こひのうた
壬生忠岑、藤原興風の寛平御時后宮の歌合の恋歌。併せて、小野小町のこの集にない歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第十二恋歌二
566~568
566
寛平御時きさいの宮の歌合のうた
壬生忠岑
かきくらしふるしら雪のしたぎえに きえて物思ふころにもあるかな
にわかに空を暗らくして、降る白雪の下が消えるように、恋消えて、もの思うころなのだなあ……こぎ果てて、降る白ゆきの下消えとなり、乞い消えて、もの思うころなのだなあ。
「かき…接頭語…掻き…わけ進む…こぎゆく」「くらし…暗らし…暮らし…果てて」「白雪…男の情念…おとこ白ゆき」「したぎえ…下消え…うわ辺はそのまま内部は消える…情熱が内で冷める」「もの思ふ…むなしい、はかない、消え入るような思いを思う」。
567
藤原興風
きみこふる涙のとこにみちぬれば みをつくしとぞ我はなりける
きみを恋う涙が床に満ちたので、澪標とだ、我はなったよ……きみを乞うおとこ涙が、とこに満ちたので、身お尽くしとだ、我はなったよ。
「恋ふ…乞ふ…乞い求める」「とこ…床…門こ…女」「みをつくし…澪標…水路を示す標し…身を尽くし」。
568
しぬるいのちいきもやすると心みに 玉のをばかりあはんといはなん
焦がれ死んだ命、生きもするかと試みに、玉の緒ばかりの間でも、逢うと言ってほしい……乞いに逝った命、生き返るかと試みに、玉のおの一瞬の間、合うわと言ってほしいな。
「玉の緒…美しい緒…玉のお…おとこ…こと切れ易い…時間が短い…はやい」「玉…美称…接頭語」「緒…お…おとこ」「逢…合…和合」「なん…なむ…してもらいたい…言動の実現を希望する意を表わす」。
浮きたるふねに罵る
小町の歌を言の心で聞きましょう。原文、清げな読み、心にをかしきところの順に示す。
小野小町集2
ある人こころかはりて見えしに
心から浮きたる舟にのりそめて ひとひも浪にぬれぬ日ぞなき
或る男、心変わりしたと見えたので
心から浮ついたふねに乗り初めて、一日もなみに袖濡れなかった日は無かったわ。
ある男、情変わって、見えたので
心から浮ついたふ根に罵り初めて、一日も汝身に濡れなかった、火もないことよ。
「見…覯」。「ふね…舟…夫根…おとこ」「のる…乗る…身をまかせる…罵る…ののしる…悪口をいう」「なみ…浪…並み…汝身…汝見」「日…火…情熱を燃やす火」「なき…無き…亡き」。
上一首。「後撰集」では、男の気色がしだいにつらげに見えたので詠んだ歌という。
「つらげ…思いやりの無い感じ…薄情な感じ」
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず