寓話の部屋

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第088話 次の戦争への準備期間すなわち平和

2021-11-04 09:22:29 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第八十八話

親ダイシン帝國のグンマーを落とし、またダイシン帝國包囲網を一歩推し進めたツイステ合州国。
もくろみ通り、フラリー大統領は二期目に無事当選を果たした。
ツイステ合州国憲法は原則三選を禁止していたので、これからが集大成だとフラリーの鼻息も荒いのであった。

モトヒノは、アベ・マリア総理大臣の国民的人気は高く、定期の衆議院選挙も大勝を収め、まだまだ政治サークルの「姫」の役割を辞められそうになかった。
MHQ(終戦後の軍政)が押しつけた通称”平和憲法”の硬性憲法の改憲も可能なくらいの議席数であったが、この世界のモトヒノ国憲法は、「他国にこちらから宣戦布告することは出来ない」という程度のもので、軍事力の保持や防衛戦争を否定するようなファンタジーでも有り得ないくらいお花畑なものではなかったので、そこまで改憲が政治課題になるものでもなかった。
苦しい憲法解釈など必要もなかったのである。もちろん武器輸出にも自主規制はない。そんなことをするのはファンタジー世界の住人だけであろう。
ただ戦略級大規模魔術に対してだけはアレルギーが残っていた。

ダイシン帝國は、グンマーの陥落を予想はしていたので、衝撃までは受けていないが、ツイステ合州国の殺意の高さを再確認し、軍備の近代化や諜報活動などを強化し始めた。

一方、大コーライ連邦。
コーライの民は、30年以上、「休戦」状態が常で、いつ何時、北が南進を開始するかという恐怖に蓋をしてその日その日を過ごしていた。
それがムーンの活躍により、平和的統一がなされ、その恐怖が根底から消失した。
徴兵制をやめたらいいんじゃ無いかという意見まで出るくらいだったが、安価に兵士を調達できる体質に依存していた軍部は難色を示していた。
妥協して抽選制とかも提唱されたが、なぜか庶民だけが徴兵されるのは目に見えていたので、見送られた。
ただよう平和ムード、兵器や航空産業、造船などの重工業の輸出と、ぽつりぽつりとムーンが思い出す異世界ガジェットのアイディアを元に、魔導技術者・錬金術師を中心に苦労して実用化を進めた画期的な商品が市場に出始めることで軽工業分野でも世界市場を席巻。
コーライは史上最大の繁栄を迎えていた。

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その日、ムーン・ジェガン、大コーライ連邦大統領とキムボール・ジョンソン、軍最高司令官とマルペ・ヨンジューン主席大統領補佐官は警護警官と番記者を引き連れて、ウルソの繁華街・ミョンソンにある財閥系の大手デパートに視察に訪れていた。

「いや、大した賑わいにダネ。」
「このデパートは我が国最大で、”異世界百貨店”と呼ばれているんですよ!」
とマルペ君。

「ウリの発明した製品で賑わっているのだから、ピッタリの名前ニダねwww。しかしあの件(異世界召喚)は国家機密じゃなかったかニダ?」
「偶然ですよ!」

「ん?ん?」
と実はまだ異世界召喚の秘密を知らされていないジョンソン。

一行は男所帯なグループなだけに、化粧品や宝飾品、衣料などの階は通り一遍だけ眺めると、時計売り場に着いた。

この世界ではかつては大型の機械時計が主であったが、ムーンが機械式は旧式だと特技研で漏らすと、水晶発振器の原理の詳しいことはさっぱりだったが、同じような原理のものを探し回り、魔動波発振器の応用で、一定の時間で発振する魔術回路が、再発見された。
それを応用した魔動式時計が市場を席巻し始めていた。

売り場の責任者が応接する。
「こちらは、オメゴ社の最新式の魔導腕時計です。生きた人間が装着していれば装着者から微量の魔力が自動供給されるのでバネを巻く必要もなく半永久的に動くという文明の利器であります。」
「なる程ニダ!どうニダか?」
と高級なしつらえの腕時計を試着してみるムーン。

「お似合いですよ!」
「なのねん」
とキャッキャする一行。

しかし、この世界の生物は魔法が能動的に実用的に使えるかどうかまではともかく、魔力をまったく保有していない生物はいないのだが、ムーンだけは例外である。
彼のチート能力は通常の魔法とは異なった原理の世界魔法なのだ。
人間が外した時の為に魔力供給能力のあるクレードルがあり、風呂や寝る時にはそこに置く時のために繋ぎの一分ほどの魔力を充魔する機能は内在していた。
高級腕時計は、この世の生物では無い装着者・ムーンから魔力を補充できず、1分で内蔵魔力を使い切って針が止まった。
ちなみに、死体からは魔力が吸えないこの現象を利用した死亡推定時間を使った推理小説がこの頃の流行である。

