Minor Swing @Room

ジョニー・デップ他日常あれこれ

父の生還

2011年03月30日 11時28分09秒 | 日記
“被災地にいても、津波を見ていない人は津波を見た人に敵わない”
“津波を見た人は、波に浸かった人に敵わない”
“膝まで波に浸った人は、完全に水没した人に敵わない”
これは、様々な生還の様子を聞き及ぶ中で、私とnonさんが言い合った言葉です。

何が敵わないかは置いといて、浸かった水の高さが生還の難易度とするならば、
私の父は最高クラスにあったのでしょう。

無事だったと安堵したその日から、
“生きていた”イコール“高台に避難した”ものとばかり思っていたのに、
実は、私の直感通り父は津波に飲み込まれていたのでした。
その情報は我が家を訪れた弟からもたらされました。

私からの電話で海辺にいたことを確認されたのが最後だった父。
やはり避難せずに、津波に備えリフトを移動させたり、
地震で崩れたであろう道具類を片づけようとしていた模様です。
まさかあんなに大きな波が来るとは思わなかった、というのが後日の本人の言い訳です。

そこには父を含めて5人の人がいました。
父以外に、あんな緊急事態のその場に4人もいたとは驚きです。
しかし、津波の時には船を沖に出すというのが鉄則らしく、
大事な船を守ろうとした気持ちは分からなくもありません。
ただ、今回の津波は人間の想像を遥かに超えるものだったため、
常識とか段取りというものは一切通用しませんでした。
たった一つ鉄則があるとすれば、それは少しでも高いところに逃げること。
危機一髪助かった方々の話を聞くにつれ、何かを守ろうとした人は、
代わりに命を差し出さなければならなかったという現実がいかに多かったか。
車を乗り捨て、体一つで木に登ったり建物の二階や三階にたどり着けた人の生還率は高かったのです。

浜辺にいて、いち早く津波に気付いた父が『来たぞ!』と声を上げるも既に遅く、
あっという間に胸まで海水に浸かりそのまま海に流されてしまったそうです。

父は海底に引きずり込まれ水没し、次の瞬間には海上に顔を出し、
また海の底に沈み、再び海面に顔を出す…それを何度も繰り返したと言います。
『顔を出す度に違う場所にいた』とは本人の言葉です。

やがて浜辺にある建物の屋根に体が乗せられました。
そのまま屋根ごと流され、屋根は一本の電柱に当たって止まりました。
父はその電柱に手をかけよじ登り、一番てっぺんまで登って行ったと言います。
波が引いた後、降りられないほど高い所にいたと笑って教えてくれたのは母でした。
そうして父は助かりました。
生きていたからこそ笑える今があります。

生還の詳細を聞くにつれ、私が父の死を覚悟したのはもっともだと思いました。
本人も海中で身を揉まれながら、これはもうダメだと覚悟したと言います。
逃げずに海岸付近をウロウロしているのは自業自得です。
逃げろと言われているのに逃げないのは自己責任です。
そんな父の甘さを木端微塵に打ち砕く大津波が襲ってきた訳です。
あんな状況で助かったのは奇跡です。
まったく、よくぞ溺れずに助かったものです。
その時の様子を想像するにつけ空恐ろしく、生きているのが不思議なくらいでした。

父が乗った屋根を電柱のそばに押し流してくれたのはパパの手ではなかったか。
父はパパに守られたと信じます。

後日、父の携帯と繋がるようになり、無事な声を聞くことができました。
『良く生きてたね』私の第一声です。
『本当になぁ。あははははは』と笑う父。
『怖かったでしょう?』と問いかける私に、
『怖いも何も…無我夢中で』と答えていました。
『なんで逃げなかったの!?』という怒りを含んだ私の言葉には、
『リフトを片づけたり色々…』とバツの悪い様子の父でした。

