寓話の部屋

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第137話 燃え燃え大戦略

2022-06-23 13:19:42 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第百三十七話 

ダイシン帝國・コーライ国境付近、戦略級極大魔法の爆心地から数kmの場所。
ダイシン帝國の苦力が、最後の軌条のボルトを締め付ける。

「万歳!」
「とうとう完成したアル!」

そう、魔導機械の使用できない不毛地帯を踏破する臨時鉄道路線を、様々なコーライ側の妨害による甚大な被害・次々と補充される苦力の死体を積み上げながらも、ついに、ほぼ人力のみで完成させたのでアル。

兵員、戦車や自走砲を満載した充魔式列車が、次々に到着する。

「南の方ではツイステ・モトヒノ連合軍が足踏みしているようアル。これで我が軍も進軍が再開できるアル!」

疲労困憊の苦力たちと違い、待機を強いられていた軍人達の士気は高い。
戦略級極大魔法の爆発に巻き込まれた第一梯団、友邦国からかき集めた第二梯団にも少しはいたダイシン帝國軍の兵員は軍首脳の粋な計らいにより、北方で木を数えるだけのやさしいお仕事で傷を癒やしている為、各地より抽出された第三梯団の士気の低下は無いのでアル。ないのかアルのかハッキリしろw。

予定調和的に北コーライが秘蔵していた戦略級極大魔法で壊滅したり、想定外のエルフ災害で壊滅したりしたダイシン帝國軍であるが、戦力予備の豊富さではツイステ軍にも優るにも劣らない。
彼らの快進撃はこれから始まるのである!

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コーライ式釣り野伏・捨て奸戦術により、大被害を受けたツイステ・モトヒノ連合軍。
その人命を軽視しすぎた恐るべき戦術に恐怖を覚えないでも無かったが、それでひるむほど惰弱でも無かった。
まず、「何があっても車列を止めるな!」という対応を取ることにした。
仕掛け爆弾・対戦車ロケット砲による被害が出ても、車列を止めて、砲兵の餌食になる大被害を鑑みれば、多少の損失には目を瞑るしか無かった。
そして、経済的に発展している南コーライの都市は、コンクリートジャングルであり、伏兵を配しやすい難所である。
最初は、仮にも同盟国であったコーライを華麗な外科手術的な攻撃でキレイに降伏させようという欲目があったが、これを大いに逆手に取られた。
反省したツイステ・モトヒノ連合軍は、進軍先の都市を予備砲撃・爆撃で、徹底的に耕すことを原則とした。いつものツイステ軍のパターンであるw。
なお、民間人の被害は見なかったことにした。なあにコーライの都市では基本的に建築物を新築する際には半地下の防空壕設置が法令で決まっているので、きっと大丈夫さw。
最初は、コーライ半島最南端の都市、プーサン周辺しか支配地域が無かったのが、じわりじわりと拡大していき、大部隊を展開する余地・縦深と、次々に陸揚げされる後続部隊によって大攻勢をかけるだけの戦力が整ってきた。
仮設の空軍基地や接収したプーサンの民間空港に軍用機の整備施設を敷設するなど、空軍力も充実させた。
五分五分だった空戦も、4:6、3:7と次第に勝てるようになっていったのである。
いくら今世界航空機発祥の地であるコーライ空軍の機体やパイロットが優秀でも櫛の歯が欠けていくように損耗していく。
ことパイロットの損耗は容易に補えるものではなかった。
歴戦のエースも新人パイロットのお守りをして被弾し、戦死したりして大空に散っていく。
対して、ツイステ軍は、それほど突出したエースパイロットが目立つわけでは無かったが、それなりの水準のパイロットを大量生産することには長けていた。
コーライのエースパイロットにより、4機落とされようが、5機目が差し違えるかのような戦闘で相打ちし、削っていくのである。そして、すぐに8機の補充が届くというw。

北から南から首都ウルソに向けて、両軍が快進撃を始めた。

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「お父様、どこに行くのですか?」

慌ただしい夜逃げの準備の最中、とあるコーライ貴族の令嬢が父親に尋ねる。
父親の伯爵が、答える。

「なに、新しい首都に移るだけだよ。ウルソは、ちょっとあぶないからね。こんなこともあろうかとムーン大統領やキムボール将軍が、防衛能力に優れた新都市を建造していたんだ。我々の様な貴種はいちはやく移動して、国防に寄与しないといけない義務があるんだ。いいね。」

実際、ウルソという都市は、まったく防衛に向かない。歴史的に何度も焼け落ちたし、先だってのコーライ戦争でもあっという間に陥落した。
性懲りも無く再建したが、南北対立の期間では、38度線からさほど距離の無いウルソは、北のロケット・長距離砲だけであっという間に火の海になる立地であった。
幸い、ムーンの転生チート能力「夜郎自大」のおかげで、平和的に南北問題は解決したが、軍事学的な素養の高いキムボール・ジョンソン将軍は、防衛力の低い首都に危機感を覚えた。
遷都を決定し、軍事的にも強固な都市計画を練り、建築を開始した。ムーンはあまり関心無く、ハンコを押したw。
新首都にはコーライ半島のほぼ中央、西側の港湾都市が選ばれた。
湾岸要塞で防衛しやすい遠浅の内海(艦船は浚渫した水道を知らない限り、港にはたどり着けない)、豊富な魔力供給を可能にする太い龍脈、そして巨大な岩から出来ている山脈が近くにあるのも軍事的に有利だった。
莫大な予算を要する事業であったが、昨今の絶好調のコーライ経済にとってはむしろ内需拡大の好材料にしかならず、工事は比較的順調に進んでいたが、まさかこんな早くに建設途中なのに実際に使用する羽目になるとはさすがのキムボール・ジョンソン将軍も予想していなかった。
そのため、まだ王宮とその周囲の富裕層の住む貴族街程度しか建設は終わっておらず、ウルソの町から新首都に移り住めるのは選ばれた少数の民だけだったのである。
ウルソのほとんどの民は取り残されたが、ムーンの転生チート能力「夜郎自大」のおかげでこれほど絶望的な状況下でも郷土防衛隊への志願者は引きも切らないほどであった。
魔法抵抗力の高い貴族層は、さすがに危機感を覚えて家財も放り出して逃げようとしている次第である。

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その新首都の郊外に位置する岩山。ジャイアン山。
巨大な岩石が鎮座する山体の地下を掘り抜いて、要塞が築かれていた。
キムボール・ジョンソンは大いに気に入り、「狼の砦」と名付けた。
政府機能・軍指揮所をまるごと飲み込んでも余裕のある巨大要塞。
密かに王宮・政府機能・軍令部を「狼の砦」に移し始めていた。
ウルソとは太い通信回線を確保し、ウルソから指揮しているように見せかける念の入りようであった。

「ここなら、どんな大軍相手にでも持ちこたえられるのねん!巨大な一枚岩で核兵器や戦略級極大魔法でも耐えられる防御力、豊富な魔力供給、30年籠城しても耐えられるだけの食料備蓄!」
とフンスと鼻息を荒くするジョンソン。

「いやあ、壮観ですねえ。地下にこんなちょっとした都市のような施設を作り上げるなんてコーライの科学は世界一ィィッ!!」
とおどけるマルペ君。

「なにかイヤな感じがする名前ニダ…。もっとマシな名前はなかったニダか?」
浮かない顔をするムーンであった。知識は無くても勘は良い彼である…。


第136話 狼たちの墓標

2022-06-21 16:44:47 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第百三十六話 

だまし討ちにて、一気にコーライ政府中枢を外科的切除し、ツイステ合州国主体で対ダイシン帝國攻略体制を構築するという構想は、最初から躓いた。
これはコーライの防諜の能力と言うよりはダイシン帝國の長い手による巧妙な工作の結実であったのだが、コーライもツイステも気がついていなかったw。