「ハテ…故障でしょうか…一流企業の製品なんですが…」
気まずい空気が漂う。
「まあ、そういうこともあるでしょう。時間もありますし、次に行きましょう。」
と原因に大いに心当たりのあるマルペ君がフォローする。
こんな感じで魔力スイッチ式の魔道具をムーンが使えない現象を、お世話係としてよく知悉していた。

一行は文具の階に達した。

「これこれ、これも閣下のアイディアが商品化されたものです」
とマルペ君が誤魔化すように率先して解説する。

「これは、インクを入れた細いチューブの先端に、小さな球が付いてそこにインクが付いているので万年筆が引っかかる紙質の悪いものにもすらすら書けるというものです。”ボールペン”と名付けられました。いやー先端部の球の加工技術を開発するのに、五百億ヲン(だいたい50億円)もかかったそうですよ。まあベアリングの小型化なんかにも応用できるので無駄にはならないんです、きっと。」
「なるほどニダ。ウリのアィディアも大したものにダネ。」
「(鉛筆やサインペンじゃダメなのねん?)」と思うが空気を読んでスルーしたジョンソン君。

少し気を良くした一行。次はカメラ売り場である。

「これですよ!画期的な”カメラ”!。今までは、テレパシー能力を持った術者間に依存していた画像伝達を板に記録するというアイディアで誰にでも使えるようにしたものです。」

それもムーンのアイディアを実用化したものである。召喚してすぐの頃に「銀河スマホ」の機能を説明するのにカメラの概念から説明しなくてはならなかった。
最初期のエピソードであるがそれを特技研の英才が根気よく、実用化に向けて同様の機能を実現した。
なにしろムーンが「銀河スマホさえあれば異世界に来ても無双できたのに残念ニダ!」とうるさかったので、できるかどうかはともかくスマホの機能の再現は特技研の最大の研究テーマであった。
これもまたムーンは細かい理屈を覚えていないので、その開発は難航を極めた。スマホのカメラのイメージセンサーの話はしてもわからないだろうし、ムーン本人も、最近は技術大国の隣国から輸入しなくても自国のサムソソが生産できるようになったとホルホルした記憶しか無かった。
これがまだムーンがフィルムカメラを覚えていた年代だったのが幸いした。昔はフィルムを使っていたというヒントが得られたのだから。
錬金術師が苦労して、光に反応する感光物質を発見し、どうにか白黒写真を可能にした。
まだまだレンズの性能もイマイチであるが、大きな文明の進歩であった。

売り場の主任が
「従来の魔導式映像記録器は車サイズのものでしたが、このように一人で操作できるサイズにまで小型化が成功しました。値段は車一台分はするのですがw。富裕層には売れていますです。ハイ。」

「そうニカ。」
とファインダーを覗くムーン。
幸い、カメラはレリーズ操作などの都合もあり、充魔槽から魔力を供給される仕組なのでムーンでもちゃんと操作が可能であった。

「最近は、この機械を使ったエロ写真が地下で流通してるんですよ!フフフ。」
とこっそり耳打ちするマルペ君。どうでもいいだろうwww。
「それはけしからんなのねん!」

次に向かうのは、一見ピアノ売り場のような機械が並ぶ一角であった。

「これは楽器ニダか?」

「いえ、”小型”計算機売り場ですね。従来の魔術回路式計算魔方陣はビルを一棟占拠するような代物でしたが、閣下の提唱するスマホの構想の要素技術として、計算機の小型化に努め、ここまで小型化に成功しました!」
それは、あたかもアナログ・真空管式コンピューターがソリッドステート式に変わったかのような技術革新である。
ムーンのアイディアが拾われたのは、電子回路の露光式製造方法だった。
今まで限界のあった手彫りによる魔導陣の製作に、カメラの感光板方式が発明されたことで魔導陣を刻む板にマスクで焼き付けエッチングする応用技術が発明された。
レンズの質が悪く、さほど緻密な回路の太さでは無かったが、手彫りに比べれば二、三桁は小型化が可能になった。集積魔導回路の完成である。
こんな細かい技術を文系のムーンが覚えていたのも、大統領任期中に隣国に意地悪されてフォトリソグラフィー用のレジストの貿易規制(隣国は管理体制の強化と強弁していたが)に苦しめられ、国産化に力を入れていたのが印象深かったからである。魔動式腕時計の実用化もこの集積魔導回路の技術無しには実現できなかっただろう。

