監督・脚本: 是枝裕和
出演: 福山雅治 、尾野真千子 、真木よう子 、リリー・フランキー 、二宮慶多 、黄升 、大河内浩 、風吹ジュン 、國村隼 、樹木希林 、夏八木勲
映画『そして父になる』 公式サイトはこちら。
第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞という輝かしい賞を引っ下げてきた是枝監督の新作、先行上映で観るしかないでしょ!
ということで早速行って来ました。
下記、ネタばれ多少含みます。読まれる方は自己責任で。
学歴、仕事、家庭といった自分の望むものを自分の手で掴み取ってきたエリート会社員・良多(福山雅治)。自分は成功者だと思っていた彼のもとに、病院から連絡が入る。それは、良多とみどり(尾野真千子)との間の子が取り違えられていたというものだった。6年間愛情を注いできた息子が他人の子だったと知り、愕然とする良多とみどり。取り違えられた先の雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)ら一家と会うようになる。血のつながりか、愛情をかけ一緒に過ごしてきた時間か。良多らの心は揺らぐ……。(Movie Walkerより)
エンドロールでこちらの本がテロップに出てきました(恐らく参考文献だと思いますが)。
「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年」
「赤ちゃん取り違え事件」は、出生率が高く1つの産院でたくさん出産があった時代に起こった出来事で、それを防止するために産婦人科などではいろいろと取り組みがされているはずだと思うんですが、今こうして映画にこの題材が出てくること自体、身近で滅多に見聞きしないことなので珍しい。
しかし今回監督がこの題材を選んだ理由、それはこの出来事が引き起こす関係者の心の葛藤がより複雑になるからだろう。この登場人物全員、老若男女に訪れる心の揺れを見るのが本作である。
ずっと育ててきた我が子とは血のつながりがないことが分かった時、そのことが一体何を生み出すのか。
「まだ6歳なんだから早く戻した方がいい、早い方がお互いに苦しまなくて済む」というのは「一般的な意見」なのだろう。しかしその発言は完全に他人事として捉えている人間のセリフだ。実際、子どもが生まれた時から6年間世話をしてみた人間なら、簡単にそんなことは言える訳がない。赤子の時から手塩にかけて育てて、愛情をいっぱいにかけて人間としての基本的なことが完成する大切な期間を共に過ごし、1つ1つの成長をじっと見守って来た人ならば。
母親は父親に比べれば圧倒的に子との距離が近いだけに、出産後すぐに親としての意識が芽生えるが、父親はそうはいかない。仕事に追われ、子を持つ前の生活を要求すればするほど、「父親になる」ことの実感が湧かない男性は多い。望むものを全て勝ち取って来た良多のような男性は子育ては妻に任せきり。一応教育方針を口にしてはいるけれども、それは子どもの気持ちを汲んでいない。そして子の気持ちを汲まない頭ごなしの要求は、日頃子の面倒を見ている妻とも食い違っていってしまう。
周りは「6歳だから何もわからない」と思っている。しかしながら6歳の子どもの感受性や記憶力は、大人が推測するよりも遥かに高度である。社会性もある程度は身についているので、家族とそうでない人との距離感も取れている。その子たちに取り違えの事実をどうやって納得させるのか。
「血は水よりも濃い」、しかし「氏より育ち」でもある。6歳であれば全てお見通し。幼い記憶に刷り込まれた習慣はそう簡単には消せないはず。子どもたちには「血筋」の概念などない。あるのは生まれてから家族と過ごした時間だけ。生まれてから一心に信頼して来た父や母、兄弟たち、一番身近な家族の存在だけである。ある日突然、もうその人たちとは一緒にはいられないんだといくら口で言い聞かせたって、心は納得するはずがない。
他人事の男たちが繰り出す「一般的な意見」、頭では分かっているのにそんなこと受け入れられる訳はない。理屈では割り切れない親子の情にヒビを入れることに対して、母と子は割り切れないことは百も承知。推し進めるのは良多や良輔、上司の上村、弁護士、一部の男たちだけだ。たぶんだが全員真剣に子育てに向き合わなかった生き方を送ってきているはず。
しかしながら論理としてまかり通ってしまうのは「一部の男たち」の意見である。本作はこれに真っ向から疑問を突き付けている。果たしてそれでいいのか、それが全てなのか、ということである。
なので見方を変えれば本作は「一部の男たちVSその他大勢」の映画でもある。プレゼン模型に「家族を少し増やして」と部下に指示していても「一部の男たち」にとってそれはあくまでも仕事でしかなく、良多にとっての家族もまた、自分を彩る風景に過ぎない。その証拠に自分と似ていない、ハングリーさに欠けおっとりとした性格の慶多に苛立つのである。
ここで「一部の男たち」と書いたのは、雄大夫婦はそこまでは考えてはいないからだ。雄大は自営なので家族と接する時間が多く、必然的に結び付きが強くなる。世の中にはそんな男も恐らくは多いだろう。選別志向の強いセレブでなくても立派に生きている人の方が圧倒的に多い。そして雄大夫婦は腹をくくっている。
逆にゆらゆらと定まらないのはセレブにも関わらず良多夫婦の方だ。親はライフスタイルを譲らず、子にもお受験をさせて型に嵌めているのに、揺るがないものが全く形成されていない家族がいかに脆いことか。
とあるものを慶多が「いらない」とする理由、これを知って良多はまた大きく成長したのではないか。自分が今まで嫌って来た粗野や大衆的なもの、上昇志向ではないもの、全部ひっくるめて「家族だから愛したい」気持ちに素直になること。それこそが家族の原点である。
