facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

青木尚佳&津田裕也 モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ

2018年03月10日 | pocknのコンサート感想録2018
3月8日(木)日本モーツァルト協会2018年第597回例会
《ヴァイオリンとピアノの対話》
東京文化会館小ホール

【曲目】
1. ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 K.306
2. ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 K.377
♪ ♪ ♪

3. ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.379
4. ヴァイオリン・ソナタ イ長調 K.526
【アンコール】
ヴァイオリン・ソナタ ハ長調 K.526 ~第2楽章

【演奏】
Vn:青木尚佳/Pf:津田裕也


青木尚佳さんが、モーツァルトのソナタばかりの演奏会に出演すると知り、迷うことなく行くことにした。日本モーツァルト協会主催のコンサートシリーズで、モーツァルト通の「うるさ型」の会員が集まっているのだろうが、聴衆を文字通りうならせる素晴らしい演奏会となった。

作曲年代順に4曲が並んだプログラム、「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」という形式自体が発展途上にあったこの時代、モーツァルトの作曲家としての成長と相まって、年代を追うごとに、音楽としての深化や充実度も増しているわけだが、4つの作品は、どれもが優劣つけがたい魅力があり、どの楽章も個性的で素敵な「顔」を持っていると感じた。これは演奏を担った青木さんと津田さんに拠るところが大きい。

華やかな見せ場に溢れているわけでもないし、音の数も少ないモーツァルトのヴァイオリン・ソナタは、音楽そのものの魅力をどう伝えられるかにかかっている。青木さんと津田さんはそんな「難曲」に真正面から取り組み、聴き手にため息が出るほどの深い感銘を与えた。実際、後ろに座っていたおっさんが、楽章が終わる度に「ウーン!」と感嘆のうなり声を発していた。

青木さんのヴァイオリンは、見栄を張るパフォーマンスではなく、ほんの一瞬の息遣いの変化や、ボウイングのちょっとした加減で、太陽にさっと雲がかかって影を作ったり、フッとどこからか花の香りがしたりといった、わずかな光や色や香りの変化を自然に伝えてくる。そんなヴァイオリンに、津田さんのピアノは滑らかでチャーミングに、優しく呼応し、光と色彩を増幅し、気持ちを高めていった。

どの曲のどの楽章も素晴らしかったが、例えば1曲目、K.306の第1楽章は、野に咲く花々の間を飛び交う2匹の蝶を見ているような楽しく幸福な気分、第3楽章は、2つの拍子の間をいともたやすく行ったり来たりしてはしゃいでいる愉悦感。2曲目のK.377、第3楽章では、憧れと寂しさが入り混じった感情が心に静かに迫ってきた。

後半、K.379の第2楽章のヴァリエーションも忘れ難い。田園風景のなか、2人が手をつないでゆっくり歩きながら、お互いのこれまでの人生、これからの夢などをしみじみと語り合い、「いい話だね」と共感し合う、とてもいい時間が過ぎて行くのを感じた。青木さんのヴァイオリンの音の美しさと言ったら!最後のK.526の第2楽章は、深い思索の世界へ入り込み、知的な発見をし、また更に深く考え込む、哲学的な迷宮へと招かれ、第3楽章では、愉悦と憧憬が交替しつつ、高みへと運ばれて行った。

演奏が終わると、後でいちいち唸り声を発していたおっさんが「ブラボー!」、その人だけでなく、小ホールのあちこちからブラボーの声が上がり、本当にいいものを聴いたという感銘の拍手が続いた。僕も拍手をしていてじんわりと感動がこみ上げ、トリハダが立った。モーツァルトの音楽が、自然な語り口で豊かな世界を表現していることを、ここまで伝えてくれる演奏は滅多にないだろう。青木さんと津田さんには、是非モーツァルトの他のソナタも聴かせて欲しい。

青木尚佳ヴァイオリン・リサイタル ~2017.10.4 ハクジュホール~
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宜蘭街歩き2、炭酸泉の湧く蘇澳 | トップ | 吉野直子の室内楽 ~ハープ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2018」カテゴリの最新記事