、心は通って恋しいのだけれど……言
に出しては言ぬだけだぞ、見ぬひとよ、下にか呼びて、乞いしい物お。

 「みなせ川…川の名、戯れる。水無瀬川、見無背ひと、見ぬ瀬ひと」「見…覯…合」「瀬…女…背…男」「川…女」「した…川底の下…ものに隠れて…心底…身の下」「かよひて…通って…か呼びて…あれ呼びて」「恋ひ…乞い…求め」「物を…ものを…のに…のになあ…物お…おとこ」。



608
                躬 恒
 君をのみおもひねにねし夢なれば 我心からみつるなりけり

 きみだけを思い寝に、寝て見た夢なので、我が心から見たことよ……きみをおの身思い、ねにし寝てみた夢なので、我が心のままに、見てしまったなあ。

 「君…あなた…男」「のみ…限定の意を表わす…の身」「ねに…寝に…根に」「ねし…寝し…寝た…とも寝した…根し…おとこ」「心から…心に添って…心柄…心のままに」「見…覯…合…まぐあい」「つる…つ…完了した意を表わす」「なりけり…だったなあ…断定・気づき・感嘆の意を表わす」。



609
                忠 岑
 命にもまさりてをしくある物は みはてぬ夢のさむるなりけり

 命にも勝って惜しいものは、見果てぬ夢の覚めることだった……命にも勝って惜しくおもう或る物は、み果てぬ夢がさめることだなあ。

 「をし…惜しい…愛しい…愛着を感じる」「もの…物…おとこ」「みはてぬ…見果てない…覯果てない…身果てない」「夢…寝て見る夢…夢想…妄想」「さむ…覚める…覚醒する…冷める…情熱が冷める」「なりけり…断定・気づき・詠嘆の意を表わす」。

 上三首。水無瀬川、夢に寄せて、おとこのさがを詠んだ歌。



 進呈
みまなのなりゆき

 古今集の歌が、このような情況ならば、枕草子に書き散らした物のことなど、可愛いものでしょう。驚くこともないでしょう。


枕草子18
 たちはたまつくり

 
太刀は宝玉作り……つわもののたちは玉付いてる。


枕草子126
 みまなのなりゆき

 ゆきなりのなまみ……行成の生身。

 藤原行成が、丸餅二つ包んで贈ってきて、手紙には「みまなのなりゆき」と署名があり、「このおのこは自ら参らんとするを、昼はかたち悪ろしとて、参らぬなめり」と書いてあれば、行成の生身のこと。笑いの種をくれたのよ。近世から現代にかけての大真面目な人々には、永遠にわからないものらしい。大真面目なゆきなりの上司にわざと問うと、お返しはいらない「ただ食いはべる」と大真面目なこたえ。ゆきなりの同僚たちは笑い病になった。


枕草子234
 月は、あり明けのひんがしの山ぎはに、細くて出づるほど、いとあはれなり。

 月は有明の東の山際に、細く出ているとき、とっても趣がある……つきひとおとこは、朝方残って、嬪が肢の山ばの際に、ほそくなって出てるとき、とっても感動するわ。

 「月…ささらえをとこ…月人壮士
」を見失ったとき、それとは見えなくなったのでしょう。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず



帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二604~606

2009-08-20 07:50:35 | 和歌

  



 貫之の恋歌。どのような乞い歌かな。併せて、土佐日記の船君の「こちこちしき」歌を聞きましょう。武骨、露骨な歌という。


  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       604~606


604
 題しらず
                貫 之
 つのくにのなにはのあしのめもはるに しげき我恋人しるらめや

 津の国の難波の葦の芽も張るときに、繁き我が恋、ひと知るだろうか……つのくにの何はの脚のめも春のとき、しげき我が乞い、ひとしるだろうか。

 「津…女」「なには…難波…所の名。戯れる。何は、何とかいうところ」「葦…脚」「め…芽…女」「はる…張る…春…春情」「に…時に」「しげき…繁っている…いっぱいの…頻りな」「恋…乞い…求め」「しる…知る…感知する…汁…心も身も潤う」「や…疑いの意を表わす…詠嘆の意を表わす」。



605
 てもふれで月日へにける白まゆみ おきふしよるはいこそねられね

 手も触れないで月日が経った白真弓、起き伏し居て、夜は寝てもだ、眠れない……あのひとの手も触れないで、月日の経った白まゆみ、起きたり伏したり、夜は射てもだ、眠れない。

 「しらまゆみ…檀の白木で作った弓の名。戯れる。白真弓、白いゆみなりのもの」「白…おとこの色…尽きた色…空々しい色」「弓…弓張り…弓なり…おとこ」「い…寝…眠る…射…放つ」。



606
 人しれぬ思ひのみこそわびしけれ 我がなげきをば我のみぞしる

 人知れぬ思いばかりで、つらくてさみしい、我が嘆きをば、我だけが知っている……ひとにしられぬ思い火の身こそ、わびしいことよ、我が嘆きをば、我の身ぞしる。

  「人…他人…女」「しれぬ…知られない…感知されない」「思ひ…思い…思いの火」「なげき…嘆き…ため息をつく…長息を吐く」「のみ…だけ…限定の意を表わす…の身」「しる…知る…感知してる…汁」。



 ふね悩ますは水のこころが浅いのだ

 貫之は、どのような人の立場でも、歌の詠める人。土佐日記の武骨で露骨な人の歌を聞きましょう。



 帰京のため、十二月の二十一日に、土佐の国府を門出して、風波に阻まれ海賊の噂に悩まされ、ようやく難波津の川尻に着いたのは二月七日。この川を上れば京。その歓喜の歌は、さき(5月11日のブログ)に紹介した。詠んだ老女のお顔には似合わないという妖艶な歌、「いつしかといぶせかりつる難波潟、葦こぎそけてみ船きにけり……何時しかといぶせかりつる何は方、脚こぎ分けてみふ根きにけり」。よろこびの歌としては、これ以上のものはない。この歌を大いに愛でて、歌を知らない船君の詠んだ歌は、武骨・露骨な人の病歌だという。 


 みやこ誇りにもやあらむ、からくして、あやしき歌ひねりいだせり。その歌は、
 きときては川のぼりぢの水を浅み ふねも我がみもなづむけふかな
 これはやまひをすれば、よめるなるべし。一歌にことの飽かねば、いまひとつ、
 とくとおもふふねなやますは我がために 水のこゝろのあさきなりけり

 ようやく来たのに、川のぼり路の水が浅くて、船も我が身も泥む今日だなあ……みやこ近くに来着いたものの、上り路のみず浅くて、ふ根も我が見も、ゆきなずむ京だなあ。

 「川…女」「路…女」「水…女…潤い」「ふね…船…夫根…おとこ」「み…身…見…覯…まぐあい」「けふ…今日…京…山ばの頂上…みやこ」。もう一首、早くと思う船悩ますは、我がために水の情が浅かったのだ……疾くみやこへと思うふ根、悩ますは、我が為に、ひとの情が浅かったのだ。「とく…早く…疾く…疾患的に早く」「水…女」「こころ…心…情」「浅き…情が浅い…薄情…うるおい不足」。

もう一首、

早くと思う船悩ますは、我がために水の情が浅かったのだ……疾くみやこへと思うふ根、悩ますは、我が為に、ひとの情が浅かったのだ。


 「とく…早く…疾く…疾患的に早く」「水…女」「こころ…心…情」「浅き…情が浅い…薄情…うるおい不足」。


          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず