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仲道郁代 ピアノリサイタル

2016年03月10日 | pocknのコンサート感想録2016
3月10日(木)仲道郁代(Pf)
第9回 トッパン チャリティーコンサート
トッパンホール
【曲目】
♪スカルラッティ/ソナタ ハ長調 K159
♪シューマン/アラベスク ハ長調 Op.18
♪シューマン/トロイメライ
♪シューベルト/即興曲変ホ長調 Op.90-2
♪ベートーヴェン/ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」
♪リスト/「愛の夢」第3番
♪リスト/メフィストワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
♪ ♪ ♪

♪ショパン/華麗なる大円舞曲
♪ショパン/幻想即興曲
♪ショパン/練習曲 Op.10-12「革命」
♪ショパン/練習曲 Op.10-3「別れの曲」
♪ショパン/ノクターン第20番 嬰ハ短調(遺作)
♪ショパン/バラード第1番 ト短調 Op.23
♪ショパン/ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53「英雄」

【アンコール】
エルガー/愛の挨拶

ほぼ1年ぶりに聴く仲道さんのリサイタルは、小品が中心の名曲コンサート。1曲ごとにMCで作品について詳しい話を聞かせてくれるのは、近年の仲道さんのリサイタルで定着したスタイル。今夜も仲道さんの話からいろいろなことを学んだ。

なかでも印象深かった話は、ベートーヴェンの「月光」が、音楽の修辞法を駆使した作品ということ。繰り返される3連符は「運命の歯車」、上声部に現れる付点のリズムのモチーフは「神」、下降するラメントバスは「ゴルゴダの丘の処刑場に向かうイエスの足取り」、そして半音の上行音型が短2度ズレて並ぶメロディーは「十字架」。

ベートーヴェンが、バッハのようなキリスト教と密接に関わる修辞を採用しているというのはすごく驚き、「月光」の愛称を持つこの曲のイメージがにわかに深刻な宗教性を帯びてきた。仲道さんは長年に渡ってベートーヴェンのソナタに取り組み、これまで「月光」をはじめ、数々の名演に接することができたが、そうした演奏は、一音一音を徹底的に研究し、そこから意味を見出だして行く真摯な姿勢の賜物であることを改めて知った。

この姿勢はベートーヴェンに限らず、全ての演奏曲目で貫かれている。若い頃の仲道さん(今でも十分若くてチャーミングだが)の演奏は、溢れる思いをピアノから歌い上げるという印象で、それが仲道さんの一つの魅力でもあったが、近年はそれがとても知的で厳しいアプローチになってきた。ショパンやシューマンなどロマン派の音楽であっても、感情の赴くままに奏でるのではなく、音楽の構造がくっきりと見える演奏をする。

これには、仲道さんがこのところよく演奏するオリジナル楽器の影響があるのかも知れない。プレイエルなどショパンの時代のピアノは残響が少なく、それを明瞭なアーティキュレーションやアゴーギクでカバーすることで、均整の取れた高い構築性が生まれる。近年の仲道さんの演奏の魅力は、そうした純度の高い結晶のような美しさにある。

それから今夜改めて感嘆したのは、そうした佇まいとしての美しさだけでなく、ピアノの音色の美しさ。とりわけショパンの曲からは、宝石のような高貴な輝きが発せられているのを感じた。同じショパンでも、曲によってその輝き方が異なる。最後に弾いた「英雄ポロネーズ」なんて、雅でシックな光沢に彩られていた。

お話と演奏で綴られた2時間のリサイタルはあっという間に過ぎた。去年のサントリーホールでのリサイタルの感想では、あまりMCがたくさん入ると、演奏への集中力が弱まってしまうし、聴く側としての集中力も途切れがちになってしまうと書いたが、今夜はそうしたテンションの弛みを演奏から感じることもなかった。トッパンホールのような親密でこじんまりとした会場でこそ、この郁代スタイルは本領を発揮するのだろう。

それは良かったのだが、イビキ、飴の包みのカシャカシャ、マジックテープを剥がす音、着信音、ピアノの音が鳴り止まぬ前の拍手・・・ ありとあらゆるノイズが聞こえたのには閉口した。

拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け

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