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エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XI-7

2021-06-02 09:37:31 | 地獄の生活

苦い微笑が彼女の唇を痙攣させた。現状がどのようなものか、今や彼女ははっきり理解したのである。やや落ち着いた口調で彼女は続けた。

「それに、当てにならぬ証言が一体何を証明するというんですの? 今朝ド・シャルース伯爵の召使たち全員が私に伯爵のお金がどこへ行ったかの説明を求めたのをお聞きになったでしょう!あなた様が介入してくださらなかったら、今頃私は牢獄に入れられていたかもしれません!」

「それとこれとは問題が違いますよ、お嬢さん」

「いいえ、同じことです!……私が非難された場合を考えてみてください。誰かが彼のもとに『マルグリットが盗みをした』と言いに行ったとしたら、彼は何と答えるか! 彼は笑うでしょう。そして私と同じように『そんなことがある筈がない!』と叫ぶでしょう」

判事の見解は定まっていた。彼にとってパスカルは有罪であった。しかし彼はあえて議論をしようとはしなかった。まず第一に、マルグリット嬢を納得させることは出来ないだろうと感じていたし、それに今や彼女はすっかり精神力を取り戻していたからだ。しかし彼はマルグリット嬢が何をしようと考えているかを突き止めようとした。もしそれが危険なものなら辞めさせるために。

「貴女の言われる通りかもしれませぬ」と彼は譲歩した。「しかしそれでもなお、この不幸な事件があった為に今後は貴女が心に決めたとおりには行かないでしょう……」

「確かに、判事様、多少の修正はされるでしょう」

彼女の突然の落ち着きに面喰った判事は彼女をじっと見た。

「一時間前でしたら」彼女は続けて言った。「私は何としてでもパスカルを探しに行ったでしょう。私は彼の助言と力添えを当てにしていました……。毅然として、明白な権利を要求するために、すなわち神聖な誓いを果たして貰うためにです。でも今は……」

「どうなのです?」

「私の心はずっと変わりません。私は彼のところへ行きます。が、つつましく懇願しに行くのです。私は彼にこう言います。『あなたは酷い目に遭わされている。でも二人で重荷を分かち合うなら、不幸も耐えられる。私はあなたのそばにいます!何もかも失ったとしても、あなたの最も親しい友人たちがあなたを見捨てたとしても、私がいます!あなたが何をしようとも、ヨーロッパから出て行くか、パリに留まって復讐の機会を狙うか、いずれにしてもあなたには安心して計画を打ち明けられる勇敢で忠実な仲間、もう一人の自分、この私がいます!妻であり、友であり、妹であり、恋人の私が。私はあなたの望むものになります。何の条件も付けずに!』」6.2

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