ツイステ・モトヒノ連合軍は、コーライ南端の町プーサンとその周辺こそ確保できたが、大部隊の展開を行う前に衝突が発生し、橋頭堡を防衛しつつ、海路にてモトヒノから逐次、陸揚げするしか無かった。
航空戦力においても、本来外征が本業のツイステ合州国海軍こそ、空母が必要だったのだが、今世界では、コーライしか建造に成功していなかった。
プーサン近郊に仮設飛行場を建築してモトヒノから航空機部隊を次々に呼び寄せたが、その運用能力には制限があり、今世界ではかなり充実しているコーライ空軍のホームグラウンドで、量でも質でも圧倒することは出来なかった。
ツイステの必勝方程式である「圧倒的な航空優勢」の無いツイステ陸軍は死兵とも言える郷土防衛軍の度重なる襲撃に、そして、コーライが誇り、外国に大々的に売り込もうとした、毎分9発の発射速度を誇る最新鋭高性能150mm自走砲K-999の部隊によるアウトレンジでいいようにやられていた。

「クソッ、コーライ兵なんてのはコーライ戦争の時には自国民の保護もほっぽり出して逃げ出してウルソの街に民間人を置いて後退するときに橋を爆破して、後は俺らに丸投げする腰抜けどもじゃ無かったのかよ!!」
そんな呪詛も一般兵には流布していた。

こうして、コーライの南方戦線はコーライ国民、ツイステ・モトヒノ軍人双方に多大な被害を与えながら、一進一退の膠着状態に陥ったのだった。

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一方、ダイシン帝國とは言えば、北コーライでの防衛線に敷設された戦略究極大魔法による、魔導機械が使用不可になる不毛地帯が大河のように進軍路を横切り、足止めを食らっていた。
しかし、そんなコーライの瀬戸際戦術は、当然の如く、開戦前の想定の範疇であり、対策も十全に練られていたのである。
いわば現代版の魔力「死の渡河」作戦は研究済みであり、黙々と、戦略究極大魔法により魔力供給の絶えた地帯に、鉄道軌道を建築し始めた。
その線路を用いて、充魔式軍用列車を運行し、大量の戦闘車両や兵員をピストン輸送で送り込むという腹である。
コーライとて、座してそれを見ていたわけもなく、妨害すべく攻撃部隊を派遣はしたのだが、なにしろ魔導機械が使えないと特殊なフィールドである。
ダイシン帝國は、この魔法の使えない特殊フィールドに対応する、おそるべき手段を取っていた。
なんと、魔力を使わないウマ車や人海戦術による苦力の大量動員である。
重い鋳鉄の軌道を何十人もの工夫が担ぎ、それを大量の歩兵が警護する。
コーライの派遣する歩兵部隊は蹴散らされ、砲兵や高空からの航空攻撃での爆撃も命中率が低いとはいえ、被害を受けてもすぐさま苦力が補充される。
幅10数kmの不毛地帯を「渡河」するための軍用鉄道路線は着々と敷設されていくのだった。
人道を顧みないことではダイシン帝國とて、今世界では随一の国なのである。

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重苦しい雰囲気に包まれているコーライ大統領官邸赤瓦台。
軍高官が戦況を報告する。

「南コーライでは、幸い、ツイステ・モトヒノ連合軍の卑劣な策略が早々に露呈したことで、義勇兵を編成し、北方から人員だけ呼び戻した砲兵部隊に、工場の新品の輸出用兵器を使用させることで遅滞戦闘に成功しております。航空戦でも”ホームゲーム”の利があり、質でも運用条件でも我が軍に利があり、数を生かせていない敵軍をなんとか押さえ込んでいます。」

「ほへー、さすがですねえ…。」
と感心するマルペ・ヨンジューン大統領補佐官。

「しかし、いくら兵器・弾薬の輸出用の予備がたまたま、たくさんあったとしても、相手はキ○ガイ戦争国家ツイステなのねん。平気でこっちの弾薬が尽きるまで、延々とおかわりをすることは目に見えているのねん。ニョクマム戦争みたいにサンクチュアリ(ゲリラ戦術に必須の後背地)やダイシン帝國のバックアップは我が国には無いのねん。ジリ貧になっていくのは目に見えているのねん!」
こと軍事に関してはまともな見識を持つキムボール・ジョンソン将軍である。
「しかも、北方ではダイシン帝國がおそるべき人海戦術で、鉄道を敷設しているとか。これが打通したあかつきには、第三弾の国聯平和維持軍が大量にやってくるのねん!」

