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On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

4-22

2010-02-07 20:11:49 | OnTheRoad第4章
 マックを出るとバスターミナルに行くヨシユキさんと僕は銀行の前で別れることになるけど、僕はバスのところまで歩いた。ヨシユキさんは歩きながらボソッと「ドライブの帰りはあまり遅くならないように気をつけて」と言った。
 「コージ君は大丈夫だと思うけど、疲れてきたころホテルのネオンは魅力的に見えるんだ、男としては。ごめん、これじゃ言い訳になるね」
 アネキを妊娠させたヨシユキさんに言われるとミョーにリアルだった。

 食事のおいしいホテルと誘惑の網をはって待ち構えている毒グモのようなホテル、2種類のホテルのことを考えながら自転車をこいでいたら赤信号を見落としそうになった。急ブレーキをかけて飛び出した分を戻りながら、18歳からいきなり25歳にはなれないと思い知った。
 僕は青春時代をきちんと生きてない。恐いものやイヤなものは避けてきたから、気付いたら一歩外に出たら恐いものだらけのシェルターに引きこもっていたんだと思う。


4-21

2010-02-06 18:39:58 | OnTheRoad第4章
 「自信がないの反対は自信マンマンじゃないって知ってた?」とヨシユキさんは言った。「自信がないの反対は勇気があるだと思うよ」。僕はどうしてヨシユキさんのことを頼りないと思ったんだろうと反省した。

 自信マンマンなヤツって嫌いだけど、勇気がある人はカッコいい。パープルレンジャーのヤマモト君みたいに。ヤマモト君がどうしてレンジャーになったかはわからない。でも、勇気がなければ信念を持って職をテンテンとなんてできないと思う。

 ヨシユキさんが時計とバスの時刻表を見てから「ご飯食べて帰る?」と聞いた。僕はまだだけど家で食べると断った。
 そろそろバスが出る時間だから行こうかと言われて、立ち上がりながら自転車なんですと僕は言った。ヨシユキさんは「今度、一緒にご飯行こうね」と言ってくれた。すこしも気を悪くしたようには見えない。

 「何かあったら電話してみて。役に立てないかもしれないけど」とヨシユキさんから封筒を渡されて、「お父さんが一緒に飲もうって言ってました」と僕は言った。ヨシユキさんはちょっと驚いた顔になって「酒は休みの前しか飲まないから週末になるけど、お父さんは忙しいよね」と言ってから「ま、お父さんの休みに合わせますとお伝えください」と付け足した。

4-20

2010-02-06 18:38:09 | OnTheRoad第4章
 探すならホテルか高級レストラン、金額やサービスに関してはホームページを見るか問い合わせて調べる。あとは自分の直感を信じること、とヨシユキさんが言った。一緒にきてくれる女の子なんだから、きっとそれで喜んでくれるはず。

 喜んでくれてると自分は思っていてもホントはいやがられてるかも。そう思うと何もしないほうがいい気になる。僕は弱気なことを言った。
 「やってみなきゃわからないじゃないですか」とプレゼン口調でヨシユキさんが言った。「大事なのは彼女のためにコージ君が一生懸命考えて行動するってことなんです」

 ヨシユキさんは営業に向いてないとアネキは言っていたけど、僕がクライアントだったら自社の広告を全部任せたくなりそうだ。ヨシユキさんはコピーをそろえて封筒に戻してコーヒーを飲んでから言った。「自信をもとうよ」

 自信なんてものは昔からなかった気がする。クルマはこするし、就職には失敗するし、スズキさんには一度フラれたし。

4-19

2010-02-05 19:44:28 | OnTheRoad第4章
 アネキと結婚する前もしてからも、ヨシユキさんはなんとなく苦手だった。広告代理店の営業って職業もうさんクサイ気がしたし、5才年上でスーツを着た男というのがイヤだった。
 でも、僕のためにかき集めてくれた資料について一生懸命説明してくれているヨシユキさんを、アネキが好きになったのはわかる気がした。優しくてすこし頼りないけど、すごくいい人なんだ。

 魚料理とデザートという観点で探すなら、ホテルやけっこう高い店がお勧めだとヨシユキさんは言った。テーブルや食器も高級だし、ゆっくり話すのにちょうどいいんだそうだ。コースを取ると高いけどデザートもついてくるから、逆に得になると言われた。

 大学1年の僕はバイトをする気がなかったから、コース料理を食べにいくなんて考えられなかった。収入の面ではあの頃とそんなに変わってないけど、義理の兄の説明に納得して自分にもできそうな気がするのはなんでだろう。


4-18

2010-02-05 19:43:14 | OnTheRoad第4章
 7時26分の下り電車が着いて、コートを着た人たちが降りてきた。僕は半年で会社を辞めたから、コートの人たちの中にいたことはないんだと思った。
 4つしかない改札口付近は混雑していて、人とぶつからないように僕はすこしずつはしにずれた。ヨシユキさんは最後のほうで階段を上ってきた。アタッシェケースのほかにA4判の水色の封筒を左手に抱えている。

 定期券を改札に通す音がして、僕よりすこし背の高いヨシユキさんが「お待たせ」と僕の前に立った。僕は「お疲れのところ、すみません」と言って、さらにはしにずれた。
 ヨシユキさんに飲みに行こうと言われたら断るつもりだった。昨日もお酒を飲んで記憶がとんでいるし、それでも飲みたいほど僕はお酒が好きではない。
 ヨシユキさんの提案で、僕たちはマックに行くことになった。ワリカンを条件に僕はコーヒーを2つ頼んだ。

 コーヒーを持ってテーブルにつくと、ヨシユキさんはまず封筒を置いてコピーを取り出した。さっき本屋でみたタウン誌の記事やホームページからのプリントアウトがたくさんあった。
 ヨシユキさんは営業マンだから、資料があったほうがしゃべりやすいからと言ったけど、僕は素直にうれしかった。