つまるところ、『将軍』とフォンデージ夫人はそれぞれ外に重要な案件があり、家にいるわけには行かなかったのだ。夫の方は自分の馬を見せびらかさねばならなかったし、妻は買い物をしなければならなかった。マダム・レオンはと言えば、彼女がごく最近発見したという『親戚』のもとに入り浸っているらしかった。
家の中で一人きりになり、スパイの目を気にしなくてもよいとなると、マルグリット嬢は弱気になりそうな自分の心を励まそうと、手紙を書き始めた。そこへ召使が、お針子が一人訪ねて来て、お嬢様にお目に掛かりたいと言っている、と知らせに来た。
「お通しして!」 と彼女としては珍しく鋭い口調で彼女は答えた。「すぐにこちらへ!」
四十代と思われる女性が入って来た。服装はいたって簡素、かつ非常に上品であった。彼女はよく作法をわきまえた出入り商人らしく深々とお辞儀をした。が、召使が出て行くと、すぐにマルグリット嬢に近づき、彼女の両手を取った。
「お嬢様、私はあなたの友人の治安判事の義理の妹でございます。貴女様に緊急にお知らせしたいことがありましたので、誰か信頼できる人間を探していたのですが、こちら様に怪しまれないようお針子という形が良いだろうということで、それなら私が行く、と申し出たのでございます。私以上に信頼できる者が見当たりませんでしたので……」
マルグリット嬢の目に涙が光った……。寄る辺のない身にはどんなにちょっとした親切でも、その優しさが心に響くものだ。
「何と言ってお礼を申し上げたら良いか分かりません、マダム!」 と彼女は感動した声で言った。
「お礼はご無用です。それより、どうか、この手紙をできるだけ早く読んでください」
その手紙には、老判事の手で次のようにしたためられていた。
『親愛なるお嬢さん、私はついに金を持ち逃げした犯人の手がかりを得ました。ド・シャルース伯爵が死亡の前々日にその金を受け取った相手と面会する機会を得、思いがけぬ素晴らしい幸運により、伯爵が書き物机の中にしまったという持参人払いの有価証券の詳細と紙幣の番号を手に入れることが出来たのです。それらがあれば、間違いなく我々は犯人もしくは犯人たちを突き止め、有無を言わさず犯行を認めさせられるでしょう。貴女からの手紙によれば、F夫妻は散財にうつつを抜かしているようですが、彼らがどこで、どういった商人たちを相手に金を遣っているか、が分かれば出来るだけ早く私に知らせてください。もう一度言いますが、成功は間違いありません。彼らを現行犯で捕まえます……勇気を失わないで!』
「さぁ、それでは」 とお針子に扮した婦人は、マルグリット嬢が読み終えたのを見て尋ねた。「義兄にどう伝えれば良いですか?」
「明日には必ずお望みの情報をお届けできます、と。今日分かるのは、フォンデージ氏が馬車を買った馬車製造業者の名前だけですので」
「それを紙に書いてください。そうすれば確かですから」8.5
家の中で一人きりになり、スパイの目を気にしなくてもよいとなると、マルグリット嬢は弱気になりそうな自分の心を励まそうと、手紙を書き始めた。そこへ召使が、お針子が一人訪ねて来て、お嬢様にお目に掛かりたいと言っている、と知らせに来た。
「お通しして!」 と彼女としては珍しく鋭い口調で彼女は答えた。「すぐにこちらへ!」
四十代と思われる女性が入って来た。服装はいたって簡素、かつ非常に上品であった。彼女はよく作法をわきまえた出入り商人らしく深々とお辞儀をした。が、召使が出て行くと、すぐにマルグリット嬢に近づき、彼女の両手を取った。
「お嬢様、私はあなたの友人の治安判事の義理の妹でございます。貴女様に緊急にお知らせしたいことがありましたので、誰か信頼できる人間を探していたのですが、こちら様に怪しまれないようお針子という形が良いだろうということで、それなら私が行く、と申し出たのでございます。私以上に信頼できる者が見当たりませんでしたので……」
マルグリット嬢の目に涙が光った……。寄る辺のない身にはどんなにちょっとした親切でも、その優しさが心に響くものだ。
「何と言ってお礼を申し上げたら良いか分かりません、マダム!」 と彼女は感動した声で言った。
「お礼はご無用です。それより、どうか、この手紙をできるだけ早く読んでください」
その手紙には、老判事の手で次のようにしたためられていた。
『親愛なるお嬢さん、私はついに金を持ち逃げした犯人の手がかりを得ました。ド・シャルース伯爵が死亡の前々日にその金を受け取った相手と面会する機会を得、思いがけぬ素晴らしい幸運により、伯爵が書き物机の中にしまったという持参人払いの有価証券の詳細と紙幣の番号を手に入れることが出来たのです。それらがあれば、間違いなく我々は犯人もしくは犯人たちを突き止め、有無を言わさず犯行を認めさせられるでしょう。貴女からの手紙によれば、F夫妻は散財にうつつを抜かしているようですが、彼らがどこで、どういった商人たちを相手に金を遣っているか、が分かれば出来るだけ早く私に知らせてください。もう一度言いますが、成功は間違いありません。彼らを現行犯で捕まえます……勇気を失わないで!』
「さぁ、それでは」 とお針子に扮した婦人は、マルグリット嬢が読み終えたのを見て尋ねた。「義兄にどう伝えれば良いですか?」
「明日には必ずお望みの情報をお届けできます、と。今日分かるのは、フォンデージ氏が馬車を買った馬車製造業者の名前だけですので」
「それを紙に書いてください。そうすれば確かですから」8.5