働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

裁量労働制対象業務拡大を経団連など使用者側委員が要求(3)

2022年12月21日 | 裁量労働制
厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の労働条件分科会で経団連などの使用者側委員が裁量労働制対象業務拡大を強く要求しているが、連合などの労働者側委員が激しく反論している。この裁量労働制に関する議論は2022年7月27日に開催された第176回 労働条件分科会から始まり、現在(2022年12月21日)、昨日(12月20日)開催された第186回 労働条件分科会でも議論が継続している(裁量労働制が議論された労働条件分科会は第176回、第177回、第179回、第181回、第182回、第183回、第184回、第185回、第186回)。重要と思われるので連続して記事を投稿したいが、今回の記事は第179回 労働条件分科会(9月27日)での議論になる。

第179回 労働条件分科会 裁量労働制に関する委員意見
2022年9月27日に開催された第179回 労働政策審議会 労働条件分科会において(厚生労働省サイトに公開された議事録によると)労働者側代表として連合の冨髙裕子委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長)は、裁量労働制の対象業務に関して「裁量労働制が適用されますと、通常の労働時間管理を外れ、みなし労働時間制になるわけですけれども、そういった中で、正確な労働時間の把握がされない事案が増えることは、裁量労働制実態調査の中でも自己申告という回答をした割合が専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制ともに3割を超えているという状況からやはり明らかではないかと思っております。その対象業務を拡大するようなことになりますと、労働時間を正確に管理されない労働者の数が増えるのではないかということを我々としては大いに懸念しております。長時間労働を助長して、労働時間法制の原初的な使命、これは報告書の中にも書いてありましたけれども、労働者の健康確保というのが最も重要であり、その観点から問題がある事案を増やしかねないのではないかと思っております。従来から申し上げているとおり、安易な拡大については私どもとしては反対ということを意見として申し述べておきたい」と発言し、裁量労働制対象業務拡大に反対した。

使用者側代表として山内一生委員(株式会社日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長)は「前回の本分科会において安藤委員(安藤至大・日本大学経済学部教授、第177回 労働条件分科会における安藤委員の発言は「裁量労働制対象業務拡大を経団連など使用者側委員が要求(2)」に掲載)より、裁量労働制の対象業務の拡大について、現時点でのニーズを把握する必要があるという御指摘をいただいたかと思います。この御意見に対して、この時間をいただいて、御指摘のニーズについて触れたいと思います」と述べてから「使用者側としては、目まぐるしく変化している社会・経済情勢の中で、働き手が主体性を持って自らの知識あるいはスキルを最大限に発揮できる環境を整えるため、平成29年、本分科会で示されました働き方改革関連法案の要綱に企画業務型裁量労働制の対象業務への追加と記されました課題解決型開発提案業務と裁量的にPDCAサイクルを回す業務の2つの必要性はむしろ高まってきていると考えております」と発言。

そして山内一生委員(株式会社日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長)は 具体的な事例を挙げたが、「まず課題解決型開発提案業務についてです。例えば車両メーカーでは、CASあるいはMaaに象徴されるように、事業に求められるものは大きく変化してきております。例えば、従来の製品を開発して製造して車両を提供するというビジネスから、IoTの発達によって渋滞や事故の発生をリアルタイムで感知、回避したり、盗難車両の追跡や保険料の算定に役立てる等々、車両を提供するだけではなくて、移動の利便性の向上、あるいは地域の課題解決に向けて、車両開発とITサービスを組み合わせた車両の使用状況、故障、修繕実績等のデータを一元的に管理する管理システムを開発提案する業務が増えてきているというのが実態としてあります」とつづけた。