「あらやだ、この国、詰んでる」
誰だ、このオカマ?www

「(ウリは、ただ生まれ変わったこの世界で、遅れた文明を進歩させて、この国を世界三大強国にして、ただ平和に暮らしたかっただけなのにどうしてこうなったニダ…)」
ゲ○ドウポーズで腕を組み下を向く、ムーン・ジェガン。
彼の転生チート特典の異能、「事大主義」は、彼の属する国の運命に大国を巻き込むという不可抗力の運命改変能力である。しかし、ねじ曲げた運命が必ずしもプラスに働くわけではないというとんでもない厄ネタ異能なのであった。

「とりあえず、このウルソの街は、防備も何もあったモノじゃないのねん。大コーライ連邦の新首都として建築中だったところは未だ30%程度しか完成していないけれど、近くの巨大な岩山の地下に要塞を優先的に作って8割方完成しているのねん。”狼の砦”と呼んでいるこの指揮所ならどんな空爆にも耐えられるし、指揮管制能力も既に実用段階になっているのねん。政府機能をとにかく移すのが最優先なのねん!」

放心しているムーンは、黙って頷くのであった。


第135話 釣り捨てガンギマリ

2022-06-15 23:31:19 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第百三十五話 

ツイステ合州国が裏切った!
そんな絶望的な知らせを受けても、大学生を中心とする若者達に絶望は無かった。
2年の兵役を終えて復学したばかりだったが、その兵役の様相も近年では一新され、かつてのイジメは鳴りを潜め、近代化した最新鋭のコーライ軍の尖兵たるべき合理的な猛訓練に新兵イジメをしている暇もなくなったのである。
兵役を満期終了し大学の残りの課程を終えたら士官学校に志願し再入隊するという者も少なくなかった。
最新兵器や新しい戦術を駆使する新生コーライ軍はそれだけ若者を惹きつける魅力があったのだ。
若者だけではなく、兵役経験者の中年以上の層にも、昨今のコーライの景気の良さや統一国家の成立などで明るい未来に水を差すツイステやダイシン帝國、ついでに関係ないがモトヒノに対する反抗心(これは通常運転)が有頂天の勢いであった。

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「兵役経験済みの大学生は、准尉待遇とし、郷土防衛軍を編成する。是非、志願を!」

大学のキャンパスに現れたコーライ軍の徴募官がそう述べると、みな何かに取り付かれたように我も我もと志願し、一週間後にはキャンパスはほぼ空になってしまった。

おいらこと、ガン・ギマリも厳しいがチャレンジングで楽しくもあった兵役を終えた後、復学し、残りの二年で学士号を取得したら、士官学校に進むつもりであった。
士官学校を出ても通常は、少尉任官からのスタートであるのに、郷土防衛軍に志願すれば准尉待遇になるという。
情勢を鑑みれば、戦果を上げれば、一つや二つの昇進も狙えるだろう。それから士官学校に進めば、佐官はおろか将官まで狙えるかもしれない。そんな皮算用する余裕すらあった。

ガン・ギマリには軍服が支給された。准尉の標章が誇らしかった。
小隊の指揮官に任命され、早速、部下となる面々との査閲を行った。
郷土防衛隊は、士気や仲間意識を高めるために同郷の者で編成する傾向があった。
並んだ24名の顔を見てみると、顔なじみのチキン屋の親父さん、八百屋や文房具店の店主などの年配者から、まだ徴兵年齢にも達していなさそうな小僧まで実に様々である。
兵役経験者あるいは予備役の下士官であろうオジサン達はまだわかるが、まだガキとしか言えない年少者の存在には少し不安を覚えた。まあ、荷物持ちくらいはさせられるかと割り切ることにした。
この民間人ばかりの雑多な構成の部隊に数少ない正規軍人が配された。歩兵小隊の中に砲兵部隊の前線観測員(FO)が二名。
この二名の指揮系統は変則的で、上位の原隊からの命令が優先されることがあるという話だったが、その本当の意味はよくわからなかった。

