peaの植物図鑑

2005年にようやくわかった「コーヒーを飲むと眠気が覚める」理由とは。近年、次々と解明され始めた食品と睡眠の関係について 2022年6月  日( )


2005年にようやくわかった「コーヒーを飲むと眠気が覚める」理由とは。近年、次々と解明され始めた食品と睡眠の関係について(「婦人公論」佐藤成美  2022/06/16 12:30)

「体にいい」「悪い」で語られがちな食べもの。しかし、生物や食品化学などの分野に詳しく、明治学院大学や東洋大学で非常勤講師を務めるサイエンスライター・佐藤成美さんは「多くの人が時代背景や健康ブームに惑わされ、栄養学的に正しい事実をわかっているようでわかっていない」と感じているそうです。たとえば「コーヒーを飲めば眠気が覚める」とよく言われますが、科学的にその理由が解明されたのは21世紀に入ってからだそうで――。
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睡眠とコーヒー

眠気覚ましにコーヒーは定番。コーヒーなどカフェインを含む飲みものや食べものを摂取すると、頭がさえ、眠気が覚める効果があることは、よく知られています。
カフェインはコーヒーノキ、チャノキ、カカオなどの植物に含まれています。 
コーヒー1杯(100ミリリットル)には60ミリグラムくらいのカフェインが含まれています。紅茶や緑茶、ココアなどのカフェイン量は、コーヒーより少なく紅茶や緑茶はその2分の1から3分の1程度です。
緑茶でも玉露の場合はかなりカフェイン量が多く、1杯(60ミリリットル)あたり90~100ミリグラムものカフェインを含みます。玉露に多いのはカフェインを多く含む若芽を用いるためです。
エナジードリンクには、コーヒーや紅茶よりもたくさんカフェインを含む製品もあります。また、カフェインは医薬品としても使われています。
カフェインは苦味成分として知られます。コーヒーには苦味成分が数種類あり、カフェインだけがコーヒーの苦味ではないようです。緑茶では、お茶特有のさわやかな苦味をもたらします。


© 婦人公論.jp カフェインが脳にある受容体に結合することで眠気が覚めることを筑波大学などの研究チームが報告(写真提供:Photo AC)

夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるのは当たり前だと思うかもしれませんが、どうして眠くなるのかといった睡眠のメカニズムは解明されていないことがたくさんあります。

また、カフェインでなぜ眠気が覚めるのかも長い間不明でしたが、2005年に筑波大学などの研究チームによる研究結果が報告されました。カフェインが脳にある受容体に結合すると、睡眠を促すアデノシンという物質の作用が抑えられ眠気が覚めるということがわかったのです。

カフェインの作用

睡眠の研究は約100年前に始まりました。1909年、愛知医学校(現・名古屋大学医学部)の石森國臣は、イヌの実験から初めて睡眠物質の存在を示しました。
この実験では、眠らせないようにしたイヌから脳脊髄液を抽出し、その液を別の犬に注射しました。すると、犬は睡眠状態を示しました。一方、対照の犬の脳から抽出した抽出液では睡眠は観察できませんでした。


© 婦人公論.jp カフェインには、覚醒作用のほか、血管拡張作用や利尿作用、胃酸の分泌促進、交感神経を刺激する作用などが知られています。(写真提供:Photo AC)

起き続けていると必ず眠くなるのは、眠りを促す睡眠物質が脳の神経細胞に結合し、蓄積されていくためです。睡眠物質とは、脳内に存在する眠気や覚醒に関わる物質で、30種類以上が発見されました。
そのうちのひとつに、プロスタグランジンD2というものがあります。プロスタグランジンは、 脂肪酸から合成される脂質です。生体中にいくつかの種類があり、睡眠の他、発熱や痛みなどさまざまな脳機能における役割を担っています。
プロスタグランジンD2は、脳のくも膜で生成し、睡眠物質であるアデノシンの分泌を促します。アデノシンは、ATPが分解されてできます。徹夜すると増え、眠ると減ることもわかっています。
アデノシンは受容体に結合すると、視床下部にある睡眠中枢を活性化させ、脳に睡眠を誘発します。また、ヒスタミンという物質の放出を抑えます。
神経伝達物質であるヒスタミンは脳に放出されると目が覚めます。鼻水やくしゃみを引き起こす物質でもあり、風邪薬には抗ヒスタミン成分が配合されています。風邪薬を飲むと眠くなるのはヒスタミンの分泌を抑えるためです。
カフェインは、血液脳関門を容易に通過します。アデノシンと構造がよく似ているため、アデノシンより先にアデノシン受容体に結合してしまいます。すると、アデノシンの働きが抑えられ、眠気が覚めるのです。
カフェインは、覚醒作用のほか、血管拡張作用や利尿作用、胃酸の分泌促進、交感神経を刺激する作用などが知られています。 
カフェインの過剰摂取は、カフェイン依存症に陥る可能性があり、カフェイン中毒で吐き気や嘔吐、手足のしびれや動悸などの症状が出ることがあります
妊婦がコーヒーを禁止されるのは、カフェインが胎盤を簡単に通過でき、胎児に影響が出る可能性があるからです。同様に、小さな子供に安易にエナジードリンクや缶コーヒーを与えないようにしましょう。

