世界最大のEMSの鴻海精密工業の中国子会社・富士康科技集団(フォックスコン)の成都工場の従業員が飛び降り自殺したことが1日、明らかになった。
同工場は米アップルのタブレット「iPad」の主力生産拠点だが、労働環境に構造的な問題がある可能性が指摘されていた。
●厳しいかん□令
「長時間労働のストレスも自殺の一因になったのかもしれない」。13日午後に19階の屋上から飛び降り自殺した四川省出身の男性(23歳)の同僚は漏らす。
現場の宿舎は14日も保安官で封鎖され、従業員に厳しいかん□令が敷かれる。自殺の原因について、鴻海は「調査中」としている。
2010年に稼働した成都工場では今月初めにも宿舎で従業員の暴動が起きたばかり。
11年のiPadの生産台数は4000万台規模で、全世界の販売台数の大半を占める。東京ディズニーランド4個分の敷地に10万人が働く。
来年には20万人に増やし、年産能力を1億台程度まで引き上げる。
一方で「アップルの成功は中国人労働者の犠牲の上に成り立っている」との批判が同社とフォックスコンには絶えない。
一部の人権団体の批判を受け、アップルは2月に米公正労働協会(FLA)に委託して労働状況を調査。
FLAは長時間労働や賃金の未払いなど違法行為を指摘。アップルは鴻海と協力して改善を進める考えを示した。
●ビジネスモデル岐路
しかし、「労働環境はほとんど変わっていない」と従業員の男性(21)は反論する。
成都工場は24時間稼働だが、従業員は2班体制で朝晩の8時で交代する班しかない。ノルマは厳しいうえ、労働時間も長く、従業員のストレスはたまりやすい。
4日には宿舎で保安員と従業員が争ったのが引き金となって従業員ら約500人が設備を壊し、警察が鎮圧する騒ぎが起きた。
給料は近くの工場よりも3-5割高いが、退社する社員が後を絶たない。鴻海に従業員の確保を約束した地方政府の職員が働く状況すら発生しているという。
鴻海の深川工場(広東省)では10年に従業員10人以上が相次いで飛び降り自殺をして社会問題になった。
同社は労働環境の改善に伴い上昇する労働コストの抑制を狙い、賃金の安い内陸部に進出。iPad輸出による外貨獲得を狙う成都が誘致に成功した経緯がある。
中国では人件費が高騰し、政府は輸出依存型から内需振興型の経済成長へのシフトを進めようとしている。
アップル・鴻海のビジネスモデルが岐路を迎えているとの見方が出ており、両社がどう克服していくのか注目が集まる。
【記事引用】 「日本経済新聞/2012年6月9日(土)/9面」