あめ~ば気まぐれ狂和国(Caprice Republicrazy of Amoeba)~Livin'LaVidaLoca

勤め人目夜勤科の生物・あめ~ばの目に見え心に思う事を微妙なやる気と常敬混交文で綴る雑記。
コメント歓迎いたします。

雨場毒太の気まぐれ書評133

2009-11-15 23:58:53 | 雨場毒太の気まぐれ書評
原点を愉しむ
紳士同盟
小林信彦 著
新潮 1980年
扶桑社 2008年


「紳士同盟」という作品名の初出は、ジョン・ボーランドによって1958年に書かれた犯罪小説『The League of Gentlemen』の訳題。これはその2年後に映画化されて有名になり、後に題名をもじったコミック作品『The League of Extraordinary Gentlemen』(日本語訳題「怪人連盟」)が描かれ、これの劇場版は「リーグ・オブ・レジェンド」のタイトルで日本でも公開された。

この題名の海外でのバックグラウンドはだいたい以上の通りだが、この題名は日本でもたびたびもじられる。少女漫画(種村有菜『紳士同盟クロス』)だとかB’s-LOG文庫のライトノベル(水沢なな『魔界紳士同盟』)だとか、どうも少女向け作品にばかり採用されているように思われるが、日本の出版物として最初にこのタイトルがもじられたのは、今回レビューする小林信彦の小説だろう。強盗団を主人公とする小説である原典にジャンルの近いコンゲーム小説で、もちろん少女向けではない。

スキャンダルでテレビ局を追い出されたプロデューサー、看板タレントに逃げられた零細プロダクションの社長など、早急に大金を手に入れる必要のある男女4人。彼らはかつて名人と謳われた老詐欺師に弟子入りし、詐欺で大金をせしめようと企む。

著者の小林信彦は日本のエンターテイメント全般に多様な功績のある人物で、自らも小説を多作し、雑誌「ヒッチコック・マガジン」の編集長としては星新一、筒井康隆と後の大物SF作家を世に送り出し、また評論の世界でも多大な業績を誇る。小説家としての彼はユーモア・ミステリ(江戸川乱歩賞に応募したが落選)でスタートを切ったこともあり、この作品もまた、随所にユーモアが織り交ぜられた作品となっている。

そのため詐欺のからくりのみならず、端々のユーモアを追っていくのも楽しみの一つとなる。また、プロデューサーやプロダクションの社長が主役となることからもわかるように、テレビ業界が作品の舞台となる。小林信彦は一時期マルチタレントとしてテレビやラジオに引っ張りだこだった頃があり、また構成作家・評論家としても長くテレビ業界に関わっている。華やかなるこの業界の裏側を描くのはお手の物であり、それも本書の魅力である。

薬師丸ひろ子主演で映画化されるなど、初出当時はヒットした作品であり、日本のコンゲーム小説の嚆矢とも言える歴史的重要性も持つのだが、長らく入手困難となっていた。それが昨年、扶桑社の手によってめでたく復刊。喜ばしい話である(誤植が多いことを除けば、だが・・・)。

続編には『紳士同盟ふたたび』があり、こちらも同じく復刊された。あわせて楽しみたい。