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イアン・ボストリッジ  テノールリサイタル

2019年01月25日 | pocknのコンサート感想録2019
1月22日(火)イアン・ボストリッジ(T) /サスキア・ジョルジーニ(Pf)
〈歌曲の森〉~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第24篇~
トッパンホール

【曲目】
1.シューマン/「子供のための歌のアルバム」Op.79~
 ジプシーの歌Ⅰ&Ⅱ、てんとう虫、歩きまわる鐘、牛飼いの別れ、もう春だ、ゆきのはな、塔守りリンツォイの歌
2.シューマン/子供の情景 Op.15
3.シューマン/5つの歌曲 Op.40

♪♪♪

4.ブリテン/冬の言葉 Op.52
5. ブリテン/「この子らは誰か」Op.84~
 悪夢、殺戮、この子らは誰か、子どもたち
6. ブリテン/民謡編曲第2集「フランスの歌」~
 かわいい娘は愛の園にいる、ほらほら、父に教わりながら

【アンコール】
1.シューベルト/さすらい人の月に寄せる歌D.870
2.スコットランド民謡/ブリテン編/オー・ワリー・ワリー

抜群の人気と実力を備えたテノール歌手、イアン・ボストリッジのリサイタルを12年ぶりに聴いた。50歳半ばに達したボストリッジの歌を久々に聴いて、今最も充実した円熟期を迎えているという印象を持った。

ボストリッジのアプローチは、12年前も、それより前の2004年に「冬の旅」を聴いたときからも一貫している。それは、感傷や曖昧さを徹底的に排除して、作品の本質を貪欲なまでにえぐり出し、赤裸々な姿を提示するやり方。方向性は一貫しているが、そこから聴き手に伝わってくるものは、数少ないライブの体験からの感触ではあるが、以前はどこか芝居じみた印象もあったのが、今回はリアルで非の打ちどころがないと云ってもいい「本物」を突き付けて来た。ボストリッジの心の目は常に澄み切って、まっすぐに聴衆を見据え、聴き手の心を射抜く。風邪でもひいたのか、曲間やピアノの後奏中に、咳き込んで水を飲んだりしていたが、声の不調は全く感じられず、艶、輝き、張り、瑞々しさどれもが絶品で、声と表現力の両方で聴衆を魅了した。

ボストリッジの歌唱は、旋律線よりも歌詞の抑揚やアクセントが明瞭で、語り手としての強烈なインパクトがある。それはもちろん「朗読」としてではなく「歌曲」として、どんなタイミングで、どんな声色で、どういう勢いで言葉を発し、それらを繋げていくかを追及し、音楽以上、かつ朗読以上の「歌曲」の持つ魅力を、聴き手に突き付けてくる。

シューマンの「子どものための歌のアルバム」は、歌詞はメルヘンチックなものが多いが、ボストリッジの演奏からは、例えばグリム童話が実は残酷な話であると云われるように、詩に内在する深刻さをクローズアップする。例えば「歩きまわる鐘」は、教会に行くのをサボる子どもが、鐘のお化けに追われるユーモラスなシーンとしてではなく、追いかけてくる「鐘」に心底怯える子どもになりきった切迫感が歌われる。「5つの歌曲」からも、そこに潜む不気味な戦慄がクローズアップされる。

後半のブリテンの歌曲では、更にリアリズムが鮮やかにあぶり出される。「この子らは誰か」の各曲からは、戦争がもたらす悲惨なシーンのみならず、人の心の荒廃が徹底的に突きつけられた。正に真の語り部と云えよう。

ピアノのジョルジーニは、こうしたボストリッジの表現方法と響き合う演奏で、鮮やかに語りかけてきた。これは、ボストリッジが客席で聴衆として聴くなかソロで演奏した「子供の情景」でも同様で、ピアノでの「語り」が実に雄弁だった。

イアン・ボストリッジ テノールリサイタル 2006.11.24 トッパンホール
♪ブログ管理人の作曲♪
合唱曲「野ばら」(YouTube)
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」(YouTube)
金子みすゞ作詞「鯨法会」(YouTube)
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~(YouTube)
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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