帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第十二恋歌二566~568

2009-08-03 07:05:02 | 和歌

  



 壬生忠岑、藤原興風の寛平御時后宮の歌合の恋歌。併せて、小野小町のこの集にない歌を聞きましょう。


  古今和歌集 巻第十二恋歌二
       566~568


566
 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
 
              壬生忠岑
 かきくらしふるしら雪のしたぎえに きえて物思ふころにもあるかな

 にわかに空を暗らくして、降る白雪の下が消えるように、恋消えて、もの思うころなのだなあ……こぎ果てて、降る白ゆきの下消えとなり、乞い消えて、もの思うころなのだなあ。

 「かき…接頭語…掻き…わけ進む…こぎゆく」「くらし…暗らし…暮らし…果てて」「白雪…男の情念…おとこ白ゆき」「したぎえ…下消え…うわ辺はそのまま内部は消える…情熱が内で冷める」「もの思ふ…むなしい、はかない、消え入るような思いを思う」。



567
               藤原興風
 きみこふる涙のとこにみちぬれば みをつくしとぞ我はなりける

 きみを恋う涙が床に満ちたので、澪標とだ、我はなったよ……きみを乞うおとこ涙が、とこに満ちたので、身お尽くしとだ、我はなったよ。

 「恋ふ…乞ふ…乞い求める」「とこ…床…門こ…女」「みをつくし…澪標…水路を示す標し…身を尽くし」。



568
 しぬるいのちいきもやすると心みに 玉のをばかりあはんといはなん

 焦がれ死んだ命、生きもするかと試みに、玉の緒ばかりの間でも、逢うと言ってほしい……乞いに逝った命、生き返るかと試みに、玉のおの一瞬の間、合うわと言ってほしいな。

 「玉の緒…美しい緒…玉のお…おとこ…こと切れ易い…時間が短い…はやい」「玉…美称…接頭語」「緒…お…おとこ」「逢…合…和合」「なん…なむ…してもらいたい…言動の実現を希望する意を表わす」。



 浮きたるふねに罵る

 小町の歌を言の心で聞きましょう。原文、清げな読み、心にをかしきところの順に示す。

小野小町集2
 ある人こころかはりて見えしに
 心から浮きたる舟にのりそめて ひとひも浪にぬれぬ日ぞなき


 或る男、心変わりしたと見えたので
 心から浮ついたふねに乗り初めて、一日もなみに袖濡れなかった日は無かったわ。


 ある男、情変わって、見えたので
 心から浮ついたふ根に罵り初めて、一日も汝身に濡れなかった、火もないことよ。

 「見…覯」。「ふね…舟…夫根…おとこ」「のる…乗る…身をまかせる…罵る…ののしる…悪口をいう」「なみ…浪…並み…汝身…汝見」「日…火…情熱を燃やす火」「なき…無き…亡き」。

 上一首。「後撰集」では、男の気色がしだいにつらげに見えたので詠んだ歌という。
「つらげ…思いやりの無い感じ…薄情な感じ」

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず