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赤司 征大|Masahiro Akashi
UCLA MBA留学記
WHITE CROSS株式会社 起業までの軌跡

温故知新という言葉

2014-10-11 23:22:09 | 日本歯科医療へのテーゼ
歯科市場の変化の起点を国に頼るのは、不可能です。

温故知新ほど、日本歯科医療のこれからのあり方を表すのに良い言葉はないと思います。歯科医師の社会的地位の向上や、既得権益の維持の為ではなく、歯科医療の社会的価値の向上を切り口に、これまでに先人達が作り上げてきたものを取捨選択し、産業としての新しい姿を作り上げてくことが大切です。歯科の性質を考えると、予防歯科は切っても切れないですね。

ビジネスサイドだからこそ取れるアプローチ・・・WHITE CROSS はその旗手となります。と思えば、夜中3時まで資料を作り、朝の7時からの東京LA間のミーティングも苦ではありません。

医療は国家の基幹インフラの1つであり、歯科医療は国民の生活の質に大きく影響を与えます。そこに挑み社会的インパクトを及ぼそうとする場合、時として攻撃性すら併せ持つ鋭く尖った古さを否定するだけのエネルギー/思考ではいけません。先人達が積み上げてきた価値の中には素晴らしいものもあります。

新旧問わず歯科医療に関わるプレーヤーのマジョリティが共感してくれるビジョンが大切です。その上で、理想の追求ではなく、実行可能性のあるビジネスとして成長させていけるだけの経営力。そして、何より私自身が常に自分のあるべき姿を考え続けなければなりません。

これまで再三記載してきた通り、ビジョン/経営力については、WHITE CROSSには確たるものがあります。現在、WHITE CROSSに深く関わっているのは、私も含め5名ですが、何でここまで素晴らしい4名が仲間になってくれたのか・・・MBAでentrepreneurshipをさんざん学んで聞きましたが、学ぶ事より実際に経営者になって初めて考え始める事の方が遥かに多いです。とは言え、実際はCo-Founder達におんぶに抱っこですが(笑)

スワン会のGMだった頃、年長の方々とマネジメント目線で仕事をする為にあえて自分を老けさせていましたが・・・内心matureになると言うことは、鋭いエネルギーを失うことのような気がしていました。結果、何かを諦めるような気がして不安だったのですが、そうではないと今では良くわかります。

温故知新・・・WHTIE CROSSのkey wordの1つです。

米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(5) 治療の提供の失敗

2014-05-23 14:42:21 | 日本歯科医療へのテーゼ
 日本において昨日、マザーズ市場への上場を発表したメドピア株式会社の医師向けサービスのビジネスモデルは、今後の歯科界のあり方に対する素晴らしい示唆を含んでいます。メドピアは、私が数年前から注目していた会社の一つで、今回のテーゼにも深く関わる内容ですので、是非御覧下さい。


米国の医療制度が直面している課題米国の医療制度が直面している課題
1. アクセス
2. 非効率な治療の提供方式
3. コストおよびコスト増加
4. Affordable Care Act(オバマケア)の影響

 非効率な治療の提供方式についですが、まず非効率の定義は、
⑴ 効果が低く高コストな医療サービスの過剰提供
⑵ 効果が高く低コストな医療サービスの過小提供
⑶ 過剰な運営コスト
⑷ 不正請求等
⑸ 治療の提供の失敗: $102B~154B(10-15.5兆円)
⑹ 治療のコーディネートの失敗


 今回は、(5)治療の提供の失敗について、日本歯科医療へのテーゼを記載してきます。

 (5) 治療の提供の失敗についてですが、具体的には、より安くより良い治療方式が広まっていない為に、結果として患者に、より侵襲性が高くコストも高い治療を提供してしまっているという事です。医科における分かりやすい例は、腹腔鏡手術と開腹手術です。しかし、同じ切り口で、日本の歯科医療に対するテーゼを考える事は困難です。と言うのは、日本の歯科医療においては、似たようなインパクトを持ちうる歯科治療は保険の適応範囲内では存在しないからです。国民の大半を対象とした保険制度に則った歯科医療で考えるなら、ここ数十年の歯科医学の進化 = 材料の性質向上に伴う品質の向上とも言え、歯科医師の仕事自体に大きな変化はありません。

