人心を得る法・・・水雲問答⑧
雲 政治というものは多少理に反するところがあっても、まず国民を悦ばせてやらなければ
なりません。そうでないと国民は信じません。信じないと従いません。とにかく国民を従
わすためには、ちよっと機嫌をとってやることが必要です。と春秋時代の鄭(てい)の名宰
子産(しさん)が言っておりますが、これは面白い意見であると思います。
水 人生諸般の問題を処理していくためには、本当の意味の歴史をマナバなければなりませ
ん。その実例をあげてみましよう。鄭の大夫徐吾犯(だいぶじょごはん)の妹に美人がおり
ました。同じ家中の子南(しなん)が妻に迎えようとすると、同族の者が男前を自慢にして競
争者になりました。ところが婦人は子南の方が男らしいので、その嫁になってしまいました。
そこで乱暴な同族の者は、子南を殺しその妻を横取りしようと謀り、却って子南のために傷
を負い告訴しました。
名相子南は同族争いのことでもあり、その者は勢力家でもありましたから、慎重な態度を
とって深謀遠慮をめぐらし、とにかく傷を負わせた子南の方を国払いにして、その後専横の
つのる勢力家が同族から爪はじきせられるのをまって、これを誅殺したのであります。こう
いう風に世の中の酸いも甘いもかみわけた、幅のできた人にはさまざまな手段があります。
しかしいろいろな問題を経験した者でないとその妙はわかりません。