ペコリーノのBL読書日記

BLスキーのペコリーノのBL読書日記。素人の感想&個人的な覚書です。100%自分向けのためネタバレ全開です。

「隷属貴族」あさひ木葉・著 イラスト・佐々成美 リブレ出版 B-BOY SLASH NOVELS

2008-08-10 02:40:23 | あさひ木葉
  「隷属貴族」あさひ木葉・著 イラスト・佐々成美 リブレ出版 B-BOY SLASH NOVELS
 2008年6月20日初版 236ページ 850円+税

 「隷属」と「貴族」で韻を踏んでいるタイトルですね。そんなこと、わざわざ書かなくとも誰でもわかるでしょうけれども(笑)。

 ストーリーは・・・
 「性奴としての素材は悪くない」唯一は母を救うためある国へ赴く。そこはいまだ主従の誓いを絶対とする王国。釈放条件は主を持たない誇り高い騎士キリアンに忠誠を誓わせること…。しかしキリアンは代償として、唯一の貞操を奪い辱め、自分好みに調教する。恥辱にまみれながら淫らに喘がされ作り変えられていく躰は、熱い欲望を貪欲に咥え込み心と裏腹、離さない!!怜悧な顔で最奥を穿つキリアンの真意は?主従逆転、隷属される服従愛オール書き下ろし!! というもの。


●前置きが長いということは・・・
 今ではすっかり直木賞作家と言ったほうが通りがいい、三浦しおん先生のBL書評本、「シュミじゃないんだ」を読んでいたら、こんなくだりがありました。
 「最近のボーイズラブ漫画では、もうバッチリ性器まで描かれているものも多く、私など、「ふへえ」と感嘆なのか食傷気味なのかわからないため息をついてしまうことも多々ある。しかし、はたして出版倫理とやらの極限まで挑戦したHだけ羅列していれば少女たちは満足するのか、と問われたら、確信を持って「否」と答えよう。
 (中略)
 一言でまとめると、ボーイズラブ読者の女の子が熱狂するHシーンというのは、ストーリーに組み込まれたものである、ということだ。成人向けの青年漫画にストーリーがまったくないというわけではないが、女の子が求めるようなストーリー性とは異なる。
 (中略)
 女性読者は、まず作品内に『恋』を求める。『恋愛という感情の交流に基づくH』。この点が、読者にとってはとても大事なのだ。
 だから、ただただ女教師を調教して肉奴隷に・・・・・・とか、そういうのはダメだ。成人向け青年漫画との決定的な方法論の違いが、そこにあると思う。肉奴隷(それにしてもすごい言葉だ)と主人とのあいだに、綿密かつ繊細な心の交流が発生するところまで描かなければ、女性読者のハートを真にゲットすることはかなわない。」(P54)と述べて、
 「だから、女性が読者のボーイズラブ漫画においては、「ひたすら肉奴隷がいたぶられ歓喜にむせぶ」ような、ストーリー性が限りなく薄められた作品が主流になることはないだろう」(P55)と結んでおられました。
 
 私も確かにそう思うのですが、しかしながら「『ひたすら肉奴隷がいたぶられ歓喜にむせぶ』ような、ストーリー性が限りなく薄められた作品」が続々刊行されていて、一定の支持を受けているのも事実だと思います。
 その最右翼と私が位置づけているのがあさひ木葉先生と、最近では沙野風結子先生です。あさひ先生に関しては、ご自身が「イロモロ担当です」とか「イロモノ作家です」などとあと書きで認められているからいいとして、沙野先生に関してはファンから呪われそうな気がします。
 と、長々と前置きをやってみました。