また、山内一生委員(株式会社日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長)は、具体的な事例として「システム開発会社においても、従来、システムエンジニアや組み込みエンジニアの業務から、お客様のニーズ、特にお客様の課題を解決することを目的としたソリューションとしてのIシステムを提供するために、提案から開発まで行ういわゆるデジタル人材のニーズが非常に高まっております。以上のとおり、デジタルトランスフォーメーション化が急速に進む中で、ITシステム、あるいはハード製品とITシステムの組合せといったサービスを、お客様から潜在的なニーズを探りながらオーダーメードで提案する課題解決型開発提案業務は今後一層拡大していくことが予想されております」と。

さらに山内一生委員(株式会社日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長)は、裁量的PDCサイクルを回す業務について2つ事例を挙げているが、「例えば機械メーカーの生産ラインにおいて作業改善計画を立案するP。計画に基づいて改善施策を施行するD。結果を測定するC。そして、結果測定を踏まえて改善点を洗い出して本格実施に向けるA」と発言し、また「人事部門においても、現在進めている働き方改革、これらの推進施策を企画・立案するP、そして実行するD。ただ、経営層の意見、あるいは従業員からサーベイを通じた意見、これらを踏まえて改善を重ねていく、チェックをするC。そして、改善を重ねてさらに実行に移していくA。いわゆるこれらのPDCAサイクルを回す業務というのは企業において非常に数多く増えてきておるのが実態であります」「DXやGXなど我々を取り巻く事業環境の変化に伴い、従来以上に裁量労働制の適用拡大を求める声は増えております。正しく適用、運用すれば、労使双方にとってよい制度であるという前提に立って、経済社会の変化に合わせた制度の見直しをしていくことを強く要望いたします」と裁量労働制対象業務拡大を求めた。

経団連の鈴木重也委員(一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部長)は、山内委員につづき裁量労働制の対象業務追加ニーズについて「近年、事業者等による資金調達方法が多様化し、金融機関では個別の顧客のニーズに応じたファイナンススキームの組成が行われたり、実際、M&Aや事業承継の件数も増えています。財務計画や企業の価値の分析を含めたM&A、事業承継に関する専門的なアドバイスを金融機関から受けたいというニーズは一層高まっていると思っています。改めて銀行等からニーズについてのヒアリングもさせていただいたところ、金融機関において、顧客に対し、資金調達方法や合併、吸収、買収等に関する考案及び助言を行う業務は極めて専門性が高く、労働時間とその成果が比例しない性質のものであり、まさに裁量労働制の対象にふさわしいものと考えております。こうした業務に就かれる方の年収水準は高く、満足度も高いと考えられますが、我が国の賞与決定の方法が、個別企業労使で都度決定をする、あるいは変動部分の報酬も高いということもありますので、例えば高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくないと思っています。こうした状況を踏まえますと、金融機関において、資金調達方法や、合併・買収等に関する考案及び助言をする業務に従事する方の能力発揮を促して働きやすい環境を整えるには、裁量労働制の対象への追加が適当ではないか」と発言。

使用者側委員の意見に対して労働者側の八野正一委員(UAゼンセン会長付)は「今、使用者側からのお二方の意見に関して、現下の企業変革に伴う様々な対応が必要だということについては理解します。ただ、前回申し上げましたように、まずは企業の明確な方針、ビジョンがきちんとあって、その上で人事制度が設計されて、どういう働き方なのかということが決まっていくことになると思いますので、企業変革に伴う対応が直接、裁量労働制の拡大には結びつかないと認識しております」と反論。

また、八野正一委員(UAゼンセン会長付)は「今、鈴木委員(経団連)は資金調達の例を出されました。そこで働く人たちは高額な報酬ではあるものの、高度プロフェッショナル制度の年収要件までには達しないから、企画業務型裁量労働制の拡大が必要という発言のように聞こえました。高度プロフェッショナル制度を作るときにおいても議論されたところですが、制度の求める年収要件や様々な要件において合わないからといって、それを裁量労働制の拡大に結びつけることは労働時間法制のロジックから外れていると認識しておりますので、意見として申し上げておきたい」とも発言。