助かったからこそ笑って言える言葉があります。
家族が見つからず、今も必死で探している人たちが大勢います。
生死の暗明を分けた理由など私には分かりませんが、
それを運命と呼ぶには全てがあまりにも無常です。

何をどう祈ればいいのか分かりませんが、
生き残ってなお直面する悲惨な現実の中に、少しでも希望の光が灯ることを祈ります。

きっと誰もが、遠く離れていても案じてくれる人がいます。
全国の方々は、被災した地域への義援金や物資輸送で援助の手を差し伸べて下さっています。
遠く離れていても心はそばに。
それが何よりのサポートで、有難く嬉しい支えとなっています。
陰に日向に気にかけて下さっている全国の皆さんに心から感謝申し上げます。
心を寄せて下さって本当にありがとうございます。

これからも厳しい現実は続くと思いますが、
今は沢山の方のお力をお借りして、目の前の問題を一つ一つ乗り越えて行きたいと思います。
いつも応援して下さっていることに感謝の気持ちでいっぱいです。
本当に本当にありがとうございます。

最新の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
本当に・・・ (ももなとん)
2011-03-30 19:16:02
奇跡の生還とはこのことですね・・・

地震の日、もちろん、Reiさんのこと真っ先に心配になり
そして、Reiさんのご両親はもっと海のほうではなかったか?と頭によぎり・・・
もう不安で不安でなりませんでした。

不安の中テレビを見る人間には
もう、映画でしか見たくない
そんなすごい黒い津波が町を飲み込んでいく様子を見せ付けられました。

何もかも飲んでしまう自然の猛威に
遠く離れていても、怖かった

だから、すぐそこで
しかも、身内の方々がそのような状況に置かれること
どんなに怖かったことかと・・・

でもでも
本当に良かったです。
お父さん、よくぞ、ご無事で・・・

まだまだ見つからない人もいっぱいいて
喜んでばかりいられなというい気持ちもあるかと思いますが

今は、本当にご家族が無事だったことを
喜びましょう。

Reiさんの大事な大事なパパ
守ってくれて本当にありがとう
返信する
Unknown ()
2011-03-30 21:57:23
 お父様 本当に良かったですね。
波の中にもぐったり、水面に出たりとなんと大変な体験をされたのでしょう。波にのまれた時に流されているたくさんの危険な物の間にも流されたのではないでしょうか。
どきどきしながら、お話を読ませていただきました。
 それから、パソコンの調子が悪く、パソコンをずいぶんとさわっていなかったのですが。ごめんなさい。パパさんのこと、今日ブログをさかのぼって読ませていただき知りました。心からお祈りいたします。
 その通り、パパさんですよ。お父さんを守ってくれたのは。間違いないです。
 本当に大変な中、お返事ありがとうございます。読んでいただくだけでいいですよ。


返信する
ご無沙汰しています (がんた)
2011-03-31 01:33:52
もっと早くこちらにくればよかった・・
安否はわかっていたものの、心配してました~
被災地の情報を知るにつけ、携帯も簡単に充電できないようなら・・なんて。

ご無事を確認し、今の様子を読ませていただき、
安心したり、また改めて知ることも多く驚いたり・・。
ご主人様のご冥福をお祈り申し上げます。

環境の激変の中で、気丈に冷静に考えることができるのは、
さすがReiさんと思いました。

ご両親もご無事でなによりでした。
お父様、ダイハードですね。敵いませんね

今、私に出来ることなんて、本当にわずかですが、
一所懸命祈ってます。
どうか、これからも強い力で守られますように・・
返信する
そんなことが… (るみりん)
2011-03-31 06:12:30
ほんとに奇跡のような生還ですね…
お父様、ご無事でよかった!
わたしなんかには海=波=怖い、ですが、
お父様のような海の近くで生きている人には
きっとそうではないのでしょうね
お父様が家族の元に帰ることができたのは
パパさんのおかげのように思えてなりません!

