ペコリーノのBL読書日記

BLスキーのペコリーノのBL読書日記。素人の感想&個人的な覚書です。100%自分向けのためネタバレ全開です。

「異母兄のいる庭」水原とほる・著 イラスト・あじみね朔生 笠倉出版社CROSSNOVELS

2008-08-09 03:18:38 | 水原とほる
「異母兄のいる庭」水原とほる・著 イラスト・あじみね朔生 笠倉出版社CROSSNOVELS
 2008年7月23日 262ページ 857円+税

 アマゾンで水原とほる先生の著作を検索すると、19件ヒットします。うち6件は2008年の刊行です

 ストーリーは・・・
 母の死により、代議士である父の屋敷へ引き取られた志乃。愛人の息子である志乃は、そこで、父の正妻や異母兄の慎一郎との関係に悩みながら暮らし始めた。閉鎖的な町で息を潜めるようにして生きる志乃だったが、ある夜、慎一郎に無体な関係を強いられる。大学受験を控えた慎一郎にストレスの捌け口のように扱われながら、いつしか志乃の体は溺れていく…。すれ違う切ない兄弟の愛は…   というもの。


●このところの不調から若干回復傾向が見られた作品かも・・・
 水原先生が最初に本を出されたのは2003年の「夏陰」のようです。
 2003年1冊 2004年、2005年は2冊ずつ。2006年は5冊。 2007年は再び2冊で、2008年に入ってからは8ヶ月ですでに6冊。このところ、水原先生の刊行ペースがあがってるなぁと思っていましたが、調べてみると実際、そうでした。
 2008年に刊行されたといっても、2008年に書いているわけではないでしょうから、もしかしたら書き溜めをされていたものの出版が続いているだけかもしれませんけれども・・・でも、このところの作品はクオリティが下がっているように感じています。それがこの刊行点数の多さが影響しているのは間違いないと思います。

 さて、正直なところ、私は水原先生の作品はあまり好みではないのですが、作品を流れる一種の「狂気」というか、作者のエネルギーみたいなものを感じていまして、それを見たさに時々、水原作品を購入しておりました。
 初期の「夏陰」や一部で評価の高い「唐梅のつばら」なんかにはそのあたりがよく出ていたのですが、このところはパワーダウンして、よくも悪くも普通のBLに落ち着いているように思い、物足りなく感じていました。

 「異母兄のいる庭」という、ズバリ近親相姦を示唆するタイトルのこの作品、水原ワールドは戻ってきているかしら・・・と、不安に駆られながらページを捲りました。
 
 主人公は、政治家の愛人の子、志乃。17歳にして母が食道ガンで他界したため、父のもとに引きとられる。父が本妻と暮らす家には、本妻と、長男の慎一郎が居た。
 慎一郎は文武両道の人気者だったが、お約束である晩、志乃に襲い掛かります。
 
 「受験勉強や家のことでイライラしてるんだ。どうせなんの役にも立たずにここにいるんだから、気晴らしの相手くらいしろよ」
 「俺だって男なんか抱こうと思ってなかったけど、この町にいるかぎり羽目も外せないしな。ちょうどいいから、しばらくお前で間に合わせることにした。どうせ、父さんをたぶらかした母親の血が流れてるんだろう。もったいぶった真似するなよ」(P36)

 そんなわけで志乃にとっては望まない関係が始まるのですが、全て達観しているようなところがある志乃は、自分の身を襲う理不尽な暴力を嘆くだけではなく、政治家の長男として重責を負わされている慎一郎の重荷を気遣います。そして、愛人の子として一生、その出自がついて回る自分を顧みて、「まったく違う悩みを持ちながらこうして唇を重ねていると、ふと互いの痛みを嘗めあっているような錯覚に陥るときがある。こんなことは間違っていると頭では重々わかっているのに、その一方でたとえ世間体を気にしてのことであっても慎一郎にかまってもらえるのが嬉しいのだ」(P51)と、慎一郎との関係を受け入れるのです。
 