 その上で、保険治療適応内の歯科治療の多くは金属・樹脂などの歯科材料を使用します。従って、基本的に材料性質向上と材料費が比例すると考えるのであれば、“より安くより良い治療“という事自体が、論理矛盾を起こします。その一方で、日本においては歯科医療費が20年近くにわたり据え置かれています。つまり、より効果が高く高コストな医療サービスを、実質経済の成長を考えると、より低価格で提供している。とも言えます。

 米国の医療制度が直面している課題の定義に対する根本的な論理矛盾を起こしてしまう以上、切り口を切り替える必要性があります。米国の医療制度下においてより安くより良い治療方式が広まっていない原因の一つは、医師の知識・技術の刷新が適切に行われていない事にあります。この点については、日本の歯科医療も同じですので、今回のテーゼはこの切り口から考えていきます。


 歯科医師は永久資格であるため、一度資格を習得すると、生涯にわたり更新試験を受ける事はありません。また、知識・技術に対する強制力を持つ学習義務も無いため、数十年前に習得した知識・技術を元にした治療を延々が行われている事が多々あります。時代と共に、刷新されていく知識・技術において、過去において正しいとされていた治療で、現在においては正しくないというものもあります。従って、歯科医師の先生が正しいと信じて提供し続けている治療が、実は誤っている治療であるという事はあり得ます。その一方で、モラルハザードを起こしている一部の歯科医師(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(4) 不正請求等)を除外すると、歯科医師の先生方は、大なり小なり職人気質を持っており、誰も自分が間違った事をしているとは思っていません。それは、多くの産業において共通する、世代間の仕事の仕方・基礎となる知識の違いであり、歯科のみが例外的に問題を抱えているものではありません。

 とは言え、医療従事者として、知識・技術を刷新する責任はあり、その義務感を忘れてはいけません。従って、国の仕組みとして、知識・技術の学習機会を仕組みとして設けることは大切です。ただし、知識・技術の刷新機会のコンセプトにおいて、過剰提供レベルの歯科医療を基準に刷新を要求するべきではありません。(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(9)過剰提供)行うべきは、保険診療で提供可能範囲を基準とした、知識・技術の刷新の機会の設定です。(個々の歯科医師が、それ以上の質の治療を提供する為に知識・技術を刷新し、実際に治療を通じて提供する事については、歯科医師患者間の十分な信頼関係あるいは十分な説明の上に、患者自身が歯科医師との信頼関係あるいは治療自体に投資する価値を見いだしたのであれば、肯定されるべきです。)

 また、歯科医師は、知識・技術に加えて、それぞれに異なる治療計画策定の癖を持っています。分かりやすく言うなら、症例毎にどの治療をどの順番に当てはめるかという治療計画の建て方に個人差があると言う事です。さらに分かりやすく言うなら、虫歯等が原因で歯を失った患者さんに、入れ歯を多用する傾向が強い歯科医師もいれば、ブリッジを多用する傾向が強い歯科医師もいるという事です。複雑な症例になると、歯科医師毎に一連の治療の結果として作られる口腔自体に大きな違いが生じます。この点において難しいのは、歯科医師によっては治療がルーティン化しており、治療計画を策定しているという感覚をもっていない場合があるという事です。職人業務のルーティン化は生産性向上として考えると良い面もあるのですが、大切なのは、実質価値の高い治療結果を生める治療計画策定の癖を身につけているか、あるいは、自らの癖を見返しそれが悪癖であるか良壁であるかを見返す機会があるかと言う事です。

 現在の歯科界においては、良癖を大多数の歯科医師が効率的に身につけられる仕組みは存在しません。学部教育が実践教育としての意味をなしていない日本において、歯科医師の大半を占める一般開業医に焦点を当てて考えるのであれば、歯科医師の生涯を通じて提供する価値を形作る歯科医師としての知識・技術・治療計画策定の基礎は卒後数年以内にほぼ決まると言って良いです。(参照: 抜粋 大規模歯科医療法人の改革支援 ~教育プログラムの策定を通して~ より)数年以内としたのは、最初の数年間が、技術職であるが故の個々の癖がつく期間であるからです。