 で、この「隷属貴族」ですけれども、う~ん、ダメダメですね、この話は。

 この話の場合、主人公には課題が設定されているわけです。
 課題とは、「この国一のナイト、キリアンを従者にして、侯爵家を継承することにして母を助け出す」ということ。
 しかしこの話では、キリアンを従者にするというところでモタついてしまい、キリアンを従者にするんだけど、表向きは唯一が主人でも、二人だけのときは唯一が奴隷ということにしたので話がややこしくなり、しかも陵辱系のあさひ先生ですので、カプの二人が心を通わせないまま、愛のないHが延々と続くという結果になりました。
 つまり前置きが延々と続き、話が進まないという結果になってしまったのです。
 Hよりも祖父との対決とか、侯爵家に入ったあとの摩擦とか、いろいろ書きようはあると思うのですが、延々とキリアンとのエッチが続き、祖父との対決もろくになく、エッチシーンのあとに、いきなり「とうとう名前まで奪われた」(P158)というように、結果だけ提示されるというお粗末さ。
 
 それにさらに拍車をかけているのが、書き込みの薄さ。ページ下部がかなり白いです。これまでのあさひ先生の作品でここまで余白が目についたことはないと思います。

 お話は、冒頭でHシーンがあり、「どうしてこういうことになったのか」と、原因を説明するいつもの「あさひ構成」。

 今回は架空の「ゲタハルト王国」を舞台に、主人公・唯一は今は亡き父・スカーサハの代わりに、この国の名門・バランテュラン侯爵家の跡取になるよう、祖父から迫られます。祖父は卑怯にも、唯一の母・里奈を拘束しており、唯一が言うことを聞かなければ死刑に処すと脅すのです。
 唯一は母を救うためにこの条件を呑むのですが、単に跡を継ぐことに同意するだけではダメで、この国の「ナイト」と主従関係を結ばねばなりません。なぜ、そうしないといけないのか・・・・・・読んでもよくわかりませんでした。
 そのため、ナイトのキリアンのもとを訪ねて、従者になってくれと頼むのですが、剣の勝負に敗れます。そして「お前が性奴になれば従者になってやる」と、BLではお決まりの展開となります。
 
 ゲタハルト王国にはゲタハルト語があるそうで、当初、キリアンは唯一に「ゲタハルト語も理解しないのに自分を従者にしようと言うのか」と非難しますが、後半で「ゲタハルト王国は英国連邦に編入されたこともあり、公用語は英語で、ゲタハルト語を話せない人も居る」とか書かれていました。設定がよくわかりません。
 唯一は父親がゲタハルト人のハーフでも、ゲタハルト語を話すことはできず、キリアンとは英語で会話するという設定です。
 唯一の英語レベルは「受験英語並み」ということですが、「二人っきりの時は、私が君の主人だ。君には、私に隷属してもらう(後略)(P51)とキリアンが言うと、唯一はキリアンから言われた「隷属」という英語を即座に理解します。
 ちなみにWEBの辞書で「隷属する」を引いてみると be subject [subordinate] ((to)); belong ((to)) と出てきました。 belong to とかbe subject だと単語としては簡単ですが「~に属する」と理解しても「隷属」とは思わないでしょう、普通。そんな突っ込みは、北京オリンピックのヤラセ開会式を、某ニュース解説委員が「ささいな問題」と言い切ったくらい、あさひワールドではくだらないことなのかもしれません。

 しかし「ゲタハルト王国」とか「スカーサハ」とか、あさひ先生の(外国モノの)ネーミングセンスには脱帽です。中国系の攻めキャラの名前も失笑モノでしたが、「ゲタ」はねーだろ、と思いました。
 ゲタハルト王国でも公用語は英語ってことにすればいいのに、わざわざ現地語があるって設定にしたのであれば、「ナイト」なんて英語から持ってこないで、適当な単語を設定してほしかったです。
 
 水原とほる先生のところでも書きましたが、あさひ先生も、刊行ペースがあがったことがマイナスになってしまったような気がします。このままのペースで作品を出し続けていったら、せっかくついたファンも離れてしまうのではないかと、勝手に心配してしまいました。


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