返信する
Unknown (うしし)
2011-03-31 22:30:18
 失礼しました。
 先日、裕と書き込んだのは、うししです。
 パパさんの魂は、時を越え、時空を越えて、お父さんに宿ったのですね。皆さんを見守っているのは、目に見えない何かがあると、私も信じています。
 明日が、今日より素敵な一日でありますように。
返信する
ほんとに (まめ太郎)
2011-04-01 07:40:35
奇跡の生還・・・・
お父様の生きる力もあったんでしょうね。

流れてきた流木に撃ちつけられる人もいれば
それにつかまり生きる人がいる。。。。

何が幸不幸を分けるかそれが運っと言ってしまうには
今回はあまりにも酷すぎます。

Reiさんの周りの方が無事だった事。
そして、お家が無事だった事・・・・
きっと、パパが守ってくれた。
これしかないような気がします。

こうやって、ブログを書かれている強さがあれば
大丈夫だね。
書くことで、生の地震、津波の怖さを悲惨さを
伝えて下さいね。


返信する
ももさん (Rei)
2011-04-02 11:06:09
両親のことまで案じて下さってありがとうございました。
父は自業自得でありながらも、よく生き残っていたと思います。
普通、こういうケースでは99%は駄目かもしれません。
奇跡的に助かったと言っても過言ではありませんね。

>そんなすごい黒い津波が町を飲み込んでいく様子を見せ付けられました。
皆さんはライブ映像なんですよね
私たちは長い間そういう映像を見れなかったので、
見た時の驚きと言ったらもう…。
おっしゃるように、まさに映画の中の話です。

ホントに、パパに守られましたよね。
毎日『パパどうもありがとう』と言って仏壇に手を合わせてます。
ももさんも祈ってくれたお蔭です。
ホントにホントにありがとう!
返信する
裕さん (Rei)
2011-04-02 11:12:28
うししさんですね!どうもありがとうございます。

おっしゃるように、父は危機一髪でした。
けれども、今回助かった方の生還劇はどれもこれも凄まじいものばかりです。
どの方のお話を聞いてもびっくりすることばかりです。
そして最後に『良く生きてたね~っ!』と感嘆の声を上げるのです。

>その通り、パパさんですよ。お父さんを守ってくれたのは。間違いないです。
そうですよね。うししさんもそう思いますよね?
『まだこっちに来ちゃダメだ』って、電柱の所に押したかなって。
私はそう思って感謝しながら生きたいと思います。
返信する
がんたさん (Rei)
2011-04-02 11:24:23
がんたさん!色々とありがとうございました。
あの頃はまだ携帯が使えたのがラッキーでした。
祈って下さったこと、それから主人へのお言葉もありがとうございます。

『環境の激変』…まさにおっしゃる通りです。
主人との闘病生活のことを思うと、
私にとっての大震災は去年から始まっていたようなものかな、なんて。
『何なの!?一体これはどういうこと!?そんなばかな!!』みたいなヘビー級の嵐が続き…。
私も、自分が正気なのか分からなくなりそうです

>お父様、ダイハードですね。敵いませんね
ダイハードですか!それイイですね
日が経つにつれ、ダイハードみたいな人がいっぱい出てきました!

>どうか、これからも強い力で守られますように・・
どうもありがとうございます。
その祈りが何よりも嬉しいです。
こうして言葉を交わせる幸せを噛み締めます。
返信する
るみりんさん (Rei)
2011-04-02 11:29:32
一時は父の死を覚悟した私にとって、
生き残ってくれたことは大きな感謝です。
本当に危ないところでした。
生き運が強かったのでしょうね。
父の所有する小舟が、他の流された3人も救出したらしいです。
今は元気に地元のために奮闘中とこのことで、
救われた命を有意義に使って欲しいと思います。

>パパさんのおかげのように思えてなりません!
そうだよね?るみりんさん。
絶対助けてくれたと信じてます。
いつもありがとうね!
返信する

コメントを投稿