この編成の小隊員には突撃銃と呼ばれる最新鋭の自動小銃が配布された。
従来の機関銃並みの発射速度を誇り、歩兵一人一人の戦闘能力を向上させる。
また4本の対戦車ロケット砲が支給された。これは再使用可能な発射装置と、24発の弾頭が配布された。
なんでもマリリン効果とかいう新理論を利用した特殊弾頭だそうで、上手く当たれば戦車も一発で撃破可能だという。
ただ無誘導兵器な為に当てるためには、かなり戦車に肉薄する必要がある。
小銃手はこのロケット砲兵を近づかせる為にいると言っても良かった。

なお、ガン・ギマリ准尉は知らないことだったが、最近のコーライ正規軍の編成では、これに分隊支援火器と迫撃砲手、選抜射手などを加えて構成されていたのだったが、やや高価な分隊支援火器と、訓練が必要な迫撃砲・スナイパーは郷土防衛部隊には省かれた。
それでも最新鋭の武器を任された自分たちは神聖なコーライの郷土を防衛する神兵なのだと信じ切っていた。

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南コーライのとある町に続く街道。
現地の地形を知悉したガン・ギマリ准尉率いる郷土防衛隊の小隊は、ウルソに向けて進軍するツイステ・モトヒノ連合軍の車列に待ち伏せ攻撃を仕掛けた。
砲弾を利用した街道の仕掛け爆弾を起爆し、敵軍に混乱を生じさせた。
とはいえ、仕掛け爆弾で損傷させられたのはせいぜいが二、三台の車両である。
地形を利用し、小銃で弾幕を張りながら、ロケット砲手が接敵する。
あと少し、あと少しで必殺の必中距離まで達する…、そんな思いで強大な装甲車両の部隊にジリジリと攻め入る小隊員。
我慢できずにロケット弾を発射して外し、発車位置が露呈し、再装填の間に戦車の砲撃や機銃で掃討される者もいた。
一人一人、次々に倒れていく小隊員。
生存隊員が半数を切ったところで、規定の射程距離に達し、二人のロケット砲手が戦車に向けて必殺のロケット弾を発射する。
しかし、必殺ではあるが、必中の武器では無い無誘導ロケット弾の一発は外れ、一発は戦車の前面装甲に当たり、なんとか撃破に成功した。
ロケットを発射した時点で集中攻撃を食らい、再使用可能だという携帯ロケット砲の仕様も意味を成さなかった。自殺兵器としか言えない。
あっという間に、郷土防衛隊ガン・ギマリ小隊の生存者は二、三名になった。
果たして、24名の兵士の命で数台の装甲車両の撃破が、軍事的に見合うものであっただろうか。
もちろん、戦車の価格を考えれば、充分な戦果であるという考えもあるが…。

そんな必死の戦闘をやや後方で冷静に見届ける者がいた。
指揮系統を別にする砲兵部隊の前線観測員の二名であった。
彼らは、戦闘には参加せず、郷土防衛隊ガン・ギマリ小隊の攻撃により、敵部隊が20分ほど進軍を停止したのを確認しつつ、敵部隊の位置を本体の砲撃大隊に打魔伝した。
観測射を見届け、修正を送り、効力射を要請する。
無謀とも言える非正規部隊での襲撃の本当の目的は、砲兵のキルゾーンに敵軍をほんの十数分だけでも足止めすることであった。
強力な150mm砲で破壊されるツイステ・モトヒノ連合軍の車両と兵員。
言うなれば、モトヒノの戦国時代にシマツ家が得意とした、釣り野伏と捨て奸を合わせて現代兵器に置き換えたような非人道的な戦術である。

ガン・ギマリ准尉達の周りにも次々に着弾する150mm砲弾。
「なんだ…これは…!!」
「おい!まだ俺らがいるんだぞ!」

ツイステ・モトヒノ連合軍の車列と彼らは運命をともにした。

効力射の着弾を見届けると、遠方から監視していた観測員は撤退した。
彼らはすぐに次の新たな郷土防衛隊の部隊に配属される。
意気軒昂な彼らの運命を知っている前線観測員の心はどんどん死んでいった。

