「すばらしい! ……で、その御者にはどこで会えるんです?」
「今この瞬間はどこにいるか分かりませんが、彼はこの本部の所属ですから、待ってたら必ずそのうち戻ってきますよ……」
「待ちます。ただ、私まだ夕食を取ってないんで、ちょっと一口、何か食べてきます……それじゃまた! フォルチュナさんがあなたの借用証書を返してくれることは請け合いますよ……」
実際シュパンは大いに空腹だったので、来がけに目についた小さな店にダッシュで駆け付けた。そこで彼は十八スーでたっぷりの食事を取り、自分へのご褒美としてコーヒー一杯とリキュール一杯を飲んだ。そんなわけで満腹状態で彼は中央事務所に戻った。
2140番の馬車は彼がいない間には戻っていなかったので、彼は門のところで待ち構えることにした。ここで、もし彼が待つという技術を完璧に会得していなかったならば、彼の忍耐力は大いなる試練を与えられることになったであろう。退屈しすぎることなく、人目を引かないようにしながら、じっと待ち続けるというのは、困難な技だったからだ。
待ちに待った馬車が中庭に入ってくるのを見たとき、シュパンの心臓は高鳴った。時刻は十二時を少し過ぎていた。
その御者はゆっくりした動作で御者台から降り、事務所に入るとその日の稼ぎを差し出し、乗客の利用時間や目的地などを記入した報告書を提出し、外に出て来た。彼は確かにあの家政婦が言ったとおり、太った陽気そうな男で、この時間にまだ開いている酒場で何らかの酒を奢られるのを断るそぶりも見せなかった。
シュパンはこの男にあれこれ尋ねるに当たって、何らかの口実を並べたのだが、それを信じたにせよ信じなかったにせよ、彼はスラスラと答えてくれた。ウルム通りで客を『拾った』ことはよく覚えていて、その威厳ある年配の『ブルジョワ女性』の身体的特徴ばかりか、積み込んだ荷物、旅行鞄、帽子用トランクの数、それらの形状まで教えてくれた。
その女性客をセーヌ川右岸の西駅まで乗せて行き、アムステルダム通りの入口で馬車を停めた。鉄道の駅係員が近づき、慣例に従い『荷物はどちらまで?』と尋ねると、老婦人は『ロンドンまで』と答えたという。
シュパンはこれを聞いて、危うく椅子から転がり落ちそうになった。彼の考えでは、フェライユール夫人がル・アーブル駅まで行くように命じたのは、追手をまくため以外にはない、というものだった。車輪が二十回転もしないうちに、彼女が御者に小声で本当の行き先を告げた筈、と確信していた。それなのに、全く違っていた……。
それでは、マルグリット嬢が間違っていたのか? パスカルは本当に、戦いもせず、敵を前に逃亡を図ったのか? あのような男がそんな行動を? あり得ない。7.16
「今この瞬間はどこにいるか分かりませんが、彼はこの本部の所属ですから、待ってたら必ずそのうち戻ってきますよ……」
「待ちます。ただ、私まだ夕食を取ってないんで、ちょっと一口、何か食べてきます……それじゃまた! フォルチュナさんがあなたの借用証書を返してくれることは請け合いますよ……」
実際シュパンは大いに空腹だったので、来がけに目についた小さな店にダッシュで駆け付けた。そこで彼は十八スーでたっぷりの食事を取り、自分へのご褒美としてコーヒー一杯とリキュール一杯を飲んだ。そんなわけで満腹状態で彼は中央事務所に戻った。
2140番の馬車は彼がいない間には戻っていなかったので、彼は門のところで待ち構えることにした。ここで、もし彼が待つという技術を完璧に会得していなかったならば、彼の忍耐力は大いなる試練を与えられることになったであろう。退屈しすぎることなく、人目を引かないようにしながら、じっと待ち続けるというのは、困難な技だったからだ。
待ちに待った馬車が中庭に入ってくるのを見たとき、シュパンの心臓は高鳴った。時刻は十二時を少し過ぎていた。
その御者はゆっくりした動作で御者台から降り、事務所に入るとその日の稼ぎを差し出し、乗客の利用時間や目的地などを記入した報告書を提出し、外に出て来た。彼は確かにあの家政婦が言ったとおり、太った陽気そうな男で、この時間にまだ開いている酒場で何らかの酒を奢られるのを断るそぶりも見せなかった。
シュパンはこの男にあれこれ尋ねるに当たって、何らかの口実を並べたのだが、それを信じたにせよ信じなかったにせよ、彼はスラスラと答えてくれた。ウルム通りで客を『拾った』ことはよく覚えていて、その威厳ある年配の『ブルジョワ女性』の身体的特徴ばかりか、積み込んだ荷物、旅行鞄、帽子用トランクの数、それらの形状まで教えてくれた。
その女性客をセーヌ川右岸の西駅まで乗せて行き、アムステルダム通りの入口で馬車を停めた。鉄道の駅係員が近づき、慣例に従い『荷物はどちらまで?』と尋ねると、老婦人は『ロンドンまで』と答えたという。
シュパンはこれを聞いて、危うく椅子から転がり落ちそうになった。彼の考えでは、フェライユール夫人がル・アーブル駅まで行くように命じたのは、追手をまくため以外にはない、というものだった。車輪が二十回転もしないうちに、彼女が御者に小声で本当の行き先を告げた筈、と確信していた。それなのに、全く違っていた……。
それでは、マルグリット嬢が間違っていたのか? パスカルは本当に、戦いもせず、敵を前に逃亡を図ったのか? あのような男がそんな行動を? あり得ない。7.16