人が子の親になった時、すっかり抜けているのは、自分もまた人の子であったということ。親になって初めて知る気持ち、好こうが嫌悪しようが知らずのうちに自分もまた親と同じ道を歩んでいる皮肉。父の良輔との間の出来事が形作っていた良多の心のバリアが破れた瞬間である。良多と良輔との間では成し得なかったことを、良多と慶多は超えたのだ。
大筋では話の運び方などは整っていると思うが、それでもいくつか疑問点も噴出する。
子どもたちに対して、両家で統一してきちんとしたコンセンサスを施したのかどうかは不明だが、この状況を物の道理がわかっている6歳の子に納得させるのは至難の業のはず。決定打をどう説明したのかを描写として出さないのは少しどうかと思う。
そして何でも手に入れてきた良多が「よく思われていない」理由も今一つよくわからない。上司・義母・妻の言葉などで推測させてはいるが、それだけでは人から恨みを買うほどなのかとも思う。「起こり得ない事件が起こった理由」は劇中で出てくるが、「平穏な家庭を妬んだ」という一言だけで良多たちセレブ組を表している。しかしながら短期間しか接していないのに、そこまでするものだろうか。「発作的にその人物が抱える心の闇が現れてしまった」ことにしたいのだろうけどこれでは弱い。
親が思う以上に子は、夫が思う以上に妻は、それぞれ違う尺度で物事を捉え齟齬を生む。しかしそれはこの家族のように特異な状況でなくともどんな家族でも通る道である。「そして父になる」、これは家族を愛しているつもりの男たちに向けた痛烈なメッセージである。仕事人間の父親は、家族を愛するお父さんたる資格があるのか、一度周りの人に訊いてみてはどうだろう。
★★★☆ 3.5/5点
それが6歳にもなればなおのこと。
福山雅治さんだけに「家族になろうよ」という結末に辿り着いてくれたのは、素直に嬉しかったです。
3~4歳でもドキッとすることを言ったりするんですよ。
なので6歳なら家族の概念はしっかりとあると思いますね。
私には子育て経験がないので
6歳の子供がどのくらいの感受性を持っているのかは分かりませんが
自分の幼少期の事を思い返してみると…
3歳の頃の気持ちを今でも覚えているのです。
それはひとつではなく幾つもあって
しかも全て悲しい気持ちの記憶ばかりなのです。
例えば、
犬に追いかけられた記憶とか
従弟におもちゃを取られた記憶とか
ひとりで母親を待っていた記憶とか…
どれも泣いている状態でした。
子供の気持ちって楽しい時よりも悲しい時の事の方が
後々まで記憶に残るのかもしれませんね。
そういえば以前、テレビ番組で
南米で起きた子供取り違え事件の再現ドラマと
今のその家族の様子を見ました。
子供は4~5歳の男の子だったかな?
各々の子供には本当の事を分かりやすく説明して
子供を本来の親の元へ戻した今でも
互いに近所に住んで交流しているというハッピーな結末でした。
大人の都合だけでなく
子供の気持ちも考えて子供も納得できるように
大人が配慮してあげないとダメなのだとは思うのですが
それって結構難しい事なのだと思います。
3人の母親になった私の20年来の友人は
「育児」は「育自」なのだと言っていましたが
子育てって本当に頭の下がる想いです。
>しかも全て悲しい気持ちの記憶ばかり
人間って不思議なことに、楽しいとか嬉しいという記憶よりも、悲しいことのほうが残ってしまったりするものですよね。
3歳4歳、物事の機敏が少しはわかって来る年頃です。
今回のこの6歳くん達は、3歳よりももっと社会性が発達していますから、こうして家族を変えることは全く将来の記憶に残らないということはないと思います。
それでも長い人生、彼らが幸せだったと思えるのは、本来の家族の下で過ごした時間かもしれません。そこは何とも言えないのですが、愛情を持って考えてあげることが大事だと思いましたね。
真木よう子の台詞が突き刺さります。
うちは当分猫のお父さん(兼お母さん)でいいです(´~`;)
映画を見ていない家人に、
あれこれあって、一回別れた父と子。
久しぶりにふたりは再会する。
さて、そのとき子どもは?
と、問いかけてみたのですが、
やはり正解ではありませんでした。
しかし、あの後、
この父と子はどうなったんだろう?
ぶっきらぼうかもしれないけど温かいお母さん、という感じでした。
にゃんこちゃんもいろいろあるかもしれないけど、人の子ども育てるよりはたぶん楽ですよね(汗)
将来の心配しなくてもいいからねえー。。 って、心配してたらすいません。
そこで投げかけちゃうのが是枝監督流なのでしょうね。
6歳くらいだと、人間としての成長過程がまだまだ不十分なんだけど、何も分からない訳じゃなく。
デリケートな問題なんだと思います。
身近な人の中に
相続問題の発生だのと諸々の人もいるから
逆に 真理じゃない想像パーツだなぁと
絶対 素晴らしい!って言い切れないな
なんたら映画祭ですげーとか言われてたけど
へ?!こんなんで映画祭、取っちゃうの?
うぇぇぇぇもっと すっげぇドロ沼でヘドロって
暴力とかになったりもするんだけどねぇ・・・
と 逆に ????って感覚の私 (闇討ちしないで)
縁組の要件って6歳未満の事とかで
互いの家庭って凄く苦しむんだけど
そういう汚い部分、もっと描いて欲しかったな←知らない人、多いのかな
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実の親、育ての親とは言いながらも
答えを出すのは「時の薬」
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子どもって実は「大人~親達」を観ていて
顔色を伺ったり憶測して行動したり・・・だよねぇ
>そういう汚い部分、もっと描いて欲しかったな
そうだよね。あまりにもあっさりとし過ぎって言うのはあったかな。
大体子どもが納得する訳がないじゃん!って思うのよ。
子どもって6歳にもなるとほとんど親のこともわかってるからね。侮れません。