 日本の歯科医療においては、歯学部を卒業し、国家試験に合格した新人歯科医師は歯科臨床研修医制度に基づき、研修医として1年、あるいは2年間を過ごします。歯学部付属病院における臨床研修医制度については、研修制度導入以前に大学6年生が行っていた教育を卒後の1年に移行しただけで、学部教育の非効率の引き延ばしに映ります。研修医に対する明確な教育のコンテンツ/実践機会を作れないまま作られてしまった臨床研修制度といえます。(病院外科における臨床研修制度については、歯科医師に求める方向性が一般開業医において求められる方向性とは異なるため割愛します。)開業医における新人歯科医師の教育は、師匠にあたる歯科医師の技術・治療計画の策定の癖を師弟関係に基づいてコピーして受け継いでいくという物です。あるいは、何も伝授されず、放置されて自力で治療計画策定の癖を身につけるという事すらあります。

 私自身、前職にて日本最大規模の歯科医療法人において教育システムの構築を行い、教育という切り口から日本全国の大規模歯科医療法人の理事長/医療関連会社のトップマネジメントとの交流をしてきましたが、体系的と言える教育制度有している開業医は日本全国に数える程しかありません。当時は、私自身、日本初の歯科医師教育へのi-Padの活用/教育システムの中小企業経営診断シンポジウムでの受賞などを通じて、自らが作り上げてきた仕組みに強い誇りを持っていました。

 しかし、今の目線で見返してみると全く持って不足であった事が分かります。その理由は、一般開業医向けの歯科医師教育とにおいては、
① 個々の歯科医療法人レベルで構築出来る部分
② より大きな枠組みで構築すべき部分
とに分かれているからです。私が行ってきたのは①のみです。②については、まさにメドピア株式会社が行っている“医師集合知サービス”が答えになる可能性があると考えています。


 一般開業医における歯科医師の育成については、①についての構築支援に加えて、②のようなプラットフォームを作る事。さらにそこに、ビックデータの活用に基づく、保険治療における資本投下配分の変更と整合性を取りながら抽出された類似症例におけるクリティカルパスとなる治療計画の情報蓄積/提供機能を与える事ではないかと考えています。さらに、個々の治療における効率的な治療のプロセス/手元の動きなどを動画として分類しストレージさせる事で、学びの質は向上します。また、最新の知識・技術云々ではなく、真剣に歯科治療を提供されてきた熟練の歯科医師の経験に基づいた知識には素晴らしい価値があるため、そういった知識も蓄積・共有できる仕組みも持たせるべきです。これらの活用は、若い歯科医師に自分自身のスタイルを見返せる機会を与える仕組みになるばかりか、ベテランの歯科医師が自らの治療を見返し改善する機会を得る仕組みにもなります。

 ただし、上記をメドピアのようにビジネス化する場合、製薬企業から見ての魅力が無い上に、医療機器メーカーから見ても比較的小さいマーケットである歯科医療においては、歯科のみでプラットフォームを形成する場合、国費を注入せざるを得ない可能性があります。その為には、日本の歯科医療の“治療の提供の失敗”の具体的な金額(米国医療においては、$102B~154B(10-15.5兆円))を推定した上で、反映効果を試算する必要があります。重ねて、様々なステークホルダーの説得等、多くの障害があります。

 しかし、医科との共有プラットフォームとした場合、純粋にビジネスとして成り立ちうるのではないかと考えています。その理由は、日本の歯科医療における慢性的かつ根本的なペインの解消のみならず、サービスに幅を持たせる事で、まさにこれからの日本社会に置いて求められている医科歯科連携(在宅医療/周術期医療など)を推進するプラットフォームになる得るからです。歯科単体では不可能なことでも、ヘルスケアの一翼を担う歯科と位置づけることで、現実的なビジネスモデルを作れる可能性があります。どれくらいの歯科医師が実際に、それを使用するかについては、指導医/研修医については使用を義務付けるべきですが、それ以外の歯科医師については、医科においてメドピアが上場に至れた事が良い示唆になるではないでしょうか。