こうした戦術は、ツイステ・モトヒノ連合軍の航空機が航空優勢を確保するまでは猛威を振るったのだった。


第134話 立ち上がれガンギマリ

2022-06-14 10:04:29 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第百三十四話 

ほぼ全兵力を無益なモトヒノ侵略作戦に投下し、損害は軽微だったものの、すぐさまとって返してダイシン帝國との北方戦線に転進させられたコーライ軍の疲弊はかなりのものだ。
そのコーライ軍部隊の配備状況・移動の状態を、仮にも友軍wたるツイステ側はしっかり把握していた。
疲弊はともかく、暫定首都のウルソや北コーライの旧首都プーヤンを超えて、大部分の部隊の北方シフトに移行が完成しかけていたところでの南の港湾都市プーサンで起きたツイステ・モトヒノ連合軍との偶発的戦闘。
理想は、ガラ空きの首都を、ツイステ・モトヒノ連合軍が北方戦線への援軍の体で、近くを通った際に急襲し、ムーン政権をサージカルストライクでスマートに除去し、あわよくばダイシン帝國の南進の大義名分を失わせる、あるいは対決が避けられないにせよ不安定要素である無能な味方という最大の懸念を排除するというツイステの決断が悪いものではなかったはずだ。
当のコーライの政府首脳・軍部も、スッカラカンの南部の状況を把握しており、北から再度南方へのコーライ軍主力に転進を命じてはみたものの、無人の野を征くが如きの精強なツイステ・モトヒノ連合軍がウルソを包囲するのを防ぐのは時間的に無理だろうと実に悲観的であった。
コーライの貴族出身高官には、国外逃亡を企てる者まで続出した。

軍事的に華麗な電撃占領作戦という当初の目論見は破綻したものの、圧倒的な戦力で戦力の空白地帯を進撃し、ウルソを包囲し、落とすプランBだって、それほど筋の悪いものではないとツイステ・モトヒノ連合軍の指揮官達も安易に考えてはいたのである。

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一路、ウルソに向けて進発したツイステ・モトヒノ連合軍の車列。
軍事的に戦闘状態であるのに幹線道路に車列を形成するなど油断の極みでしかないが、今の南部のコーライ軍に対抗できる機甲部隊や砲兵が払底しているのは承知の上での確信犯的舐めプである。

「車長、せっかく戦車を持ってきてもウルソまで戦車戦があるとは思えませんぜ。」
「まあ、そういうな。本番はウルソを占拠した後の対ダイシン帝國との対決だ。それまでは演習だと思って気を引き締めろ!演習は実戦の如く・実戦は演習の如くだぞ!」
「イエス!サーw」

そんな少し弛緩した雰囲気の車列に、道路の脇のビルの窓や屋上から、裏道から、当時の最新兵器である対戦車ロケット兵器の雨あられが突然襲ってきた。
トップアタックや側面、後方を狙われたツイステの誇る最新鋭戦車M1は次々に戦闘不能、擱坐した。さすがに砲塔が吹っ飛ぶほどの痴態は無かったがw。
そこに自動小銃や、携帯ロケット兵器、高性能爆薬ベストを装備した自殺兵が襲いかかり、戦闘歩兵車、装甲歩兵輸送車なども甚大な被害を被った。

「なんなんだやつらはッ!!コーライ軍はほとんど北に行ってお留守な筈じゃ無かったのか?!」
「ゲリラにしては装備が良すぎる!攻撃も組織だっている…。実はカンパネラが把握していなかった伏兵がいたんだ!クソッ!奴らの無能のケツを拭くのはいつも俺らだぜ!」

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そんな敵から高評価のコーライの強者達。
その正体とは、何のことは無い、その辺のプロだけではないアマチュア一般市民までが立ち上がった義勇兵である。
普通の国で、一般市民が突然銃を手に取って軍事行動を始めたところで所詮は烏合の衆になるのが関の山であるはずだ。
しかし、コーライはまったく普通の国ではなかったw。
数十年にわたる分断国家は、南コーライでは二年、北コーライでは十一年の兵役を全国民男性に課し、労働年齢の男子のほぼ全てが近代的な軍事的素養を身につけていた。
その辺の国民に竹槍で訓練していたようなマヌケな国とは違う。

