市民活動総合情報誌『ウォロ』(2013年度までブログ掲載)

ボランティア・NPOをもう一歩深く! 大阪ボランティア協会が発行する市民活動総合情報誌です。

2009年4月号(通巻444号):わたしのライブラリー

2009-04-01 18:36:22 | ├ わたしのライブラリー
タンガニーカ湖から琵琶湖まで
編集委員 千葉 有紀子

『ゆりかごは口の中 子育てをする魚たち』
桜井淳史著、ポプラ社 2006 年 950 円

『生物界における共生と多様性』
川那部浩哉著、人文書院 1996 年 2,000 円

『琵琶湖の魚』
今森洋輔著、偕成社 2001 年 2,200 円

 子どもの頃、川魚を飼ったり、めだかの卵を孵化させては大きくするのが好きで、部屋を水槽だらけにしていた。庭にはおたまじゃくしを放し、真冬に魚を捕まえようと鴨川にはまって、一張羅を台無しにする。そんな私も普通のOLとなった。魚たちの面倒が見きれなくなって、今はブルーベリーが手一杯だ。

『ゆりかごは口の中 子育てをする魚たち』

 生き物は今も大好きだが、魚たちと何も関係ない生活を送っている私にとって、本は有難い。最近夢中になったのが、桜井淳史さん『ゆりかごは口の中 子育てをする魚たち』。著者は写真家で、サケや川魚の図鑑など著作も多い。この本は卵を生んだ後、口の中で子育てをする魚を中心に、何種類かの魚の恋の様子から、
子育てまでを紹介している。エンゼルフィッシュなどの熱帯魚を飼って、卵を生んで子育てするところを写真に撮ろうとするのだが、なかなか思惑通りには進まない。うまく仲良くペアをつくってくれなかったりと、試行錯誤しながら写真をとる姿に共感を覚えながら読み進む。
 口の中で子育てをする魚は本当にえさを食べないのか、そんな実験もする。ちょっと可愛そうではあるが、私もやってみたい実験である。著者の疑問は膨らむ。魚はどうしてそんな子育てをするのか? それは進化なのか? 飼育だけではわからない。そして、著者はその鍵は、熱帯魚の故郷の湖、アフリカのタンガニーカ湖にあるとにらみ、湖の中で多様な子育てをする魚がうまく棲み分けているところを見る。「魚の世界には、まだまだ発見とおどろきが、たくさんかくされて」いるのである。実はこの本は『地球ふしぎはっけんシリーズ』という子ども向けの本、わかりやすいけれど、もうちょっと知りたいが膨らむ。

『生物界における共生と多様性』

 次に、手にとるのは川那部浩哉さんの『生物界における共生と多様性』。現在、琵琶湖博物館の館長である著者が、就任直前に出版した「日本の川や湖、アフリカ・タンガニイカ湖の魚たちの生態を調べ、食い分けや棲み分けを通して“多様な生物の共存する仕組み”を明るみに出」した本だ。タンガニイカ湖は、世界で2番目に深く、7番目に大きな湖である。300種類もの魚がいて、それらの共生をひもといていくのだ。いろんな魚がいるものだ、と楽しくなる。もちろん専門的な内容もあるが、すでに他のところに書かれていた短いめの文章をまとめたものでとてもわかりやすい。そのときどきでの、生のエピソードも楽しい。たとえば、タンガニイカ湖の帰りにミュンヘンに寄って、二晩続けて音楽会に赴いた著者は、帰りの飛行機のなか、生物群集のもつ複雑性を音楽にたとえて分析する。「個々のところですでに複雑な音楽が、さらにオーケストラの作品のように積み重なって出来たものだということになるのではないか」。いろいろな読み方のできる本だと思う。

『琵琶湖の魚』

 本というのは著者を好きになるためにあるのではないかとも思う。そう、大好きな著者と言えば、今森洋輔さんの『琵琶湖の魚』も紹介したい。
 私はなかなかタンガニイカ湖まで行くことはできないが、琵琶湖なら毎週でも可能である。琵琶湖にも多くの魚がいる。その中には、独自の進化をとげた固有種もいる。しかし、いかんせん、そんなに簡単に見られるという訳でもない。そんなフラストレーションの解消がこの本である。琵琶湖の魚55種を、精密画で描いている。今森洋輔さんとは、本を見るよりもご本人にお会いしたのが先で、その人柄が絵から文章からにじみだすようだ。琵琶湖の大切さや、守っていくことの大切さも訴えているし、本当にそうだと思う。本書の帯にコメントを寄せている川那部さんも書くように、あまりの絵の上手さに「この魚、美味しかったなぁ」と琵琶湖の魚の味も思い浮かべてしまう。わが家の冷蔵庫には、琵琶湖の川エビと豆の炊いたのが入っている。琵琶湖を思い出しながら、ちょこっとつまみ食いでもしたくなる気分だ。

注)桜井さんの本ではタンガニーカ湖、川那部さんの本ではタンガニイカ湖となっているので、そのまま表記しています。

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