 サービスに社会的価値があるのであれば、どのようにサービスの受け手に受入れられ、かつプロフィットを生む仕組みを作れるかの勝負になります。例としては、医療機関数十カ所と結んで医療関係ニュースの配信や最新の海外医学誌の翻訳提供サービスを提供していたウェブエムディが、サービスの受け手である医師から会員費を取るビジネスモデルにした事に対して、エムスリーが会費を取らずに同様のサービスを提供し市場シェアを高めたという事例があります。最終的には、ウェブエムディはエムスリーに吸収されました。



 最後の落ちとして、ここまでの記載の全て覆すようですが、根本的に必要なのは、学部教育の抜本的改革であることにはかわりありません。



 以上を踏まえて、今回のテーゼは以下の通りです。
(a) 歯科医師の知識技術職故の職人として学びに加えて、これからの時代からこそ可能なITプラットフォーム/データ分析の手法を活かすことで、治療の提供の失敗による非効率の解消を目指すべきである。
(b) 保険制度改革・教育改革・ビジネスという3点全てがそろって初めて、日本の歯科医療の改善は成り立つ。

 

米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察  2-(4) 不正請求等

2014-05-20 00:32:55 | 日本歯科医療へのテーゼ
米国の医療制度が直面している課題米国の医療制度が直面している課題
1. アクセス
2. 非効率な治療の提供方式
3. コストおよびコスト増加
4. Affordable Care Act(オバマケア)の影響

 非効率な治療の提供方式についですが、まず非効率の定義は、
⑴ 効果が低く高コストな医療サービスの過剰提供
⑵ 効果が高く低コストな医療サービスの過小提供
⑶ 過剰な運営コスト
⑷ 不正請求等: $82B~$272B(8~27兆円)
⑸ 治療の提供の失敗
⑹ 治療のコーディネートの失敗


 今回は、(4) 不正請求等について、日本歯科医療へのテーゼを記載してきます。

 米国の医療費において、実に8~27兆円が不正請求等による本来発生してはいけないコストとして見積もられています。では、日本の歯科医療はどうであるかというと、データを元に見積る事はできませんが、不正請求が非常におこりやすい環境であると言えます。誤解が生じないように先に記載しておきますが、そのような環境においても誠実な仕事をされている歯科医師の先生方は数多くおられます。私のテーゼは、社会の中の悪い極端さに焦点を当てた扇動を目的としてはいません。大切なのは、問題の根本がどこにあるかを理解した上で、如何に国家の仕組みとして改善を行っていくかという建設性です。論じる上で描かざるを得ない一部の最悪を、日本歯科界の全体像として受け取って頂きたくはないと言う事です。



 本題に入ります。日本の歯科医療において不正算定が非常におこりやすい環境である理由は、
① 治療の受け手である患者から見て治療内容自体がブラックボックスである
② 保険適応外の自費治療が明確に存在するため、混合診療が生じやすい
③ 大半の歯科診療所は小規模な家内産業であるため、実際に行われた治療が何であるかを社会保険庁が正確にモニタリングしようがない
にあります。

 患者の治療費負担を3割として記載するなら、①については、歯科医師・患者間の情報の非対称性が強いため、患者からすると何をされたのか分からないが、治療費の3割を歯科医院に支払っていると言う事です。(参照:一般市場原理に基づく日本歯科医療への考察)②については、医科とは異なり、歯科においては混合治療自体に対して、根本的に様々な見解があるためグレーゾーンが非常に大きく、①③も相まって、不正算定の温床になり得ると言う事です。③については、歯科医師が患者に何をしたのかを正確にモニタリング出来ないが、治療費の7割を歯科医院に支払っていると言う事です。

 ①②について、最悪の例を記載します。
①の例: 愛知県豊橋で行われたインプラントの使い回しが最たる例です。歯科医師としての常識/人としての良識が欠如している例です。ただし、直後に起こったインプラント治療に対する極端なネガティブキャンペーンについては、扇動的すぎると私は感じました。誤解が無いように記載しますと、適切に行えばインプラント治療自体は、素晴らしい治療の一つです。
②の例: 削った歯の被せ物に、自費のセラミックスを被せておきながら、保険の銀歯も同時に請求する。③で客観的なモニタリングが難しいため、起こりうる典型的な不正請求です。