もちろん、そんな兵士の素養だけで、強力な義勇兵が出来るはずは無い。
それを支えたのは、豊富な装備・兵器であった。
当のコーライ軍の首脳はもちろん、ツイステ・モトヒノ連合軍の諜報部も正規軍の戦力は念入りに把握しており、侵攻に当たって正規軍がいないのを確度の高い情報として掴んでいた。
ただ、彼らが数えていなかったものがあったのだ。
国外輸出向けの兵器が、工場に、プーサンからの出荷を待つ倉庫に、それこそ「売るほど」大量にあったのだ。
それは、近年、ムーンのもたらした新構想の技術が結実したコーライ製兵器が、国外にバンバン売れていたことにより、正規軍があと二つは揃えられそうな在庫が船便での出荷待ちの状態であった。

攻守双方の正規軍人達は、もとより員数外、国内での使用を想定していないそれらを数の内に入れていなかった。
愛国心に駆られた兵器製造者・輸出業者は、それらを義勇兵に無料放出したのだった。

そして最後の最大のファクターであるが、それはムーンの持つ異能「夜郎自大」によるコーライ国民の異常な志気の高まりであった。
この異能は、自国への愛国心を異常なまでに過熱させるという特性を持っている。
数千万人の命知らずの挺身兵という敵軍にとっての悪夢。
高性能爆薬を持って、M1戦車の底面に走って滑り込み、自分で起爆するというマジキチの戦術や、助けを呼ぶ母親を保護しようとしたら赤ん坊は爆発する赤ちゃん人形だったなどという狂気には、ツイステ兵の精神は大いにヤられた。

エアカバーについてもいつものツイステの一方的な弱い者イジメのパターンが通用はしなかった。
プーサンに橋頭堡こそ確保し、陸揚げは出来たが、空軍基地の確保にまで至らなかった。
一方、コーライ側は、さすがに航空戦力の呼び戻しは、比較的短時間で行えたし、東海(モトヒノ海)に浮かぶ、今世界唯一の原子力空母の艦載機もあったために、コーライ本土上空での制空権とも言われる絶対的な航空優勢をツイステ・モトヒノ連合軍が確保することはかなわなかった。
もちろんツイステ・モトヒノ連合軍はプーサンの郊外に急遽、仮設飛行場を設営はしたが運用上の制限が大きく、また航空機の質でもコーライ製のFK-21は、今世界航空機発祥の本家だけのことはあり、ツイステ・モトヒノ連合軍の装備の主力戦闘機F-1/2/3より質の上では優っていたのである。
余談であるが、せっかくのコーライの誇る唯一の原子力空母であったが、戦場が本土である以上、艦載機はむしろ陸上基地で運用・活用した方が制限が少なく(STOLで発艦する戦闘機は燃料や兵器搭載量に大きな制限がある)、広大な大海原の戦場で機動戦を行うには、モトヒノ海は狭すぎるのであるw。
莫大な軍事費を費やして建造したにしては、国防には大して用兵・戦略的に役に立たない無用の長物なのであった。
まあ、本当はこれはあくまでデモ機で海洋覇権国家・侵略戦争大好きなツイステ当たりに高額で売り払う腹づもりだったのではあるが。

加えて、コーライの軍首脳は、コーライの南部に、出荷前の員数外の新品の戦車や自走砲、砲弾があることにようやく気付き、妙案を思いついた。
北に派遣した戦車や自走砲を再度南に派遣するには輸送上の困難が極めて大きいと見切り、そうした正規軍の戦車兵・砲兵を下車させ、暴走トラックや特急魔導列車で、身ひとつで移動させることにした。
南の工場や倉庫で、まだシートにビニールを被っているような新車を受領し、戦力化させたのである。
さすがに義勇兵だけで正規軍を相手にするのは無理があったが、正規に訓練を受けた専門技能を持った乗員だけを高速輸送するという鬼手で、これで、なんとか戦車戦・砲戦を行えるだけの体制を間に合わせることが出来た。

 


第133話 ミンジョク自決

2022-06-09 09:32:34 | 召喚大統領が異世界を逝く!

