記憶のスクラップ・アンド・ビルド

当然ながら、その間にタイムラグがあり、
それを無視できなくなることこそ残念です。

「神は老獪にして・・・」??

2010年02月23日 06時41分56秒 | Weblog
東大出版の小冊子UP(2010年2月号)に、筒井泉(高エネルギー研)による「量子もつれ」という面白い文があった。
「月は君が見ているときにしか存在しないと本当に信じているかね」と言ったアインシュタイン(1879-1955)の量子力学に対する批判を巡って、「テレパシー実験」という思考実験を行いながら説明していた。

よく分からない点もあり、参考文献として挙がっていた本を見てみようと・・・。
ネットで区立図書館の文献検索をしたらヒットし、近くの図書館へ廻してもらって借りることができた。

ひとつは
バイス(著)、西嶋他(訳)1987
「神は老獪にして・・・:アインシュタインの人と学問」 産業図書

「神はサイコロを振らない」とも言っているのに、「老獪」はツジツマが合わない。
「老獪」とは散々悪いことばかりしてきた悪賢い老人、根っからの悪党。
サイコロはオテノモノの筈。

分厚い訳本で、原著の題は
‘Subtle is the Lord…’とある。
Subtleも訳し難いが、「主は手の内をお見せにならない」と言うところだろうか。

アインシュタイン自身の言葉は
Raffiniert ist der Herrgott aber boshaft ist er nicht.

辞書を引けば「狡賢い」という項もあることはある。
「・・・」の部分は「悪意があってのことではない。隠すのは神という存在の本質だ」というようなことを省略していて、代償に「老獪」を訳語として選んだのかもしれない。
それにしても分かり難い。
誤解の種ではないだろうか。

もうひとつは
マーミン(著)町田(訳)1994
「量子のミステリー」 丸善

「相対論を理解しているのは12人だけだと新聞が書いたときがあった。・・・1人だけの時はあったかもしれない。・・・しかし多くの人が論文を読んだあとは、その数は12人より確実に多い。しかし量子力学を理解している人は1人もいないと言って間違いない。」
と、ファインマンの言葉が引用されていた。

原著者マーミンは、平明な文で一般の人に分かり易く説明してくれることで著名な理論物理学者だと紹介されてあった。
この本は、量子もつれの思考実験が簡単な算術計算だけで可能なことを幾通りか示している。
その基本的構想が元になって「テレパシー実験」などの思考実験が行われているらしい。
しかし、どうにも読み難く、推敲や校正が悪いのだろうということにして投げ出してしまった。
歳をとって細々した文を追うのが面倒になったのを棚に上げて、そういう正当化はいけないと、分かっているが・・・。

ファインマン・プロセッサーと呼ばれた量子もつれを利用した計算原理が現実に可能となりはじめたという時代である。
理解の仕方も変わり、最近のものなら素人にも幾らか分かり易くなっているかと・・・。

P. K. Aravind 2004
Quantum Mysteries Revisited Again.
Am. J. Phys. 72, 1303-7.

テレパシー実験のアイデアはこの論文によるとあった。
計算の結果はカラーで表示されていて、丹念に読めばなんとか読み通せるかと・・・。
http://users.wpi.edu/~paravind/Publications/MSQUARE5.pdf
からダウンロードできる。


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