ピアノサイズの計算機に近づくと、売り場の責任者が華麗にキーボードを叩く。
「1234×5678」
ジジッと数秒すると、カタカタと紙パンチが出力される
「7006652」
とドヤァと自慢気な売り子。
性能の低さに失望したムーンは「あっ、そうニダ」との塩対応で次に向かう。
しかし、こんな性能の計算機でも社会に与える影響は非常に大きかったのだ。特に航空兵器産業での作業効率は激変した。

次に向かうは魔伝話売り場。
軍事用の魔伝通信機からスピンオフして、一般企業や裕福な家庭にも都会限定ではあるが、音声通信式魔伝話通話機が発売された。
これも魔術回路の小型化のなせる技であった。

「これをお見せしたかったんです!これ!」
マルペ君が、手に取ったのは、初期のウォー○マン(コーホーとか言うヤツじゃない方)より少し大きな四角い箱だった。
「これはなんとですね!無線式でありながら、このサイズ!これで都市部では8桁の数字が送れるようになったんです。もちろんあらかじめ決めたメッセージコードを通信するためのものなんですが、数字を組み合わせて語呂合わせでメッセージを作ったり、裕福な若者の間ではこれを使った遊びも盛り上がっているようですよ!」

「それポケベルじゃないかニダ…。」

「これは、小出力の魔伝話通信基地局を都市部に多数設置することによって、送受信機をここまで小型化することが可能になったんです。いやあ閣下の叡智はすごいですねえ。」

階上層のレストランに入店するとめいめいが好きなものを注文した。

「このコーライウスのステーキを頼むニダ!」
ちなみに異世界の牛の味に似た生物であるウスは、モトヒノが品種改良して食用に向くようにしたものをぬ…ベンチマークして国産名品のコーライウスと主張しているものだった。

「私はそんなにおなか減っていないので、フルーツパフェを頼もうかな!」
とマルペ君が頼むと、イチゴやブドウに似た果物で彩られたクリームの塊がテーブルに運ばれる。
ちなみにこの果物もモトヒノが品種改良してとても甘くしたものをぬ…ベンチマークしたものだった。

「ボクちんは、無断外食を禁じられているので、お茶だけで…」
といいつつ、こっそり間食はしているのだが、さすがに記者達の目のあるところではいつ妻に知られるかもわからず、そんな危険は犯せなかった。

「なんだか悪いニダね…。」といいながらジュウジュウと肉汁のしたたるステーキにかぶりつくムーン。
「それにしてもたまには街に出てみるものニダねえ。こんなに立派なデパートができているとは知らなかったニダ。」

「もともとモトヒノの植民地時代にモトヒノ資本で、低層のデパートはあったんですよ。コーライ戦争で一時期荒廃したんですが、戦後すぐに財閥のものになって、その建物に高層階を増設して高層ビルに仕立て直し、旗艦店にしていたんでしたが15年前に悲しい事件がありましてね。」

「なんなのねん?」
とズズッとお茶を啜りながら相槌を打つジョンソン。

「営業時間内に突然、低層階が崩れ落ちてその上も巻き込まれてぺっしゃんこ。死者200名を超す大惨事でした。なんでも高層階のダンス教室で生徒が一斉に着地したからじゃないかとか言われていますが、未だ原因はわかっていません。」

「酷い話なのねん!元のウチの国なら設計者と施工者一家を機関銃で処刑ものなのねん!」

「まあそこは財閥系なので、ゴニョゴニョで、キレイに更地にして、今度はちゃんと強度設計して、このような立派なビルヂィングになったという話です。」

コーライの平和の一コマであった。



3 コメント

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Unknown (Unknown)
2021-11-04 11:40:45
オメゴ。てんてん付いてて良かった。
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Unknown (新宿会計士)
2021-11-05 09:06:12
>苦しい憲法解釈など必要もなかったのである。もちろん武器輸出にも自主規制はない。そんなことをするのはファンタジー世界の住人だけであろう。

じつはこれが一番言いたかったことだったりしてw
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Unknown (チキンサラダ)
2021-11-05 20:24:27
ダイシン帝国は三戦の強化にますます邁進したのでは?
諜報戦とかぶるところがありますが。
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