市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2009年10月号(通巻449号):わたしのライブラリー

2009-10-01 14:47:26 | ├ わたしのライブラリー
ビートルズのアルバム
「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」


聴いたことのない音の厚みと斬新性に驚嘆

 去る9月9日に、ビートルズの全アルバムの最新デジタルリマスター音源CDが22年ぶりに世界同時発売された。日本におけるアルバム単位の合計出荷枚数が、初回100万枚を突破したという。ビートルズが「ラブ・ミー・ドゥ」でレコードデビューしたのが62 年、そして70 年には解散しているから、すでに40 年以上も前に活動を終えたロックバンドとしては破格の扱いだと言えよう。
 「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)」は、ビートルズによる第9作目のアルバムである。67年6月1日に英国、同2日に米国で発売された。ぼくらが聴いた時期は、日本で発売された67 年7月5日以降のことである。40 年以上前のことだが、わりとよく覚えている。
 日本でも発売される前から評判は上々で、ぼくらはものすごく期待して待った。自分で買ったのか、誰かが買ったレコードを聴いたのか覚えていないが、南大阪ベ平連の事務所があったアベノ近鉄百貨店裏の安アパート「近海荘」で、確か2~3人で聴いたと思う。ソニーのウォークマンが79 年に発売されてから、音楽は一人で楽しむのが主流となった
が、それ以前は、たいてい何人かでステレオスピーカーの前に陣取って聴くことが多かった。新鮮な驚きで頭と心が満たされた。それまでに聴いたことがない重層的なサウンドだった。音が空中を左から右へ(左右反対だったかも)移動した。
 ぼくはエレキ音楽のことは何も分からないのだが、ネットで調べると、「サージャント・ペパーズ」は、4トラック(一度に録音できるチャンネルが4つある)のテープレコーダー(MTR=マルチトラックレコーダー)を2台つなぎ合わせて、計8トラックで録音されたという。現代なら音楽制作につきもののパソコンもデジタルシンセサイザーもなかった時代だったので、まずその音の厚味と斬新性に感嘆した。
 そして、時どき自分の耳がキャッチする英語のフレーズ、例えば、「Oh, I get by with a little help from my friends.」とか、「It’s getting better all the time.」などにシビれた。「友だちのちょっとした協力があれば、なんとかやっていける」とか、「チョトずつ、ず~っとよくなってきている」という歌詞は、そのころのぼくたちの気分にぴったりだった。まだ友人同士の親密な仲間意識が健在で、確実に将来はよくなっていく、という楽観主義がまかり通っていた時代だった。60 年代後半の世界はあちらこちらで激動していたが、日本は経済が上向きで明るい時代だったのだろう。
 また、「Try to realize it’s all within yourself, no-one else can make you change」(気づこうとしなさい、全ては君の中にあり、他の誰も君を変えることはできないことを)という「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」のなかの一節には、彼らの思想性を感じた。

思い出深い曲:「シーズ・リーヴィング・ホーム」

 このアルバムには13 曲が収録されており、幻想的・抽象的な楽曲群と現実的・日常的な楽曲群が入り混じっていると思う。
 前者にはもちろん、ドラッグ体験の影響とも言われる、ジョン・レノンがリード・ヴォーカルの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウイズ・ダイアモンズ」や、ジョージ・ハリソンがインド音楽の影響を受けて作った「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」、最初と最後から二番目に出てくるテーマ曲「サージャント・ペパーズ…」などがある。
 また、後者には「娘の家出」を歌った「シーズ・リーヴィング・ホーム」や、歳をとってからの自分を想像した「ウェン・アイム・シクスティフォー」、また駐車違反取締りの婦警さん(meter maid =ミーター・メイド)をデートに誘う「ラヴリー・リタ」がある。これらの3曲では、ポール・マッカートニーがリード・ヴォーカルを取っている。
 ぼくにとって「シーズ・リーヴィング・ホーム」は思い出深い一曲である。70 年代初頭、二十歳代にしばらくロンドンにいてイタリア・レストランなどでバイトをしながらカレッジに通って英語の勉強をしていた。ある日、先生がこの曲の歌詞を教材に使ったのだ。
 Wednesday morning at five o’clock as the day begins( 水曜日の早朝5時)Silently closing her bedroom door( 寝室のドアを静かに閉めて) Leaving the note that she hoped would say more(「もっと言いたいことがありました」とメモを残し) She goes downstairs to the kitchen clutching her handkerchief(ハンカチを握り締めて台所へ続く階段を下りていく)Quietly turning the backdoor key(裏口のカギを音をさせないように回して)Stepping outside she is free.(外へ一歩踏み出し、彼女は自由になる)
 先生は、これらの歌詞がいかに英国の労働者階級の家庭の現実を表現しているか、について語った。おそらく娘のためを思って、厳しく、理不尽にも家に縛り付けてきた両親。娘はもっと自由に青春を楽しみたかったに違いない。日々口論も絶えなかったのかもしれない。しかし、「あなたのためよ」と言われると、口答えできない娘。たまらず水曜日の早朝、家を出る。英国の労働者階級の小さな持ち家の間取りまで目に浮かぶようだ。
 生徒の誰かが、「clutching ってどういう意味ですか?」と訊いた。先生はハンカチを出して強く握り締めて、「こうすることだよ」と動作をして見せた。そして、「このclutching という言葉が効いているよね。彼女の緊張や決意が本当によく伝わってくる」というような解説をした。
 「サージャント・ペパーズ」は、世界初のコンセプト・アルバムと言われている。基本的なコンセプトをもとに、サウンドからアルバム・ジャケットのデザインまでトータルに創作したものだ。ビートルズが扮する架空の「胡椒軍曹の寂心倶楽部楽団」が主題曲「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で音楽ショウを始め、続いてリンゴ・スター扮する歌手、ビリー・シアーズが「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」を独特の声で歌う。そして、楽曲間に間を置かず、リード・ヴォーカルを替えながらショウが続いていく。そして最終曲の前に、再びテーマ曲「サージェント・ペパーズ(リプライズ)」を演奏。最後に、アンコール曲として「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を演奏し、音楽ショウの幕を閉じる。
 このアルバムは、現在までに全世界で3千200万枚以上のセールスを記録しているという。

編集委員 吐山 継彦

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