わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

ゴーレム~アヴラム・デイヴィッドスン①

2006-05-08 22:52:00 | 海外SF短編
 “奇想コレクション”のアヴラム・デイヴィッドスン集「どんがらがん」は,代表作をほぼ網羅しており,まさに決定版という装いである。

 どこの国の与太話かわからぬような奇天烈な「どんがらがん」,強迫神経症気味の男が追い詰められる誰も気がつかない恐怖?を描く「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」,えらくストレートなヒューマニズムにあふれた「さあ,みんなで眠ろう」などの作品が並んでおりますが,私としては,やっぱり,巻頭の「ゴーレム」が一番好きですな。


 とある街のありふれた通りに住むガンバイナー老夫妻。

 秋の昼下がり,灰色の顔をした男が,彼らの家のポーチに上がりこみ,椅子へと座ったのである。

 まるでゴーレムみたいな歩き方だ。

 この見知らぬ男は,どうも,人造人間…らしく,盛んに,不吉な,不気味な言辞を弄し,人類への警告を吐く。

 ところが,ガンバイナー夫妻も,負けず劣らずの大物。

 日常の世界にどっぷりと浸かり込み,その物差でしか物事を見ない彼らは,見知らぬ男の言動に全く動じない。

 異様な状況が,彼らの日常に奇妙に取り込まれてしまう様が,絶妙に描かれ,その強引さから生じるユーモアがこの作品の命。

 ぼけとつっこみの漫才を聞いているような雰囲気さえあります。
 悪ふざけにまでいかずに,適度なところにとどまっているのも見事ですな。

 「だから,さっきわしがゴーレムだといったのに」
 「ゴーレムみたいな歩き方だ,と言っただけでしょうが」
 「ゴーレムでなくて,どうしてゴーレムみたいな歩き方ができる?」


 「ゴーレム」は,ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形で,(emeth―真理)という文字を書いた羊皮紙を人形の額に貼り付けることで完成するらしいのだが,おでこに護符を貼るのは,香港の子供妖怪映画で見たような。

 この作品は,創元SF文庫「SF ザ・ベスト・オブ・ザ・ベスト」にも収録されているため,ご存知の人も多いでしょう。

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