レム睡眠は脳や体の回復にどう関わっているのか

寝ている間に脳で何が起こっているのでしょうか。脳の活動は外側から観察できないので、研究が難しかったのですが、脳波が測定できるようになると、さまざまな研究が進みました。睡眠はレム睡眠ノンレム睡眠という2種類の睡眠で構成されることもわかりました。
© 婦人公論.jp 『本当に役立つ栄養学―肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(著:佐藤成美/講談社)

レム睡眠は、眠っている間も大脳の一部が活動し眼球が動くという特徴があります。それ以外の睡眠がノンレム睡眠で眠りの深さによって4段階に分類されています。 
眠りは深いノンレム睡眠から始まり、朝方に向けて徐々に浅いノンレム睡眠が増えます。その間に約90分周期でレム睡眠が現れます。
ノンレム睡眠は大脳が発達した哺乳類や鳥類でみられ、昼間に酷使した大脳を休ませるための睡眠と考えられています。一方、レム睡眠は、大脳を活性化させる眠りとされています。
レム睡眠の間は、夢をよく見ます。脈拍や血圧も変化し、覚醒の準備状態にある睡眠ともいえます。
これまで、レム睡眠が脳や体の回復にどのように関わっているのかはよくわかっていませんでした。筑波大学などの研究チームは、ネズミを使った実験でレム睡眠の間に大脳皮質の毛細血管で赤血球の流入量が大幅に増加していることをみつけました。
脳の毛細血管では、脳に必要な栄養素や酸素が送られ、不要な二酸化炭素や老廃物を回収する物質交換が行われます。赤血球の流入量が増加したことから、レム睡眠の間は、脳で活発に物質交換が行われ、リフレッシュされていると考えられました。
また、この現象には、アデノシン受容体が重要であることも示されています。アデノシン受容体は、カフェインが結合するところでもあり、カフェインとレム睡眠との関わりも今後示されるかもしれません。

次々と食品から見つかる睡眠促進効果

睡眠が健康に大きな影響を及ぼすことはよく知られているものの、どんな睡眠が良い睡眠なのかを客観的に評価するのは難しいものです。不眠に悩んでいる人にとっては、質の良い睡眠をいかに手に入れるかは大きな課題です。 
ヒトの睡眠では、睡眠時間の約80%をノンレム睡眠が、約20%をレム睡眠が占め、このバランスが睡眠の質と関わっているようです。認知症やうつ病などの疾患では、バランスの異常が観察されています。
睡眠薬を飲むと睡眠時間が増えるものの、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスの調節は難しいこともあり、睡眠の質が良くないと感じることがあります。そこで睡眠を改善する効果のある睡眠サプリメントが注目されています。
カフェインがアデノシン受容体に結合して不活化させるなら、その逆もあるはずです。アデノシン受容体を活性化させる物質がみつかれば、睡眠促進効果があるかもしれないとあるメーカーが約80種類の食品をスクリーニングしました。
そしてみつかったのは、なんと日本酒づくりに使われる清酒酵母(6号酵母)でした。その後、睡眠改善効果があることが示され、製品化されています。 
アミノ酸のグリシンやセリンも睡眠改善効果があるとして、製品化されています。グリシンは、偶然その効果がみつかりました。
グリシンを摂取すると、グリシンは脳の視交叉上核という体内時計の中枢として知られる部分に到達します。そこでの作用を介して、末梢血流が増加し熱の放散を促します。すると、睡眠と関係の深い深部体温が低下して睡眠の質が向上すると考えられています。
深部体温は、体の内部の体温のことであり、眠くなると低下することが知られています。
そのほか、食品から睡眠改善効果がある成分がみつかっているので、今後もサプリメントなどに応用されるかもしれません。
ただ、睡眠は主観的なものなので、その効果を検討するのは難しいものです。よく眠れないと思ったら、サプリメントに頼らず医師に相談したり、生活全般を見直したりすることも重要です。

※本稿は、『本当に役立つ栄養学―肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(講談社)の一部を再編集したものです。








今年の3月で85歳の「後期高齢者」。花や木の実、特に山野草が好きで何時もデジカメを持ち歩いています。

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