第二十七話
今代のツイステ合州国大統領、フラリー・クリトリン(阿羅漢いやアラカンのハンサムウーマン)は苛立っていた。
元大統領の夫のインターン女子大生との「不適切な関係」がマスコミに暴かれたときに、夫を支える献身的な妻を演じなくてはいけなかったときの、次くらいにブチ切れていた。
歴史的な初の女性大統領になれたのは幸運であったが、今でもあのクソ夫と仮面夫婦を続けなくてはいけないのは実に業腹であった。
女性だから融和的だとか性的にいや政敵に攻められるのを避けるため、マッチョな政策態度を示し続ける必要がある。自然と反ツイステ国に対して強気の態度を取ることはおろか、友好国に対しても高圧的とも取られかねない傲岸な態度を示していた。
そのくせ、大統領選では少なくない選挙費用をダイシン帝國企業からあの手この手で偽装した上で提供されており、正しい仮想敵国足るダイシン帝國本国に対しては明確な敵対政策をとれないというジレンマも抱えていた。
なにしろ先代の大統領達が、北ツイステ大陸の南にあるカリビ湾のドット、コムなどのめぼしい反ツイステ傾向の小国相手には戦争をふっかけ済みであり、「最後の開拓地」は東ナジア(ダイシン帝國・コーライ・モトヒノなどを含む地域)方面にしか残っていない。
そうなると、手の振り上げ先は、ダイシン帝國に取ってもそこまで惜しくはないと考えられる鶏肋小国、すなわち北コーライあたりなんかが、ベストなのであった。
建国以来反ツイステ的な態度を一貫していたし、特に先代のキムボール・マサニチになってからは、先軍政治という軍事偏重の政策を採る理由として反ツイステ色を強化していた。
しかしキムボール王朝が本当に警戒していたのは、実のところ宗主国たるダイシン帝國である。ふたたび吸収され、屈辱的な隷属を強いられないように「主権」思想を唱え、自主独立の気運を高めていた。
禁術と化しつつあった、戦略級極大術式の開発を臭わせ、ツイステ合州国を苛立たせていたが、キムボール・ジョンソンの代になって、とうとう戦略級極大術の起動実験に成功したとぶち上げた。
これまでも戦略級極大術式の開発を行おうとした小国はいくつかあったが、諜報・外圧・軍事侵攻とあらゆる手を使って潰してきた。
であれば、北コーライを軍事侵攻で潰す方針自体は確定的に明らかなのであったが、もし本当に戦略級極大術式の実戦投入可能段階にあれば、自国土の縦深深くに大軍を引き込んだ上で、自爆されれば友軍に大損害を生じる。
建国以来、戦争をしていなかった時期がないくらい戦争ジャンキー国家、ツイステ合州国も近年、自国兵士の命のコストが高騰していることには悩まされていた。
もちろん近代戦術に対応できる高度な専門職の育成には多大な費用が必要という面もあったが、それ以上に戦死者の数字の政治的コストの方が大問題である。
大洋戦争・代理戦争時代のような戦死者数をもはや、現代のツイステ合衆国国民は許容できなかった。
反戦組織が募金を集めて、大都市に、広告看板を出した。
「ツイステ・ボディ・カウント」と題したそれは単に、「今日の戦死者・今年の戦死者・今政権になってからの戦死者」の数字を毎日更新するというだけのシンプルなものであったが、雄弁な反戦プロパガンダのスローガンを掲示するより強力な反政府PRであった。
北コーライに自国の正規軍の大軍を派遣し、大量の自国兵士の戦死者を積み上げれば、政権は吹っ飛びかねない。
したがって、北コーライ戦の先頭には、鉱山のカナリアのように、名目上は戦争継続中の南コーライに立って貰う必要があった。
ところが、今のパーク政権になってから、南コーライも、なにか素直にツイステの命令を聞かなくなってきた。
面従腹背という四字熟語がツイステにもあったら、それだ!と頷いていたことだろう。ツイステと一緒に北コーライを責めるべきなのに、最近、妙に北に対して融和的な小細工をしかけているのだ。
ホワイトライハウスのオパールオフィスでの、フラリーが国務省の高官に尋ねた。
「それで、北コーライ包囲網の進捗状況はどうなの?」
「ハッ、ツイステ側陣営からの経済制裁は、それなりに北コーライの上層部の贅沢な生活には打撃を与えているものの、最小限の戦略物資の供給がダイシン帝國から供与され続けており、軍事的な決め手に欠けています。そこにきて、最近、南コーライが、分断家族の面会、観光事業などの名目で裏の資金援助をしている節があります。共同の工業特区・南北鉄道開通に至っては、明らかに国際(といってもツイステ側のみだが)制裁規約に反するものですが、これも条文の裏をかくような方策を練って進めようとしているようです。」
「南コーライ大統領のパーク・シネという女はそんなに狡猾な女だったかしら、頭の軽い御神輿としか思えなかったのだけれども…。」
初の首脳会談時に「女性大統領同士仲良くしましょう!」と寄ってきたときは鳥肌が立ったものだった。
「はい、なにか最近、入れ知恵をするような狡猾な戦略家でも登用されたのかとも調査しましたが、大きな人事の変化はないようです。調査を継続します。」
「あの忌々しいコーライ人たち、北も南も本当にろくでもない。まとめてエルフにでも焼かれてしまえば良いのよ!」(”エルフに焼かれろ”はツイステ語で"地獄に行け"と同等の慣用句)
とフラリーは、手にした資料ファイルを机に叩きつけた。
「………。(女のヒステリーやっぱ怖え)」
国務省の高官は、口に出そうものならポリコレ棒で撲殺されそうな感想を心の中に押しとどめて、やりすごそうとするのだった。
「最悪、使えないパーク政権は、全取っ替えして、もう少し使い勝手のよい戦争向けの軍事政権を樹立させるいつもの手も計画しておきなさい。」
と、いともたやすく行われるえげつない内政干渉である。
オコメ国務長官が
「ハッ。あの国の軍事クーデターなど日常茶飯事です。蜂起してから、短時間で国王の前で反乱軍が忠誠を誓って、新政権を樹立するのはもはや様式美の域ですね。ピース・オブ・ライスケイクですわ!」
と追従する。
かくしてパーク政権の命運は、まったくコーライ国民の意思とは関係なく、定められてしまった。
オコメ国務長官は誰だろう。
あの人はロバじゃなくてゾウさんだろうというツッコミは感受します。
知名度のインパクト重点なので。
黒人ネタはアフリカを無くしてしまったので絡めづらいのです。
なかなか難解ですね。うーん