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モンテヴェルディ「ウリッセの帰還」~北とぴあ国際音楽祭2018より~

2018年11月26日 | pocknのコンサート感想録2018
11月23日(金)
モンテヴェルディ/歌劇「ウリッセの帰還」

~北とぴあ国際音楽祭2018~
北とぴあ・さくらホール

【配役】
ウリッセ:エミリアーノ・ゴンザレス=トロ、ペネーロペ:湯川亜也子、ミネルヴァ&運命:クリスティーナ・ファネッリ、テレーマコ:ケヴィン・スケルトン、エウメーテ:櫻田亮、イーロ:フルヴィオ・ベッティーニ、メラント:マチルド・エティエンヌ、エウリーマコ:眞弓創一、エリクレーア:波多野睦美、人間のもろさ:上杉清仁、愛:広瀬奈緒、ジョーヴェ:谷口洋介、ジュノーネ:阿部早希子、ネットゥーノ&時: 渡辺祐介、ピザンドロ:中嶋俊晴、アンフィーノモ:福島康晴、アンティーノオ:小笠原美敬
【ダンス】辻田暁、遠山悠介
【管弦楽】
寺神戸 亮 指揮レ・ボレアード

【演出】小野寺修二

北とぴあ国際音楽祭恒例の寺神戸亮とレ・ボレアードによるオペラ公演、今年はモンテヴェルディの現存する3つのオペラで最も地味と云われながら、プロローグと3幕で4時間、17人ものソリストを要する超大作「ウリッセの帰還」が上演された。昨年のグルックの「オルフェオ」は、歌手や演出に不満もあったが、今回は歌手、オーケストラ、演出、そして作品そのものどれもが高次元で、大きな感銘を受けた。

古典派以降の音楽とは異なるモンテヴェルディのオペラの特徴は、人物の描写や心情の変化が総じてゆっくりと繊細に描かれているところ。それだけに、演奏の良し悪しが、感銘を受けるかどうかの大きな決め手となる。譜面通り淡々と演奏するだけでは退屈してしまうし、逆にアグレッシブにやり過ぎても大げさでしつこく感じてしまうに違いない。単に「声」で魅了することも難しい。細部に至るまでデリケートな表現に徹し、繰り返しの多い長い音楽の流れを的確に捉えた緻密なアプローチがいかに大切であるかを、今夜の歌い手たちからつくづく感じた。

歌に常に影のように寄り添う通奏低音のデリケートな表現力もまた素晴らしかった。テオルボやギター、ハープといった撥弦楽器の優しく深い表情が、どれほど歌に豊かなグラデーションを施したか。そして要所で登場する管楽器も加わったときのオーケストラの雄弁さ。大音響とは無縁でありながら、心を大きく揺さぶる力強さで、神話的なスケールを表現した。

こうした演奏だからこそ、モンテヴェルディの音楽の魅力をリアルに感じることができた。淡々とした歌に仕舞われたほのかな情感、その歌の終盤で楽器が加勢し、アリオーソ風な歌唱でクローズアップされる熱い心の内、全体はオペラ・セリアでありながら、時おり入るコミカルな場面で観客を笑いに誘うところは、能と狂言の対比を思わせ、オペラ全体の奥行きを深めている。合唱の出番は少なかったが、終幕のマドリガーレ風の美しい歌が、どんなに情感豊かに響いたことか。そして、ペネーロペが、帰って来たウリッセを本人だと信じてめでたしとなる幕切れでは、オケも総動員で華々しく終わると思いきや、通奏低音だけで静かに静かに喜びに浸って幕となったところにも、モンテヴェルディの陳腐とは対極の非凡さを感じた。

今夜の17名の歌手陣は本当にハイレベルで、良かったところを上げたらきりがないのだが、2人だけ挙げれば、ペネーロペを歌ったメゾソプラノの湯川亜也子とウリッセを歌ったテノールのゴンザレス=トロという主役の2人だろう。湯川は、落ち着いた格調の高さ、繊細さ、深い感情表現、声の美しさなど、どれを取っても秀でているだけでなく、容姿の美しさも后に相応しい。その相手役のゴンザレス=トロは、艶のある映える美声で、一点を見据えた強い信念と自信を伝えた。

去年の公演(オルフェオ)では、セミ・ステージ形式という制約のなかで、ダンスや映像など、盛りだくさんな演出が音楽への集中の邪魔になったが、今年は映像もなく、照明は単色中心で対象を明確に映し出し、2人のダンサーが、要所で伝えるべきことを象徴的なパフォーマンスで披露していたのも良かった。「空飛ぶ馬車」を電動のミニスクーターを乗り回して表していたのも面白かった。

そして、ヴァイオリンも受け持ちつつこの長大なオペラをまとめ上げた指揮の寺神戸の貢献度は驚くべきものだ。寺神戸がレ・ボレアードと共に北とぴあ国際音楽祭で築き上げてきた数々のバロックオペラの名公演に、また新たに忘れがたい記憶を積み上げた。

レ・ボレアードの「オルフェオとエウリディーチェ」~北とぴあ国際音楽祭2017より~(2017.12.8 北とぴあ・さくらホール)

♪ブログ管理人の作曲♪

合唱曲「野ばら」(YouTube)
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」(YouTube)
金子みすゞ作詞「鯨法会」(YouTube)
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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