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読響 特別演奏会:鈴木優人指揮「ジュピター」ほか

2020年07月06日 | pocknのコンサート感想録2020
7月5日(日)鈴木優人指揮 読売日本交響楽団
特別演奏会 #この自然界に生きる
東京芸術劇場


【曲目】
1.マーラー/交響曲第5番嬰ハ短調~第4楽章"アダージェット"
2.メンデルスゾーン/管楽器のための序曲
3.モーツァルト/交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」
【アンコール】
♪ ラモー/歌劇「優雅なインドの国々」~「未開人の踊り」


7/14, 7/21のコンサートのチケットはまだ余裕あり(7/7現在)

読響が2月末に休止して以来のコンサートを3回の特別演奏会として開催する新聞広告を見たのはつい8日前。長い沈黙を破ることになったその初日のコンサートを東京芸術劇場で聴いた。コンサートが再開されてから聴くのは、6月の2度のコンサートに続く3回目。

一席おきの間隔が取られた指定席の1、2階はほぼ満席。3階は空席が目立った。一般発売が始まったのはつい5日前だったし、池袋のホールに来ることを躊躇する人も多かったかも知れない。しかし、この日この場所に集まった人たちは、演奏者たちと共にかけがえのない至福の時間を共有することができた。

楽員が登場すると会場は温かい拍手に包まれた。指揮者の登場を待つ間の会場の沈黙は空気が止まったような静けさ。そして鈴木が登場すると大きな拍手が沸き上がった。マーラーの最初の音が鳴り始めた瞬間から熱いものがこみ上げ、涙が溢れ、こぼれ落ちるのを止めることができなかった。なんと久しぶりにホールでオーケストラの響きに包まれたかという感慨や音楽の美しさへの感動だけではない。こんな長い間オケを聴けなかった悔しさやこの先の不安、団員達が抱いているであろう気持ちへの共感、様々な感情が入り混じって押し寄せて来たための涙だ。

鈴木/読響は真っすぐに真剣に音楽に向き合った。そこからは、今の状況を映し出したような映画「ベニスに死す」で聴こえてくる危うげな官能美と死の影が漂うイメージとは異なる、静謐でピュアな心象がくっきりと浮かび上がった。感情に溺れることなく進んできた演奏が、最終盤では溢れる感情の高まりを垣間見せて静かに閉じた。

続いて管・打楽器メンバーによるメンデルスゾーン。ソロパートにも聴きほれる柔らかな前奏に続き、ブラスの饗宴が弾けた。輝かしい音色と力強い攻めの姿勢は、楽しいオペラが始まるような心躍るワクワク感を伝えてきた。読響の管・打楽器セクションここにあり!という自信あふれる嬉々とした表情がいい。

このあと優人さんが挨拶。「今日ここに来る選択をしてくださったことに感謝します。」という言葉が心に沁みた。今日の作曲家は全てMで始まるうえに、自分も”M”と、M尽くしであることをアピールして会場の笑いも取った。

そして「ジュピター」。ピリオド演奏に深く通じている鈴木だが、ここでは「ピリオド封印」と云えるほどオーソドックスなアプローチ。スリリングさには欠けるが躍動感は十分で、安定感のある誠実で充実した演奏。聴こえるべき音やフレーズがちゃんと聴こえ、それらが伸び伸びと息づき、全体が美しく調和していた。特に両端楽章からは強いインパクトを受けた。緊張と弛緩が明瞭なコントラストで描き分けられ、強い部分は朗々と逞しく、穏やかな部分では楽器たちの楽しげな歌やおしゃべりが聴こえてきた。最後の多重フーガの畳みかけは緊迫感を高めながらも喜び溢れる感動のフィナーレ。「ブラボー」の発声が禁じられた分、熱く盛大な拍手に包まれた。アンコールでは鈴木の真骨頂と云える曲が溌溂と響いた。

鈴木はこの4月に読響の指揮者/クリエイティヴパートナーに就任したとのこと。鈴木の指揮者としての実力はBCJで体験済みだが(その昔の芸大バッハカンタータクラブから)、モダンオケの指揮者としても着実な一歩を踏み出したことを示した演奏会だった。退場する楽員への拍手は鳴りやまず、楽員が掃けたあとに優人さんが再登場。僕もスタンディングで感謝と感動を伝えた。

多くの人達が待ち焦がれ、感動を共有できたコンサート。これを早く従来の軌道に近づけなければいけない。客席の半分しか使えない状況は早く戻すべき。クラシックのコンサートは、日常生活で考えられるリスクに比べて感染リスクは低い。コンサート会場だけ席の間隔を開けることにどれほどの意味があるのだろう。まずは2人、3人連れで来る客が間を開けずに座れるようにすれば収容人数は上がる。もうここまでコロナがはびこってしまった現状で「コロナが収束するまでは」という縛りは極力避けるべきだと思う。音楽界は計り知れない深刻な危機に直面している。演奏活動再開の第一歩を踏み出した読響に感謝し、応援したい。

それからもうひとつ。今日の演奏会では楽員がステージに登場する度に温かい拍手が送られた。在京オケの登場時に拍手を送ることは、「コロナが収束したあと」も続いてほしい。
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