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新国立劇場オペラ公演:西村朗「紫苑物語」

2019年02月23日 | pocknのコンサート感想録2019
2月20日(水)新国立劇場オペラ公演
新国立劇場


西村朗/「紫苑物語」
【原作】石川 淳 【台本】佐々木幹郎

【配役】
宗頼:髙田智宏/平太:松平 敬/うつろ姫:清水華澄/千草:臼木あい/藤内:村上敏明/弓麻呂:河野克典/父:小山陽二郎

【演出】笈田ヨシ 【美術】トム・シェンク 【衣装】リチャード・ハドソン 【照明】ルッツ・デッペ 【振付】前田清実 【舞台監督】髙橋尚史

【演奏】
大野和士 指揮 東京都交響楽団/新国立劇場合唱団

現代日本を代表する作曲家の一人、西村朗によって書かれた初の本格的なオペラが、新国立劇場のオペラ・パレスで上演された。新国のオペラ芸術監督を務める大野和士が指揮を執るということで、自ずと期待が高まる。予約チケット受取りは長蛇の列で10分以上並んだ。日本人作曲家のオペラの初演にこんなに客が集まるのは珍しいのでは。

幕が開き、弦楽による長い前奏が始まった。柔軟で繊細、官能的な音楽が、大野/都響の末端までコントロールの行き届いた演奏でそのたおやかさを一層際立たせた。第1幕は、ソリスト達のアンサンブルが多用され、大規模な合唱が随所に現れ、絵巻物のような美しい舞台美術で魅了する。宗頼の放つ矢で大勢が血だらけで倒れて行く修羅場のオドロオドロしさもリアルだ。

しかし、物語がよくわからない。原作を知らない僕の理解力では、開演前に急いで読んだ短いあらすじだけで、オペラの筋を追える代物ではない。複数の人物が同時に台詞を発することも多く、字幕を追うのも大変(字幕なしでは聞き取れない)。戸惑いのうちに1幕が終わってしまった。前奏の美しさに比べると、その後の音楽はちょっと俗っぽく感じることもあったのは、筋がわからなかったせいかも知れない。

休憩時間に少しでも情報を入れておこうと、ロビーのパネル展示で長木誠司氏(監修)の解説を読んでおいた。そして迎えた第2幕は、その甲斐もあってかオペラを格段に楽しむことができた。筋も追えたし、音楽にも強く引かれた。

ストーリーがより異界へと入って行く第2幕では、音楽もそれに合った表現を得て訴えてきた。西村特有の、ねっとりと絡み付くような粘着気質的で熱い表現が随所で聴かれ、それが妖しさや官能的な美しさを引き立て、時おり聴かれる打楽器を駆使した刺激的な響きが、一種の危うさや狂気じみた感覚を照らし出す。西村音楽の真骨頂だ。美術も美しかったし、何より演奏の素晴らしさが音楽の魅力を不動のものにした。大野/都響の緻密でかつ変幻自在、柔軟で繊細な表現力。大野はこの複雑極まりない長大な新作を完全に手中に収めていたに違いない。

2幕で終始聴衆の目と耳を魅了した歌手は、千草を歌った臼木あい。臼木は、芸大在学中から僕が注目していて、今夜の妖艶な美しい声と柔軟で繊細な表情も極上もの。宗頼とのラブシーンは思わずオペラグラスで凝視してしまったが、白襦袢から覗いた脚にタイツを履いていたのはちょっと興ざめ。狐の足のつもり?千草と宗頼、うつろ姫と藤内のダブルデュオの場面では、千草の自由自在な長いコロラトゥーラの妖しさが宗頼のみならず聴衆も魅了した。一方のうつろ姫(清水華澄)は、腹黒さや憎らしさを露骨に表現していてこれも上手い。

終幕に差しかかり、平太の仏を宗頼が射ようとする場面の緊迫感から、仏が崩れ落ちるクライマックスでは目も耳もステージに釘付けになった。このオペラで最も出番が多く、終始存在感を示してきた宗頼役、髙田智宏の歌唱は一層真に迫って来た。平太役、松平敬は登場時から人を引きつけるオーラのようなものを発し、宗頼が仏を射る段では全てを見据えたような貫禄を聴かせた。

幕切れで、死んだはずの登場人物達がステージ後方に整列して唱和した意図はわかりかねたが、音楽は最後まで緊迫感を失わず、聴き手をグイグイと魅了しつつ幕となった。

これまでに聴いた西村作品の中でも一番強いインパクトを受けた「紫苑物語」には、音楽はもちろん、舞台の美しさも加わり、極めて高い芸術性、更には陳腐な民族性を超えたところにある日本のスピリッツのようなものが伝わってきたという意味で、これは世界に積極的に発信すべき日本の新しいオペラだと感じた。
♪ブログ管理人の作曲♪
合唱曲「野ばら」(YouTube)
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」(YouTube)
金子みすゞ作詞「鯨法会」(YouTube)
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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