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日本の現代音楽、創作の軌跡 第1回

2019年07月14日 | pocknのコンサート感想録2019
7月12日(土)池辺晋一郎プロデュース 日本の現代音楽、創作の軌跡
第1回 生誕90年~1929年生まれの5人~
東京オペラシティ リサイタルホール

【曲目】
1.湯浅譲二/7人の奏者のためのプロジェクションズ(1955/56)
2.矢代秋雄/弦楽四重奏曲(1955)
3.松村禎三/アプサラスの庭(1971)
4.間宮芳生/ヴァイオリン、ピアノ、打楽器とコントラバスのためのソナタ(1966)
5.黛 敏郎/10楽器のためのディヴェルティメント(1948)

【演奏】
Pf:野平一郎/古典四重奏団/指揮:キハラ良尚/Vn:成田達輝/Vc:山澤 慧/Cb:黒木岩寿/Fl:木ノ脇道元/Ob:荒木奏美/Cl:亀井良信/Fg:福士マリ子/Hrn:日橋辰朗/Tp:辻本憲一/Tb:古賀 光/Perc:安江佐和子


池辺晋一郎氏のプロデュースで、日本の作曲家の功績を作曲家の生年を追って紹介するシリーズ。第1回は1929年生まれの作曲家特集。チケットは完売でリサイタルホールはほぼ満席。今夜の5人の作曲家が同じ年の生まれと知り、この時代の日本の作曲界の層の厚さに改めてビックリ。池辺氏のウィットに富んだ興味深い話を挟みつつ繰り広げられた2時間半におよぶコンサートは作品も演奏も素晴らしく、楽しく充実したライブを堪能した。

最初の湯浅作品は12音技法が使われ、ウェーベルン的な静寂と透徹した世界と同時に、エモーショナルな情感も顔を覗かせた。各楽器の音色が様々に組み合わされて生まれる新鮮で眩い響きが印象的で、それぞれの楽曲が小宇宙を形作っていた。終曲からは能楽の調べが聴こえ、舞いが見えるようだったが、湯浅氏本人の話で、これは氏が幼少期から親しんでいた謡を取り入れたとのこと。「終曲は評判が良くなかった」という話だが、これだけ少し毛色が違うとは感じた。演奏を褒めつつもバランスに注文を付けるなど、90歳になっても音楽への厳しい氏の態度に触れた。

続いて矢代の弦楽四重奏曲。つい先週末、テレビで氏の代表作であるピアノコンチェルトを聴き、緻密で厳しく、しかも熱い音楽に圧倒されたばかりだったが、こちらはより古典的で抒情的で、民族性も感じさせた。古典四重奏団の演奏は緻密に練られて、柔らかく美しい音色を出していたが、大人しい印象が勝った。もう少し果敢で挑戦的なものを押し出すと、音楽の印象も違ったかも知れない。

松村禎三の三重奏曲では、野平氏のピアノによる静かでクリスタルな響きが幽玄の世界へと導いて行った。プログラムの解説で「永劫の時間の流れの中で、変わらぬもの、超自然的な存在をイメージとして汲み取った音楽」と紹介されていた通り、悠久の時の流れが感じられ、情念めいたものがねっとりと絡みついてつきまとう感覚を味わった。

後半は「楽しさ」を味わえる曲が並んだ。最初の間宮作品では、ジャズがリサイタルホールに鳴り響いた。その典型は第2曲。4人のミュージシャンのやり取りが洒脱に繰り広げられ、モダンジャズの世界に心が躍った。終曲の後半でもジャズが登場、こちらはもっと血沸き踊る土臭さが感じられた。その一方で、第1曲や第3曲前半では、厳しく緊迫感に満ちた間宮の世界が広がった。ここで活躍した成田氏のヴァイオリンは熱い息遣いで鬼気迫るパトスをストレートに伝え、音楽にのめり込ませてくれた。「楽しさ」と「緊迫」の両方を味わえる名品だ。演奏のあと、間宮氏が元気な姿で登場し、ジャズへの熱い思いを語ってくれたことは、間宮氏の音楽の別の一面を知ることにもなった。

最後は黛のディヴェルティメント。まだ藝大在学中の作品とのことだが、完成度の高いオリジナリティーもある音楽。とは言っても挑戦的な前衛音楽とは一線を画した正に「ディヴェルティメント」の楽しさに溢れていた。プーランクとかミヨーに、ガーシュウィンやヒンデミットなんかも動員されたような明るく新鮮な響き。リズムが息づき、色彩溢れる音色が散りばめられ、聴いていて心がウキウキした。10人の演奏も見事。それぞれが遊び心を携えて、思いっきりのいいパフォーマンスをやり取りする様子は、見ていても聴いていても楽しかった。満員の客席はヤンヤの大喝采。シリーズ第1回は成功裏に終演となった。

今夜の曲目は、池辺氏が最初に「どの曲もみんな違う」と紹介していた通り、それぞれが全く異なる音楽だった。そこから共通して感じたのは、音楽の濃さ、明確な意図、遊びがある音楽も含めた作曲家の本気度の高さだ。この時代の日本の作曲界の充実ぶりを、また新たな視点から知ることも出来た貴重な体験となった。来年は1930年生まれということで、武満はもちろん、また新たな出会いが楽しみだ。

♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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