6月14日(日)田中ケイ子と仲間たち
柏屋楽器 蕨ミュージックセンター
【演目】
日本舞踊
長唄「宝船」
田中ケイ子
ソプラノ独唱
山田耕筰/野薔薇、團伊玖磨/はる、こもりうた、文部省唱歌/茶摘
S:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美/Fl,Pic:吉野直子
インド舞踊
アラリプー、アーディコンダ
舞い:マチコ・ラクシュミー
日本舞踊
大和楽「寿」
田中ケイ子
民謡
お江戸日本橋、黒田節
立方:田中ケイ子/Fl:吉野直子/Pf:赤羽真由美
バリトン独唱
多 忠亮/宵待草、橋本国彦/百姓唄
カーディロ/つれない人、ラーマ/静かなる歌い手
新井 満/千の風になって(ソプラノとのデュオ)
Bar:旭 潔/S:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美
海三題
砂山
立方:田中ケイ子/歌:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美/Fl:吉野直子
城ヶ島の雨
立方:田中ケイ子/歌:旭 潔/Pf:赤羽真由美
春の海
立方:田中ケイ子、マチコ・ラクシュミー/Fl:吉野直子/Pf:今泉えりこ
拙作を度々演奏してくださるソプラノ歌手の今泉えりこさんが出演する今回の公演は、日本舞踊の田中ケイ子さんが主宰する歌と踊りの大変ユニークで興味深い発表の場となった。各分野の第一線で活躍する田中さんのお仲間方が集まり、日踊、日本歌曲、ナポリ民謡、それにインド舞踊も登場した。
日舞のことは何もわからないが、田中さんの踊りは指の先端まで神経が行き届き、全身の実に滑らかな動きで日本の優しい自然の風景や、細やかな心の動きをデリケートに映し出し、日本の美をしみじみと伝えてくれる。滑らかで柔かな動きは隙のない集中力で無駄なく全身をコントロールできて実現するもので、田中さんのその技に心酔した。
インド舞踊となるとますます未知の世界。こちらは神様と人間界を橋渡しする巫の踊りだ。艶やかな衣装に身を包み、きらびやかな装飾が動く度にシャラシャラと音をたて、神様に捧げる踊りが繰り広げられる。エキゾチックな動きや烈しい動きは、日舞の「静」とは一見対照的だが、高められたテンションからスピリチュアルなものを表現するという意味では、手段は異なっても行き着くものは多くの点で共通しているようにも感じた。マチコ・ラクシュミーさんの踊りはそうした精神性を伝える素晴らしいものだったと思う。
おなじみの今泉さんと旭さんの歌もよかった。今泉さんの美しい日本語が澄んだ声に乗り、温かく気高い響きを聴かせた「はる」や「こもりうた」はとりわけ印象に残った。旭さんの伝える熱い心は永遠の青春の息吹と熟年の包容力を兼ね備え、聴き手をドラマの世界へと引き込んで行く。
1つの公演でこうした多彩な分野の充実したパフォーマンスに接することができること自体たいへん珍しいが、それぞれのソロだけでなく、プログラム後半では歌曲に合わせて日舞が舞われ、最後の「春の海」では日踊とインド舞踊のコラボレーションが行われた。こんな体験ができるのは世界中でもこれが唯一なのではないだろうか。「春の海」の前後の緩やかな曲想では日舞が、中間の動きのある曲想ではインド舞踊が舞い、その入れ替わるところでは時間は短かったが日舞とインド舞踊が同時に舞われた。これを見ると感じていた異文化の舞踊の間に共通するものの存在を強く確信することができた。
こうした異文化の芸術の交わり、アイディアが出てもそこから実現に至るのは大変なことだと思うが、それをともすれば伝統に縛られてしまうようにも思える日舞の第一人者である田中さんの主導で実現したという事実は、古いしきたりの世界に安住することのない伝統芸能の底力的なエネルギーと未来への大きな可能性を感じる機会ともなった。この素晴らしい試みを今後も積極的に広めて行ってもらいたいなと感じた。