 ③について、正確なモニタリング機能をはたせないにも関わらず社会保険庁がどのように、不正算定の監査対象となる歯科医院を選択しているかを記載します。医療機関は、1月毎に社会保険庁へ、その月の治療内容を報告します。社会保険庁は、そのデータを元に複数の評価指標(例えば、患者当たりの平均請求額)を単月/複数月の推移で見て、極端に高い数字となっている上位数%の医療機関へ監査に入ります。また、内部告発や外部告発により監査が入る事もあると言われています。監査に入られると言う事は、医療機関にとって相当な負荷を与えます。つまり、実際に行っている治療をモニタリングするすべが無いため、提出された数字に基づいて判断している側面を持つという事です。


 この仕組みの良い面は、数字ベースでの管理と成る為、総医療費のコントロールをかけやすいと言う点です。これは、国家予算の観点から見ると良い事です。

 この仕組みの悪い面は、治療の実態の把握に基づいておらず、上位数%の監査対象にならないギリギリを狙うチキンレースが起こりうる環境を作っている点。その逆に、平均請求額を安全水準に落とすため、歯科医師目線では来院回数1回で行える治療にも関わらず、複数回の来院に分けて治療しなければならず、生産性を求められない場合がある点。公然とはされていませんが、歯科医師会という任意団体に属していない医療機関はターゲットにされ易いなど悪い意味での村社会的要素が発生しうる点。等が挙げられます。

 また、この仕組みの抱える必要悪としては、日本の歯科保険制度は広範囲の治療をカバーしているため、安全コストや医療機関の経営上完全な赤字治療となる単価設定をされている治療もあり、グレーゾーンの存在が安全確保/経営上における健全レベルでの算定を可能にしているという面もあり得るという点です。

 要するに、国家の観点から医療費のコントロールをかけやすい枠組みを作り、その運営自体は混沌としています。

 但し、私はこれについては、運営の混沌の完全な解消は不可能であり、請求における治療実態の反映/効率化/品質の向上を促進する枠組み作りに焦点を当てるべきであると考えています。運営の混沌の解消は不可能とした理由は、2点あります。1点目は、歯科医療の業態を考えると、正確なモニタリングは不可能だからです。可能にするにはITインフラの整備も含めて、莫大な国家予算を割く必要があり非現実的です。2点目は、国家観点と現場の運営が完全に一致しうる枠組みが、現段階の私には思いつかないからです。



 以上を踏まえた上で、考えられる対応策は、
(a) 医療費のコントロールをかけやすい枠組みは維持し、より治療実態を反映させ易い保険治療費設定を行う
(b) 歯科においては、混合診療の線引きを明確にした上で解禁する。
です。

(a) は、3つの要素から成り立ちます。
() EBD/ビックデータの活用に基づく、保険治療における資本投下配分の変更。(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察  2-(2) 過小提供)
() 確実に連続する治療をまとめたバンドリング請求方式の導入。
() ()()に基づいて社会保険庁がチェックする指標指標と基準の再構築

となります。()については、確実性の高いデータの取得さえ可能になれば長期的に実現しうると考えています。ただし、そのデータも現行の医療保険制度下におけるデータとなりますので、相当な難しさを有していますが不可能では無いと考えています。()については、短期的に実行可能です。また、歯科医師の生産性向上にもつながり得ます。

 (b)は、(a)-()との関連性を重視しながらの構築と成ります。医科とは異なり、広義の意味での混合治療が常態化している可能性のある歯科医療において、グレーゾーンとして無視し続ける事の方に問題があります。



 今回のテーゼにおいては、現実を描く事と、煽動的にならない事のバランスをとるための言葉の選択に難しさを感じました。まだまだ深めなければ成らない項目です。ある歯科医師の方から、共感とともに「1大学人として、1歯科医師として、1事業主として、協力できることがあればお声掛けください。」とのメッセージを頂く事ができました。まだまだ未熟な私に、身に余る言葉ですが、嬉しく受け止めております。


