原題: A Prayer For Rain
監督: ラヴィ・クマール
出演: マーティン・シーン 、ミーシャ・バートン 、カル・ペン 、ラージパール・ヤーダウ 、タニシュター・チャタルジー
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1984年12月2日から3日にかけての深夜、インド中部のボパール市にあるアメリカ企業ユニオン・カーバイド社の殺虫剤工場からイソシアン酸メチルの猛毒ガスが漏れ出し、ひと晩で1万人とも言われる多数の死者が出る甚大な被害となった。本作はこの「ボパール化学工場事故」を基にしたドラマである。リキシャ(三輪車タクシー)の運転手ディリープの目を通して、外資系企業に依存する町の状況と、大惨事に至るプロセスが克明に描かれている。(TIFF公式サイトより)
映画の前に、まず「ボパール化学工場事故」について知っておいてもいいと思うんですね。
もう30年前の話が今、克明に映画化されています。
ボパール化学工場事故 wiki
アメリカ資本の巨大化学工場がインドに作られることの意味は、付近住民には当時はわからなかったかもしれないが、周辺から冷静に眺めると海外に製造拠点を置き、安い賃金で利益を上げる以外の何物でもない。しかしボパールの人々にはそんな実態は知らされず、ユニオン・カーバイド社に雇用されることが貧困から手っ取り早く抜け出せるという意識しかない。
ユニオン・カーバイド社はいかなる企業運営をし、付近住民の生活にどんな影響が出るかなんて一切知らせないし、製造工程も遠く離れたアメリカから派遣された技術者や責任者が指示するだけで、現場の作業員が工程を省略していようが全くお構いなし。ただひたすら生産高が上がればそれでいいという企業風土の元、この事故が起きた。
この話をこうして書いていると、そのまま日本でもこのような事故が多く起こっていることに気がつく。大資本の本社は利潤を上げさえすればよい、そしてそれが至上命令になってくるので末端の作業員たちはどんどん手抜きする。手順を守ること自体の目配りも何もなく、作業がどんどん自己流になってしまい、それがいけないとわかっていても止められない悪循環。本社は作業の危険性は何も伝えずに、事故は起こるべくして起こり、気が付いた時には多数の住民が犠牲になる。
それでも地元住民にとっては危険よりも貧困からの脱出を選ばざるを得ない生活環境であることを見越して、大企業は開発途上国に進出する側面もある。自分たちの命が危機に晒されていることに気が付いた時は既に遅し、運命を嘆きながらも巻き込まれてしまった多数の犠牲者を忘れないという意味でも、この作品が作られた意義は大きい。当時のユニオン・カーバイド社の無責任なCEOウォーレン・アンダーソン、それを追求する女性記者エヴァの2名を演じたマーティン・シーン、ミーシャ・バートンも、よくオファーを受けてくれたと思う。多国籍企業を輩出する側の国の俳優が、こういうジャンルの映画に関心を持ってくれているということが大切なことだと感じているので。
上映後のトークイベントでは、ボパール出身のラヴィ・クマール監督が登壇。
現在はイギリス在住の勤務医でありながら映画監督になってしまったという、マルチな才能の持ち主である。
医師になったきっかけは、この事故を目の当たりにして人々を助けたいという気持ちからで、また映画監督になったきっかけは「ショートフィルムを作っていたら、そのうち短編がベネチアやカンヌでかかるようになり、多くの人に観てもらいたいと思ったから」だそうで。まさに自分が抱く想いからそのまま職業に就けた、ある意味ラッキーな人なんだろうなと感じる。

監督のトークより。
・「マーティン・シーン氏は、この映画祭のために来日したかったが予定が合わず残念と伝えて下さい」とのこと。
・この映画は最初は小さな企画だったが自分のビジョンは決定しており、そこに様々な才能ある方が集まってくれたおかげで完成した。感謝している。
・事故のその後は? → 法的にはユニオンカーバイド社と国との間には示談は成立しているが、現在は患者が会社を訴えている状態。
・ボパールの事故の後もたびたび大規模な事故は起こっている。そこで思うことは社風に対してであり、責任者個人に対してではない。特に多国籍企業では個人を名指しすることは非常に難しいからだ。
・本作がアメリカ公開や上映などはあるのか? → これは若い人に向けて作った。彼らには観てもらいたいし、事件から学んでほしい。だが本作は決して反米、反多国籍企業映画として作っている訳ではない。
アメリカ上映では、内輪ではいい反応だった。多国籍企業を抱えるアメリカにとっては、エクソン、ブリティッシュ…など他会社でも多額の補償をする場合もあるので身近に感じるのでは。
・古典的なパニック映画としての骨格もしっかりしている。どの位の予算か?工場のセットはどうしたか?
編集の腕がよく、緊張感が漂っている。
予算はUSドルで650万ドルだが、俳優のギャラは少なくてほとんど映画に使っている。
ヘリコプターから撮影したものは実際事故に遭った工場。ここは今でもガスが漏れている。
セットとして使ったのは事故当時と同じ作りの薬品工場だが、この工場は赤字だったから協力してくれた。設立して15年しか経ってない工場なのに、操業100年くらいの古めかしさにに見えるのは、インドでは気候変動が激しいので建物がすぐに痛んでしまうから。
本作に向けての熱い想いを切々と語って下さった監督、観客からの質問もひっきりなしに出ていました。
日本公開があるといいなと思います。
★★★★ 4/5点
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