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バッハ・コレギウム・ジャパン のモツレク

2018年09月27日 | pocknのコンサート感想録2018
9月24日(月)バッハ・コレギウム・ジャパン 第129回定期演奏会
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1. モーツァルト/交響曲第25番ト短調 K.183
2. モーツァルト/アリア「私があなたを忘れるだって?…おそれないで、恋人よ」K.505
3. モーツァルト/レクイエム K.626
~モーツァルト、アイブラー、ジュースマイヤーの自筆譜に基づく鈴木優人補筆校訂版~
4. モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618

【演 奏】
Sモイツァ・エルトマン/A:マリアンネ・ベアーテ=キーラント/T:櫻田 亮/B:クリスティアン・イムラー
鈴木優人(指揮&フォルテピアノ)/バッハ・コレギウム・ジャパン


バッハの演奏で世界的な評価を確立しているバッハコレギウムジャパン(BCJ)が、去年のモンテヴェルディに続き、今回はモーツァルトでも本領を発揮した。指揮は鈴木優人。

メインのレクイエムの前に、青年時代のモーツァルトの代表的な作品が2つ。25番のシンフォニーは力まず気負わず、このシンフォニーを等身大に描いて行ったが、もう少し聴かせどころをアピールしてもいいのではと感じた。4本並んだホルンの活躍は耳を引いたが、拍の頭の強烈なアクセントは、その効果を狙ったのだろうが、弦とのバランスに難ありと聴こえた。

続く演奏会用アリアでは、鈴木はフォルテピアノを弾きながら、横を向いての指揮。これは音楽の表情が俄然豊かになった。まず素晴らしかったのがエルトマンの歌。艶やかで朗々とした美声と、豊かで細やかな表情を湛え、愛の苦しみを、切々と、情熱的に、或いは憧れに満ちて歌いかけた。この歌に、鈴木のピアノも憧れや哀切を湛えてたっぷりと慈しむように寄り添う。オケの表情も柔軟で、聴衆を魅了した。敏感に、或いは劇的に、和声や表情を変化させるモーツァルトの作曲の妙味を最大限に引き出した演奏だった。

そしてレクイエム。これは、前のアリアの抒情とは対極にあるような厳しさと異様な熱気に支配された演奏となった。無駄なものをそぎ落とし、研ぎ澄まされた眼と心の存在を感た。それは死者に、そして最後の審判での救済への願いに向けられていたのだろうか。イントロイトゥスの厳かな前奏は、磔刑に臨むイエスの重い足取りを表現しているとも云われるバッハの「マタイ」の冒頭との共通点も感じるが、今日のレクイエムの前奏からは、重たい棺を、しっかりと迷いのない足取りで運ぶような決然とした意志が聴こえて来た。この「厳しさ」「決然とした意志」「隙の無さ」が全曲を貫き、合唱とオケが常に高いテンションを保ち、熱いパトスを真っすぐにリアルに聴き手に伝えて来た。更に、救いを求めてすがる場面や、神に賛美を奉げる場面などでは、厳しさと共に、懐の深い温かみも伝わってきた。4人のソリスト達の歌唱も申し分なし。

この曲は、完成に至った経緯のせいもあるかも知れないが、細切れの印象を受けることも少なくないが、今日は全体が一つの大きな作品として眼前に提示され、強いインパクトを与えた。それは、鈴木がそれぞれの楽曲が持つ意味、伝えるべきことを全体のなかで捉えつつ表現し、各楽曲の間の取り方にも細心の配慮をした結果に違いない。

今日のエディションは、従来のジュースマイヤー版をベースに、モーツァルトの死後に最初に補筆を託され、結局完成に至らなかったアイブラーが補筆した部分を取り入れ、それに鈴木が校訂を施したものが使用された。聴き慣れた響きや歌詞の割り付け、音の動きで異なる箇所がいくつかあったが、最も顕著なのが、「ラクリモーザ」の終止部の歌詞を、「アーメン」ではなく「レクイエム」に替え、その後に「アーメン」による鈴木作のフーガが続いたところ。フーガ自体は格調と威厳を兼ね備えたしっくり来るものだったが、ジュースマイヤーの和声進行を尊重したために、アーメンフーガの前で一旦音楽が完全に終止してしまうのはちょっと「ん?」と思った。ここは、レヴィン版のように、ドミナントによる半終止でフーガに続けた方が自然な気がしたが、これも未完に終わったモーツァルトのレクイエムのより良き姿を目差した一つの試みとして評価すべきだろう。

モーツァルトが、レクイエムを完成させることなくこの世を去ってしまったのは人類にとって大きな不運ではあるが、モーツァルトの書いた音楽をいじるなんて本来タブーであることが、レクイエムだけは許され、モーツァルトと、後の時代の人々との協働作業が生まれることで、モーツァルトがいつの世でもリアルに生き続けることになった。

そんな大きなミッションに挑んだ鈴木氏は、今日の演奏会を機にBCJの首席指揮者に就任することが発表された。これまでの鈴木氏の歩みや、充実した演奏内容を考えれば、BCJの将来を担うのに最適の選択だろう。BCJの益々の多方面での躍進が楽しみである。

バッハ・コレギウム・ジャパン:歌劇「ポッペアの戴冠」 2017.11.23 東京オペラシティ

♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「鯨法会」(MS:小泉詠子/Pf:田中梢)(YouTube)
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)

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