結局、ずっとここにいるのは危ないとわかってた。けど……2人は動かなかった。ただ願ってただけだ。見つからないように……と、そして2人は寄り添ってた。夜が開けたら、なにもかもがうまくいくかもしれない……この状況が好転するかもしれない。
なにせ少年の親は起きてから少年が家からいなくなってるのに気づくだろう。そうなるときっと警察に連絡してくれるはずだ。そうなると捜索が始まって、その過程でこの村の異様さがバレて……それでそれで……
「それで……全部うまく行けば……」
「うん、そうだね。そうだと……いいね」
2人は寄り添ってた。壁に互いに背を合わせて、出入り口から入る月明かりを見てた。時々雲が月を隠すと、狭い洞窟は真っ暗になった。するとおもむろに2人は手を繋いだ。それで互いの存在を確認した。それだけで安心できた。
2人はポツポツと話す。ずっとお互いの事はしってた。でもそこまで関わりがあったわけじゃない2人だ。忌避されてる村の子どもの幾代と、活発な少年はそこまで相性がいいわけでもない。
でも互いに存在は認識してた。狭い田舎だ。だから近所……というにはちょっと違うが、それでも少年も、そして幾代も小さなときからお互いを知ってたんだ。だからその小さなころからずっと話したかったけど、話せなかった分の時間……それを取り戻すように2人はこの狭い洞窟で話した。
そこで色々と衝撃的な村の内情というか風習を知ったが、別にそれに突っ込む事はしなかった。いつもの少年ならデリカシーなんてなく、変なことには変といったり、それはおかしいぞ――とかズケズケと言ったかもしれない。
けど今の少年は弱ってた。体も……そして心も……だから何か余計な事を言うことはなかった。だからだろうか? 静かに2人の会話は続いていった。それはとても心地よい時間だった。自分の事を話して、相手の事をしって、自分の環境を話して、相手の環境を知って……自分の好きな事、嫌いな事を話して、相手の好きな事、嫌いな事をしった。
この時間で、これまで知らなかった事をたくさん、たくさん知ることが出来た。たくさん知っていくと、時々訪れる沈黙が苦ではなくなってた。話題を探す必要すらなかった。ただどっちかがまた話し出す。大抵それは幾代の方だったけど、それから続く話題に二人して笑ったものだ。
だって近くても遠かった……これまで、そんな環境にいた2人だ。だからこそ、共通する話題も多かったし、全く知らないことだってあった。そうなると、共通の話題も盛り上がって、知らないことだって知りたくなって盛り上がる。そんな好循環だったんだろう。
いつしか空は白み始めてた。夜が終わろうとしてる。けど、2人の声は続いてた。2人は決めてた。夜が開けたら、ここから出ようと。そして家に……少年の家に行こうと……
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