労働条件分科会の議事録を読んで思うこと
日経は「M&A(合併・買収)などを念頭に専門型の対象も追加する方向」(日本経済新聞『裁量労働、「専門型」で本人同意義務に 働き過ぎに配慮』2022年12月22日配信)と報じたが、専門型 裁量労働制への対象業務追加は企画型と違い法改正不要で省令等だけですむため労働組合や弁護士らから「裁量労働制の拡大に反対」する声が強まった。だが、指摘されていないようだが、最初にM&Aを対象業務にと提言したのは9月27日の労働政策審議会分科会で経団連の鈴木委員。

その際、鈴木委員は「高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくないと思っています。こうした状況を踏まえますと、金融機関において、資金調達方法や、合併・買収等に関する考案及び助言をする業務に従事する方の能力発揮を促して働きやすい環境を整えるには、裁量労働制の対象への追加が適当」と発言。

この鈴木委員の意見に対してUAゼンセン・八野委員は「高度プロフェッショナル制度の年収要件までには達しないから、企画業務型裁量労働制の拡大が必要という発言のように聞こえました。高度プロフェッショナル制度を作るときにおいても議論されたところですが、制度の求める年収要件や様々な要件において合わないからといって、それを裁量労働制の拡大に結びつけることは労働時間法制のロジックから外れている」と反論。八野委員の意見には同感するし、鈴木・八野両委員の議論は重要だと思う。

追記:M&A考案・助言業務を専門型裁量労働制に
朝日新聞は「厚生労働省は(2022年12月)22日、事前に決めた時間だけ働いたとみなして一定の賃金を払う『裁量労働制』を適用する対象に、銀行や証券会社でM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務を加える方針を固めた。近く審議会で労使の了承を得て、結論を出す。来年(2023年)省令を改正し、再来年(2024年)に実施する見通しだ」(朝日新聞デジタル版「裁量労働制、対象業務を追加へ 銀行・証券でM&Aの考案・助言」2022年12月23日配信)と報道。

追記:厚生労働省が労働政策審議会 労働条件分科会報告書を公表
本日(2022年12月27日)、厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の第187回 労働条件分科会が開催され、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」を了承し、厚生労働省は労働政策審議会 労働条件分科会報告書「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を公表した。

今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(PDF)

上記の労働政策審議会 労働条件分科会報告書には「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」には、裁量労働制の対象業務について「企画業務型裁量労働制(以下『企画型』という。)や専門業務型裁量労働制(以下『専門型』という。)の現行の対象業務の明確化を行うことが適当である」「 銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務について専門型の対象とすることが適当である」と記載されている。

また、時事ドットコムニュースは「厚生労働省は27日、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会を開いた。あらかじめ労使で決めた時間を働いたと見なす裁量労働制の対象に、企業の合併・買収(M&A)に関わる金融機関の業務を加える案を示し、了承された。厚労省は今後、省令改正などに向けて手続きを進める」(時事ドットコムニュース「裁量労働制、M&A業務を追加へ 厚労省」2022年12月27日配信)と報じている。

そして、朝日新聞デジタルは「事前に決めた時間だけ働いたとみなして賃金を払う『裁量労働制』を適用する対象に、銀行や証券会社でM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務が加わる。厚生労働省の審議会が27日、正式に決めた。業務の追加は約20年ぶり。2023年に省令などを改正し、24年に施行する見通しだ」(朝日新聞デジタル『裁量労働制、「M&Aの考案・助言」も対象に 業務追加は20年ぶり』2022年12月27日配信)と報じている。

なお、労働政策審議会・労働条件分科会の使用者側委員は専門型ではなく企画型裁量労働制にPDCA業務などの追加を要求していたが、労働者側委員の強い反対意見もあり、今回は見送られることになり、銀行や証券会社で顧客に対するM&A(企業合併・買収)の考案・助言をする業務のみが専門型裁量労働制が加わることとなった。

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裁量労働制対象業務拡大を経団連など使用者側委員が要求(1) - 働き方改革関連法ノート

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