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――パナソニックを中心とした電機業界の記事集.

パナソニック新体制始動 津賀流改造、復活の重責

2012-06-29 |  パナソニック


 パナソニックの新体制が始動した。第8代社長に27日付で、専務の津賀一宏が昇格。

 55歳での就任は、創業家出身者を除き歴代最年少。合理的な考え方が真骨頂で、テレビ事業縮小でみせた実行力に社内外の期待が集まる。

 2012年3月期に7721億円という過去最大の連結最終赤字からの復活はなるか。津賀の挑戦は、従業員33万人に及ぶ巨大集団の意識改革がカギを握る。


「小さな本社」目指す

 「テレビはもはや白物家電だ」「内向きの仕事を減らして、顧客に向き合おう」――。

 28日夕、東京・港のパナソニックビル。社長就任会見に臨んだ津賀は口角泡を飛ばす勢いで、40分にわたり自らの考えを披露した。

 2月28日の社長交代会見や6月27日の株主総会など、これまで公の場で見せてきた緊張ぶりは影を潜め、復活への決意と自信をみなぎらせた。

 社長交代の発表から4カ月余り。津賀はこの間、社長就任後をにらんだ施策に頭を巡らせ、精力的に動いてきた。

 5月中旬。津賀は本社部門の役員を会議室に集め、「小さな本社」を目指すと宣言した。

 かと思えば、聖域への切り込みに戸惑う役員を横目に、同月16日には疲れた体にもむち打ち深夜便で中東・ドバイに飛んだ。

 「エミレーツ航空のトップに会い、パナソニックアビオニクスとの関係強化を要請してきた」。航空機客席システムなどを手掛けるアビオニクスは世界シェアが高い高収益事業。

 「いける」と思えば、フットワークの軽さを生かして自ら動く。津賀の行動力は、テレビ事業部門でも発揮された。


実利にこだわる

 赤字続きのテレビ再建へ、昨年4月に未経験だった同部門のトップに就いて間もない頃。

 「僕の家にパナソニック、シャープ、ほかの競合メーカーのテレビを置いてほしい。2週間、消費者目線で見比べてみて、妻の意見も聞いてみんなに報告する」。

 津賀は部下にこんな指示を出した。「きれいなパワーポイントを使った余計な説明はいらない。現実を知りたいんだ」。津賀の真剣度は部下を突き動かす。

 「新しいトップは本気だ」。プラズマパネル工場の操業停止といった重要な構造改革を短期間で遂行する津賀の行動力に、部下も呼応した。

 「しがらみにとらわれず、実利にこだわる」(パナソニツク役員OB)。津賀に対する周囲の見方は一致する。

 だからこそ、歴代トップが育て上げた会社の顔とも言うべきテレビ改革にも切り込めるのだろう。大きな収益を誇ってきたテレビも今や、津賀にとっては他の家電と同等の一商品でしかない。

 「コア事業がなければ、高収益企業になれないとは考えていない」。28日の会見で、津賀は不敵な笑みを浮かべた。

 耐久性の高いパソコン・タブレット端末や電子部品実装機など、各分野で高いシェアを持つ高収益事業に光を当てる。

 派手さはなくても着実にもうけるのが津賀流。「売り上げが大きくたって、利益がなければ意味がない」。津賀は周囲にこう言ってはばからない。

 「リソースはあるのにアウトプットが少ない」。徹底した合理主義者の津賀の目には、社内にはまだまだ無駄が多いと映る。

 社長交代会見で掲げた「エコ&スマート」というキーワードには、ムダを省き生産性を高めたいとの思いが込もる。

 トヨタ自動車の幹部などと交流がある津賀には、自社はまだ「ぬれた雑巾」にみえるに違いない。


変化への期待

 「社長就任にあたって」。28日の記者会見で配られた資料はA4用紙わずか1枚。

 事業説明会や決算会見ともなれば10枚以上に及ぶ資料を当然のように用意するのがパナソニック流だが、津賀はそれすらも拒む。

 会社のどこにリソースが埋もれ、どこに無駄が放置されているか。

 津賀は旧パナソニック電工や三洋電機、溶接機器部門など、事業の内容への理解が乏しい部門に優先的に出向き、知識の吸収に努めてきた。

 「まずは事業を知らなければいけない」。事業部門への理解が進むと、「縦割りで、本社と事業部門の情報共有ができていない」と新たな課題を突き止める。

 「常務会は今日で最後です」。

 津賀は26日、取締役会の前に開いていた恒例の常務会を廃止し、新たに10人程度の経営幹部で構成する経営会議を設ける方針を幹部に説明した。

 20人を超える常務での会議は散漫になりがち。少数精鋭でスピーディーに意思決定する仕組みに変える。会社の再建にチームワークで臨む。

 「会社は変わる」。津賀が率いる新たな経営陣にも、変化への期待と決意の念が移り始めている。


ないもの尽くし

 とはいえ、パナソニックはかってないほど体力が落ちている。3月末時点の現預金は6109億円と6年前から1兆円も減り、新しい事業をおこす余力は低下している。

 1ドル=70円台の超円高や世界経済の減速など、外部環境も逆風が強い。まさにないもの尽くしのスタート。

 だが、津賀は意に介さない。「ヒトという最大の資源はまだある」。しがらみは気にしない、派手さはいらない――。

 津賀の意識がパナソニック全社に埋め込まれたとき、名門復活の足音が聞こえ始める。




【記事引用】 「日経産業新聞/2012年6月29日(金)/26面」