柏屋楽器 蕨ミュージックセンター
【演目】
日本舞踊
長唄「宝船」
田中ケイ子
ソプラノ独唱
山田耕筰/野薔薇、團伊玖磨/はる、こもりうた、文部省唱歌/茶摘
S:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美/Fl,Pic:吉野直子
インド舞踊
アラリプー、アーディコンダ
舞い:マチコ・ラクシュミー
日本舞踊
大和楽「寿」
田中ケイ子
民謡
お江戸日本橋、黒田節
立方:田中ケイ子/Fl:吉野直子/Pf:赤羽真由美
バリトン独唱
多 忠亮/宵待草、橋本国彦/百姓唄
カーディロ/つれない人、ラーマ/静かなる歌い手
新井 満/千の風になって(ソプラノとのデュオ)
Bar:旭 潔/S:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美
海三題
砂山
立方:田中ケイ子/歌:今泉えりこ/Pf:赤羽真由美/Fl:吉野直子
城ヶ島の雨
立方:田中ケイ子/歌:旭 潔/Pf:赤羽真由美
春の海
立方:田中ケイ子、マチコ・ラクシュミー/Fl:吉野直子/Pf:今泉えりこ
拙作を度々演奏してくださるソプラノ歌手の今泉えりこさんが出演する今回の公演は、日本舞踊の田中ケイ子さんが主宰する歌と踊りの大変ユニークで興味深い発表の場となった。各分野の第一線で活躍する田中さんのお仲間方が集まり、日踊、日本歌曲、ナポリ民謡、それにインド舞踊も登場した。
日舞のことは何もわからないが、田中さんの踊りは指の先端まで神経が行き届き、全身の実に滑らかな動きで日本の優しい自然の風景や、細やかな心の動きをデリケートに映し出し、日本の美をしみじみと伝えてくれる。滑らかで柔かな動きは隙のない集中力で無駄なく全身をコントロールできて実現するもので、田中さんのその技に心酔した。
インド舞踊となるとますます未知の世界。こちらは神様と人間界を橋渡しする巫の踊りだ。艶やかな衣装に身を包み、きらびやかな装飾が動く度にシャラシャラと音をたて、神様に捧げる踊りが繰り広げられる。エキゾチックな動きや烈しい動きは、日舞の「静」とは一見対照的だが、高められたテンションからスピリチュアルなものを表現するという意味では、手段は異なっても行き着くものは多くの点で共通しているようにも感じた。マチコ・ラクシュミーさんの踊りはそうした精神性を伝える素晴らしいものだったと思う。
おなじみの今泉さんと旭さんの歌もよかった。今泉さんの美しい日本語が澄んだ声に乗り、温かく気高い響きを聴かせた「はる」や「こもりうた」はとりわけ印象に残った。旭さんの伝える熱い心は永遠の青春の息吹と熟年の包容力を兼ね備え、聴き手をドラマの世界へと引き込んで行く。
1つの公演でこうした多彩な分野の充実したパフォーマンスに接することができること自体たいへん珍しいが、それぞれのソロだけでなく、プログラム後半では歌曲に合わせて日舞が舞われ、最後の「春の海」では日踊とインド舞踊のコラボレーションが行われた。こんな体験ができるのは世界中でもこれが唯一なのではないだろうか。「春の海」の前後の緩やかな曲想では日舞が、中間の動きのある曲想ではインド舞踊が舞い、その入れ替わるところでは時間は短かったが日舞とインド舞踊が同時に舞われた。これを見ると感じていた異文化の舞踊の間に共通するものの存在を強く確信することができた。
こうした異文化の芸術の交わり、アイディアが出てもそこから実現に至るのは大変なことだと思うが、それをともすれば伝統に縛られてしまうようにも思える日舞の第一人者である田中さんの主導で実現したという事実は、古いしきたりの世界に安住することのない伝統芸能の底力的なエネルギーと未来への大きな可能性を感じる機会ともなった。この素晴らしい試みを今後も積極的に広めて行ってもらいたいなと感じた。