 そのまま二人の関係がうまく行ってアマアマに突入すれば、それはそれで水原先生の新機軸となったのかもしれませんが、そうは行きません。
 志乃は佐々木という同級生と親しくなり、初詣に行く約束をします。しかし、直前に慎一郎にバレて、志乃は無理やり犯され(アナルビーズを使われ)、高熱を出したため、佐々木との関係は一旦、ここで終わります。
 志乃は慎一郎が東京の大学に進学するまでの辛抱だ・・・と思っていますが、慎一郎は志乃が高校でイジメにあっていると父親にウソの報告をして、無理やり志乃を東京の高校に進学させ、同居を開始します。しかし、アナルビーズで無理やり犯して以来、慎一郎が志乃を抱くことはなくなります。
 
 この辺りの話の流れは、同じ水原先生の「悲しみの涙はいらない」
 にそっくりで、「この本もダメダメかな~と、悪い予感がよぎりました。

 その後、慎一郎と志乃の間で肉体関係のない、平穏な日々が続きます。
 大学に進学した志乃は、佐々木に再会。同じサークルに入り、またしても友情を深めます。しかし、慎一郎には佐々木と再会したことは内緒にします。
 一方、慎一郎には彼女が出来、志乃と慎一郎のマンションで手料理を振舞ったりします。慎一郎と彼女のつきあいがうまくいっているのを見た志乃は、慎一郎に抱いていた複雑な思いをふっきって、佐々木と旅行。結ばれます。しかし、それが慎一郎にバレ、逆上した慎一郎は「男を誘う、淫乱めっ」(P177)と志乃を陵辱するのです。
 「おまえは俺のものだ。佐々木なんかにやるもんか。せっかく俺だけのものにしたのに、ずっとここに閉じ込めておこうと思っていたのに、どうして出て行こうとするんだよっ」(P179)と、慎一郎。
 それに対し志乃は「僕は、こんなふうにじゃなくて、慎一郎さんに抱かれたかったんだ・・・」(P187)と、自分の思いを告白する志乃。
 たとえ許されない関係でも、慎一郎を愛している。そう告白する志乃。二人の思いがようやく通じ合い、そのままゴールへと向かうかと思いきや、父親の政治生命が危くなる出来事が持ち上がります。志乃の存在がスキャンダルになったら困るという父の秘書の言葉で、二人はマンションから外出を控えるように言われ、それをいいことに抱き合います。志乃は慎一郎と二人だけで過ごすこの時間に感謝しながらも、心の中では慎一郎との別れを考えていました。

 騒動が治まると、志乃は佐々木と別れ(P232)イギリスへ留学(P237)。P239で5年間の留学を終え、日本に戻ってきます。留学中、慎一郎からの連絡は一切、ありませんでした。慎一郎がまっとうな人生を歩んでいくためには自分の選択は正しかった・・・そう思う志乃の前に、慎一郎が現れ、
 「五年前、志乃がどんな重いで日本を発ったのか何度も考えて、俺は追うよりも待つことにした(後略)」
 「俺は志乃が好きなんだ。弟としてじゃない。ずっとそばにいてほしい。抱き締めたいと思う。もちろん、これがどんな罪なもかもわかっている。(後略)」(P244)
 と、愛を告白してハッピーエンド(Hはなし)。

 
 正直なところ、「悲しみの涙はいらない」だけではなく、他の水原作品とかぶっている部分が多々目について、刊行ペースアップのためのアラが見えました。
 また、「禁忌」という点から見ると、年が若いにも関わらず、悟ったようなところがある志乃が、犯されつつも相手の心情に思いを馳せるなど、ものわかりが良すぎる部分が多々あって、テーマのわりにはあっさり風味に仕上がっているところが、物足りませんでした。
 志乃と慎一郎が、最初は勢いで関係を持ってしまったとしても、その後、二人の関係に悩むシーンが欲しかったと思います。
 また、中盤の慎一郎が志乃に手を出さなくなってからがかなりボリュームがあり志乃が佐々木とデキてからが駆け足状態で、構成が悪いように思いました。特に、佐々木と別れ、留学して~のあたりはあらすじ状態でした。

 と、悪いことばかり書きましたけれども、痛い系の水原先生らしさが垣間見える部分もあり、また、他の作品と比べると、登場人物(主役カプだけではなく、他の脇役も含む)の心情を丁寧に描写しておられたように思います。
 もっと時間をかけて話を練れば、もっと良い作品に仕上がったと思うので、その意味では残念な一作でした。しかし、このところの筆の荒さが目立っていた水原作品と比べると、本来の水原先生らしさが戻ってきた一作ではないかと思います。
 水原先生の今後に期待します。
 

  


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