『かぐや姫の物語』
(2013・日本・2h17)
監督・原案・脚本 : 高畑勲
声の出演 : 朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、田畑智子、仲代達矢
竹の中から見つけられた小さな女の子は急速に成長しかぐや姫と名付けられた。その美しさから求婚する者たちが押し掛けるが姫はそれらを全て拒み続ける。遂には帝にまで求婚された姫はある願い事をしそれが叶う日がやって来る。
超古典な物語を真正面から正攻法で描いたアニメーション作品。それでいて退屈な作品になっていないのが高畑監督のすごい所だろうと思う。
求婚者たちのお宝探しエピソードも端折らずに丁寧に語られていて。こちらの感覚としてはそこはダイジェスト的にテンポよく通過してもいいんじゃないかとも思ったけど、そこも律儀にきっちりと描く所が高畑監督らしさなのだろうと思う。
理論によって作り上げられた筋立てをきっちりと理論的に積み上げる事によって一つの作品を完成させる。だから最初の理論の所で躓くと先に一歩も進まないっていうのが高畑監督が仕事が遅いとされる理由なのではないだろうかと勝手に想像した。
そこら辺が宮崎監督とは違う所で、宮崎監督が躓いた場合にはそこで止まるのではなくてちょっとずつでも進もうとして、で最終的には理論はひとまず置いといた感覚的な勢い、感覚だけではなく理論を基にした勢いみたいな事で突破してなんとしてでも期限内の完成へと辿り着かせる。
その姿をお互いに見て宮崎監督は高畑監督の事を腹立たしくも有り羨ましくも思い、高畑監督は宮崎監督の事をまだまだ甘いなと思っていたりして。と勝手に想像。
高畑監督のインタビューか何かでかぐや姫が月から地球にやって来た理由が原作には描かれていない。という事を言っていて、本作ではその理由が描かれていて、それがキャッチコピーの「かぐや姫の犯した罪と罰」につながっていた。
罪とはかぐや姫が地球とそこに住む人間に興味を持ってしまった事で、月の世界に住む俗世から解脱した者たちにとってはそれは許されない事であって。だからその罰と言うか戒めとしてかぐや姫は地球で人間としてひと時の間生きる事で人間が欲にまみれた生き物である事を身をもって知り苦しむがよい。という事なのだろうと思う。
かぐや姫に与えられた美しさも人間の欲を露わにする手段として用意されたものなのだろう。捨丸兄ちゃんでさえその美しさの前には妻子の事をあっさりと忘れかぐや姫と愛の逃避行へと旅立とうとする。
かぐや姫は人間の欲深さに疲れ果て月へと帰りたいと願い、そして月へと連れ戻される。という所で原作は終わっているのかは知らないがそこまでしか知らない。
本作では地球は自然や様々な生き物にあふれ季節によって色どりを変える大変に貴重で素晴らしい星で、そこに住む人間は欲深く罪深い生き物ではあるけれどだからこそ月の世界とは違う面白くて愛おしくもあるのでした。という事がかぐや姫が経験した事によって描かれていたのではないだろうか。
本作の製作費が50億円と言われているけど、それは本作を作るにあたってジブリの新しいスタジオを作ったという事らしいのでそのお金も込みでの50億円なのではないだろうか。
その新スタジオ建設も『ナウシカ』完全映画化の布石なのではないかとつい考えてしまう。