第百三十三話 

「プーヤンで、ツイステ・モトヒノ軍との戦闘が始まりましたッ!」

「ハァアアア?!」

愕然とするムーンを始めとするコーライ政府首脳。

「誰が勝手に戦闘を始めたニダ?!停戦を命じるニダ!!ツイステ・モトヒノ大使を呼ぶニダ!!」

とパニックを起こし、叫ぶムーン大統領。

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押っ取り刀で大統領官邸・赤瓦台まで駆けつけた在ウルソ・ツイステ大使であった。
モトヒノの大使は、大使館が群衆に囲まれ来られないとの無情な通達をよこしたw。

開口一番、ツイステ大使が言う。
「貴国が我がツイステ軍に組織的襲撃を加えたとの報告を聞いております。いかなるつもりなのか。」

「そんなの知らないニダ。何かの陰謀ニダ。友軍の振りをしてだまし討ちなどウリナラがするわけがないニダ!!」
と必死に訴えるムーン。

「フッ…。なんてね…、わかっていますよ…。我が軍の諜報の水準はお粗末なモノです。友軍のフリをしてウルソまで軍を展開し、一気に斬首作戦を行うという秘策も神算鬼謀を誇る貴君にはバレバレだったのですね。ここまで来たらいいわけはしません。」
と、言い放つと、元海軍大将だった経歴の大使は、懐から拳銃を取り出すと、自分の口にくわえて発砲した。
どこまで自国政府の人間から信用が無いんだカンパネラ(ツイステ中央情報局)w。

目の前であっという間に自裁した大使を見てムーンのパニックは更に増すことになった。
平時でさえ、友好国であるはずの大使が民衆に切りつけられるコーライである。
戦争状態になったら敵国の大使が民衆にリンチされ、死体を槍の上に突き刺されてデモされるくらいの事態を予想して悲観した元軍人のツイステ大使の悲壮な思い切りの良過ぎる身の処し方であった。
どうせなら手榴弾のピンでも抜いてムーンも巻き込めばもっと良かったのであろうにw。

大脳部が吹っ飛んだ大使の遺骸を前に、恐怖と困惑の極みに陥ったコーライの首脳部。

「どどど、どうするんですか?」
「どッ、どうするニダ?!」
「とにかく、ツイステ・モトヒノが我が国を支援するために軍を派遣したんではなくて、占領するために来たのは明白なのねん!」

その場で、一番肝が据わっていたのは、キムボール・ジョンソン将軍であった。
何十年も対ツイステ・ダイシン帝國戦略を指導していただけはある。
というか自分の手で部下を目の前で処する血生臭い場数が一線を画しているw。

「といっても、南のモトヒノに派遣したと思ったら、こんどは北のダイシン帝國国境に軍のほとんどを転進させて、南方の戦力はガラガラですよ!」
「すぐに呼び戻すニダ!」
「とはいえ、度重なる内線戦略は破綻寸前で、急には展開できないのねん!」

このボンクラ政権の軍事的良心は、まだ軍事的素養のあったキムボール・ジョンソンだけだという悲劇w。

「モトヒノ大使を呼び出すニダ!」
「魔伝話してみましたが、大使を呼びつけて殺害するようなところには怖くて行けないと拒否られましたァ!」
「なんで、もうバレてるニダ!ていうか、ウリがやったんじゃないニダ!濡れ衣ニダ!」

ちなみに覚悟ガンギマリのツイステ大使が、友邦たるモトヒノの大使に生前・召喚直前に万が一の際には自決するからそれを政治利用しろと因果を含めていたのだった。
ツイステ大使のあまりの愛国心にモトヒノの大使は感涙したという。

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かくして組織的抵抗は難しい、強力なツイステ・モトヒノ連合軍はすぐさまウルソまで到達し、だまし討ちよりは多少抵抗は出来ても城下の誓いを行わさせられるまでさほど時間は掛かるまいと当のムーン大統領ですら覚悟していたのだったが…。