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On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

4-27

2010-02-09 21:19:26 | OnTheRoad第4章
 ケータイが鳴った。ちょっとびっくりして、すごく安心した。怒ってるなら怒ってるって言ってくれたほうがいい。ごめんって言えばいいんだから。

コージ先輩へ
私のことは「あず」って呼んでください♪
次はいつ休みになるかわからないけど、デートの先行予約ありがと(*‘‐^)-☆
あず

 僕はあんずってフルーツを思い出した。ちょっとすっぱくてほんのり赤い実だったと思う。

あずへ
先輩っていうのもやめようよ ヾ(^-^;)
おやすみ
コージ

 メールを送ってリビングに降りた。サトウさんのマネをしてお酒を飲んで寝たくなった。

4-26

2010-02-09 21:17:55 | OnTheRoad第4章
 お母さんがテレビをつけてすぐ消した。聞いたことはあるけどなじみのない音楽が流れてきて「ビートルズか」とお父さんが言った。「初めてあなたと喫茶店に入ったときにかかっていた曲が聞きたいのよ」とお母さんが言って、「あの曲はこのLPじゃないぞ」とお父さんが言った。
 LPって昔のCDみたいなものらしいけど、僕は見たことがない。

 せっかくかけたからこのまま聞こうということになって、CDは回り続けた。ビートルズが流れて60年代っぽくなったリビングには僕の居場所がない気がして、僕はベッドに向かった。
 部屋のドアを閉めてもビートルズが聞こえてくる。静かにだけど。

 ケータイには新しいメールは届いていない。次のデートなんて書いたから、あずさちゃんは怒ったのかもしれないと考えて、ヨシユキさんが勇気と言ったのを思い出した。
 まだ10時だ。あずさちゃんと別れて7時間しか経っていない。7年間に比べたら、ついさっきみたいなみたいなものだ。

4-25

2010-02-08 21:10:16 | OnTheRoad第4章
 テーブルに着くと、「運転するんだって?」とお父さんに聞かれた。情報源はアネキにちがいないけど、腹は立たなかった。

ご飯を食べてからお風呂に入って歯みがきをした。早すぎる気もするけど何か食べたらまた歯を磨けばいい。

 お父さんは明日が休みだと言って、ビールではないお酒を飲んでいた。この前行ったバーで出てきたのと同じビンがテーブルに置いてある。氷が入ったグラスにすこしだけ入れてあるお酒はビールびんのような色だ。

 「コージも飲むか?」と聞かれたけど、僕は断った。でもお父さんとは話したいから、僕は牛乳を冷蔵庫から出してコップについだ。
 「ドライブに行くんだ」と僕が言って、お父さんは新聞にかくれていた道路地図を出した。地図は最新版で折りグセもついていない。

 お父さんは地図を広げて「1時間だと九十九里までだな」とラインマーカーで印をつけた。「海岸線沿いに走りやすい有料がある。コージも大人なんだから、気をつけて行けばいいよ」と言われて、僕は「うん」としか言えなかった。


4-24

2010-02-08 21:10:05 | OnTheRoad第4章
 ロードレーサーを物置にしまうのにすこし手間取った。物置には僕の学生カバンやランニングシューズなんていらないものがいっぱいあって、ユリナちゃんが使っていたベビーバスが自転車を入れるのに邪魔になった。
 ユリナちゃんのものがあるのはかまわないけど、僕の学生時代のものは捨てるようにお母さんに言わなくちゃと思った。

 お父さんの車はまだエンジンを切ったばかりで、冷えきってはいない。リビングとダイニングに明かりがついていて、シチューのいいニオイがしている。
 ドアチャイムを鳴らさずに鍵を開けて「ただいま」と家に入った。靴を揃えてダウンジャケットを脱いでコートかけに下げて、そっと廊下に上がった。

 お父さんはリビングでテレビを見ていて、お母さんはテーブルに料理を並べている。僕は「腹減ったー」とダイニングに入ってサラダのハムをつまみ食いした。
 「手を洗ってからにして」とお母さんに怒られるのは織込み済みだから、ハムをくわえてすぐに洗面所に行った。ハムを飲み込んで水が温まる前にうがいをしてから、お湯で手を洗った。

4-23

2010-02-07 20:12:24 | OnTheRoad第4章
 この町にいれば、いいホテルも悪いホテルもない。家から出なければ、お父さんとお母さん以外の人と話す必要もない。
 あずさちゃんはシェルターを出るために拒食症になったのかもしれない。かなりハードなやり方だけど、それで彼女は大人になる道を選んだんだ。

 もしあずさちゃんがほかの誰かと付き合ったことがあっても、責めるのはやめようと思った。僕がガキだっただけで、大人の女性として恋をするのは自然なことなんだ。きれいになったあずさちゃんを誰かが愛していたと思うとくやしいけど、シェルターから出られなかった僕はきっと何も言えない。

 風を切って走ると頬が冷たくて、涙が出た。「あずさちゃん、出会いからお願いします」と僕は心の中でくりかえした。