抜粋 大規模歯科医療法人の革新支援 ~教育プログラムの策定を通して~ より

2014-05-18 15:17:45 | 日本歯科医療へのテーゼ
 2010年に、中小企業経営診断シンポジウムにて受賞・発表させて頂いた論文より、日本の歯科大学教育の非効率について記載している部分を抜粋します。論の後半には相当な甘さ/視野の狭さ/古さがありますが、おおむね今の私の考えの基礎になっています。



 歯科医療サービスにおいて、適切な品質の治療を提供できる事は最低条件であり、治療設備等のハード面、さらにはコミュニケーション能力・現場の雰囲気等のソフト面での充実・向上も図る必要がある。教育・学習が歯科医療サービス向上のポイントの一つである事は言うまでもない。

 現在、約10万名いる日本の歯科医師の約85%は、開業医として医院を経営している。あるいは、開業医において勤務医として働いている。従って、日本の歯科医療のスタンダードは開業医で行われ ている歯科医療であると言える。従って、歯学部 においては、開業医で通用する人材の育成を目指 すべきである。しかしながら、歯学部における6 年制の教育のみで歯科医師として通用するレベル に達する事は難しい。実践レベルでの治療技術の習得は、歯学部卒業後に歯学部付属病院や開業医 等で行われる。

 現在の歯科大学における教育は、以下の3点の問題を抱えている。

 1点目。歯科医師には、入れ歯等を製作する歯科技工士や口腔内クリーニング等を行う歯科衛生士等と連携をとりながら、適切な品質の治療を患者に提供していくことが求められる。しかし、歯学部における教育では,実際の治療と関連性の低い知識の学習や、歯科技工士の領域である入れ歯の製作等に教育時間を費やしすぎている。結果、治療の術者という立場から歯科衛生士や歯科技工士等と連携をとり、チーム診療を行えるようになるための教育が不十分になっている。

 2点目。日本の歯科大学は、医療における一診療科でありながら講座・診療科を細分化しすぎてしまい過大規模となっている。学生に対する教育は講座・診療科に連動しており、歯の削り方、入れ歯の作り方といった具合に個別に教育されており、異なる治療の連続性や関連性に焦点を当てた教育は不十分である。しかしながら、良質な歯科治療とは、異なる治療の組み合わせの結果として、良好な口腔内を作り上げ、その状態を長く維持させる事である。あるいは、根本的に虫歯等から患者の口腔を守っていく事である。歯学部は、不必要な講座・診療科の統廃合を行い、組織体系をスリム化すべきである。その結果として、合理的で効果的な教育が可能となる。しかしながら、職員のポスト等の問題により改革は先送りされ続けている。

  3点目。歯科医師・歯科医院が飽和している現代の市場状況では、治療における知識・技術のみで成功することは難しい。歯科医師として開業し成功していくためには、知識・技術のみならず、経営者としてのマーケティング能力や、従業員を束ねる管理者としてのマネジメント能力も求められる。しかしながら、大学においてはそういった観点から教育が行われる事は少ない。

 以上より、大学における教育に限界がある以上、大学卒業後の新人歯科医師に対する教育の質を高めることが、日本歯科界の提供する医療の質の確保・向上に必要不可欠であると言える。開業医における新人歯科医師の教育は、現場における師弟関係での伝授、実際に自分自身で治療経験を積みながらの技術習得、著名な歯科医師を中心に集まっての勉強会、自発的学習等が一般的だが、それらのみでは効率的かつ体系的に基本的な知識・技術を学ぶことは難しい。

 また、薬局が小規模の個人経営の薬局と大規模 なドラッグストアチェーンへの変遷を見せたように、近年の日本の歯科界において、開業医は小規模の個人の歯科医院と大規模の歯科医療法人へ、プレーヤーの2分化が進んでいる。その2分化のうち、当論文では、後者の大規模な歯科医療法人の戦略的な側面から教育について見てみる。歯科 医師の時間の切り売りで治療を行っている歯科医 療の業態から考えて、医療法人が成長を続けるためには、如何に数多くの優秀な人材確保・維持が なされるかが大きなポイントの一つとなる。魅力 的な教育プログラムのある開業医には、「志」の 高い新人歯科医師が希望して集まり、優秀な人材 の確保・育成が可能となる。つまり、中長期的には、教育は医療法人の成長の最大の原動力となり得る。