こちらが葛飾区亀有公園前派出所

2023-08-13 00:24:45 | よのなか

真っ青の雲ひとつない

夏空の

灼熱の太陽のもと

 

老舗のお酒メーカーの営業で、

亀有駅前のバス停で、

お客さんのスーパーへと向かう為に、

バスの到着を待っていた。



商談用の商品を入れたキャリーバッグを

汗だくになりながら、ガラガラ転がし携えて。



バスが来て、目的のバス停で降りた。

 

突然の外気の暑さで朦朧となりながら、

我を取り戻し、

商談内容を復習(さらお)うとして、

資料と商品の事を気にした時、

手もとに、キャリーバッグがない事に気が付いた。

 

いつも店長がいる時間なので、

幸い、先方には、アポは取っていなかった。

 

慌てた、ぼくは、乗って来たバス会社に連絡をして、

バスの便名を伝え、バスの中を調べてもらうと同時に、

亀有駅前のバス停に忘れていないかを訊ねた。

 

が、しかし、

バス会社の窓口担当が応えるには、

乗車していたバスの運転手から

見当たらないと言う報告だし

バス停に出発を待つバスの運転手も、

バス停にないと言う。

 

記憶をたどるが、バス停まで転がした覚えがあるが、

なんせ、茹だるような暑さだ、曖昧である。

JR亀有駅の窓口にも、キャリーバッグの特徴を伝え、

届いていないか訊ねたが、期待は、はずれた。

 

金銭的には、大したものではないのだが、

商談セットを、また、一式、創り直すには、

ひと苦労ではある。

 

太陽の強い陽射しと、

この状況に眩暈(めまい)がした。

 

ここは、葛飾区亀有だ、

途方に暮れ、額から汗をたらしながら、

葛飾区亀有公園前派出所に、駆け込んだ。



落し物の調書をひと通り書き、

あとは、宜しくお願い致します、と、

まだ、止まらない汗をタオルで拭いながら、

派出所を出て、申請終了のゴングが鳴りやまぬうちに、

腰の曲がった八十歳近いお婆さんが、

日傘を片手に、涼しい顔で、

ぼくのキャリーバッグをゴロゴロ引いてきた。

奇跡である。

お婆さんは、この得体の知れない、

不審物のキャリーバッグが怖くなかったのか。

すべてこの暑さが、恐怖心すら取り除いたのか。

 

人生の歴史の重さを感じつつ、畏(おそ)れ入った。

 

お礼を言い、手前勝手ではあるが、

手持ちの商材用の商品を謝礼に渡そうとしたのだが、

 

お婆さんの、応えた言葉に痺(しび)れてしまった。

 

「いや、バス停に、誰のものか判らず

このバッグがあったから、持ってきただけだよ。

そんなものは、いらない、もうバスの時間だから」

と、曲がった腰で、すたすた、猛暑を忘れたように、

立ち去ってしまった。

 

当たり前のことを、当たり前にした。

そこには、邪推なんてはさむ余地はない。

 

大変、有り難く、嬉しい事ではありますが、

複雑な気持ちであります。

 

この複雑の気持ちは、

八十代のお婆さんの素朴な親切な気持ちと、

現在の社会の複雑な問題との接点のない

交差点だと思うのだが、

今回、お婆さんと複雑な問題はすれ違い、

いまさら、他所(よそ)に逃げることは出来ない。


ただ、こちらは、他所でなく、

亀有区亀有公園前である。

土地柄、このような話は、当然で、

「こち亀」も200巻のネタの宝庫にも

なったんでしょうから。

 


ご存知でしょうが、

亀有駅前に、派出所はありますが、

「葛飾区亀有公園前派出所」という名称では

ありません。

 

もちろん、

派出所内を探しても、

両さんも、中川くんも、麗子ちゃんも、

見当たりません。

 

奇跡的に、

お婆さんが、彼らを、連れてきてもくれません。


深くは、関わっていないけど、

葛飾区亀有、いい街だと、感じた。



この猛暑の夏が手伝ってくれたから、

だけじゃない。

 

眼を細め、目頭がちょっぴり熱くなったのも、

まぶしい太陽のせいじゃないと思う。

 

 

 

 

初出 17/12/25 20:03 再掲載 新版改訂



コメントを投稿