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上原彩子 ピアノリサイタル

2022年05月15日 | pocknのコンサート感想録2022
5月11日(土)上原彩子 デビュー20周年記念ピアノリサイタル

日経ホール

【曲目】
1.シューマン/幻想小曲集 Op.12
2.リスト/ソナタ ロ短調 S. 178 / R. 21
3.ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
【アンコール】
1.チャイコフスキー/ロマンス
2.モーツアルト/ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330~第1楽章

約一年ぶりに聴いた上原彩子のリサイタルは、重量級の曲を前半と後半の両方に置く気合いのプログラムで、圧倒的なリサイタルとなった。

最初のシューマンでは、気だるく湿った空気を運んできた。「夕べに」での奥深くから聴こえてくる内声のポンポンという音が、しとしと降る雨模様のなかの雨だれのように聴こえ、全体から枝にまとわりつくようなしっとり感を伝える。上原は曲集全体をこのしっとり感で統一しているように感じた。次の「飛翔」でも決然としたアプローチよりもどこかに迷いを孕ませ、激しくこみ上げる「夜に」にも気だるさが潜む。全体を薄明のなかに仄かに浮かび上がらせる統一感はあるが、曲によってはもう少し攻撃性を出してほしいとも思った。

そんなシューマンから、リストのロ短調ソナタでは徹底した攻めの姿勢に転じ、上原ならではの深いダイナミズムを聴かせた。度々腰を椅子から浮かせて鍵盤にアタックする入魂の演奏は圧巻で、肩を鷲づかみされて激しく揺すられているよう。アグレッシブでダイナミックなだけでなく、作曲者リストの眼がずっとこちらを凝視して真剣なメッセージを送り続けているよう。全身全霊で伝えるリストの世界は深遠で、憧れや深刻さ、熱に浮かされたような気分から、宗教的な崇高さまで伝える迫真の演奏だった。

後半の「展覧会の絵」でも上原のピアニズムは冴えまくった。この曲はラヴェルのオケバージョンの印象が強いが、上原の濃厚で凝縮されたタッチとアプローチで、オケ版では気づかなかった音やリズムがクローズアップされ、ムソルグスキーのオリジナルの姿がリアルに伝わってきた。

オケ版では、「グノム」でのサックスや、「ビドロ」でのチューバなど、ソロが朗々とメロディーを歌う楽曲で、歌より語りが強調され、それに添う伴奏形の表情が手に取るようにくっきりと伝わってきた。それが、武骨と云えるほどのゴツゴツした触感とか、焦げ臭いほどの気持ちの高ぶりとか、血の通った人情味とかを赤裸々に伝える。「サミュエル・ゴールデンベルク」がさめざめと泣く様子もリアル。それぞれの「プロムナード」にそれぞれの異なる気分があることを、今夜ほど認識したことはなかったかも。「キーウの大門」での賛歌は高らかな人間讃歌として奏でられ、組曲全体が壮大な人間模様として描かれた演奏に心底引きずり込まれ、上原彩子がけた違いのグレートアーティストであることを改めて認識した。

ところで、今夜はノイズの多い演奏会だった。リストのソナタの終盤、近くでアラームのメロディーがけたたましく鳴って超迷惑。拍手が止んですぐ「アラーム鳴らした奴、切っとけよ」と周囲に声がけした。「言おう!」と思ったときから一種の邪念になって、アラームでぶち壊された気分に輪をかけて聴くことへの集中を妨げられた。誰かがクレームしたのか、休憩中はスタッフが何人も回って「携帯電話はお切りください」と注意していたが、後半もあちこちで着信音やバイブ音が鳴った。日経ホールの主目的は会議やシンポジウムで、電波を遮断するシステムはないようだ。この規模のホールで電波が入ってしまうのは厳しい。モノを落とす音や、キャンディの包みを開ける音など他にも色々聴こえてきた。招待客が多い?今後、ここでやる演奏会は行くのを考えてしまった。

上原彩子 ピアノリサイタル 2021.3.13 秋川キララホール
上原彩子 ピアノリサイタル 2020.3.25 東京オペラシティコンサートホール
「偉大な芸術家の思い出に」(Pf:上原彩子) 2018.11.7 北とぴあ さくらホール
上原彩子 プレリュードを弾く 2016.6.3 東京オペラシティコンサートホール
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