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On The Road

小説『On The Road』と、作者と、読者のページです。はじめての方は、「小説の先頭へGO!」からどうぞ。

3-20

2010-01-19 23:24:01 | OnTheRoad第3章
 10時にセットした目覚ましが鳴る直前のスズキさんは、勤めていた頃のアネキのようなスーツを着ていて大人っぽく見えたけど、すぐにスズキさんだとわかった。
 声をかけようとしたところで目が覚めて、けっこう好きだったのに気付かなかったことを後悔した。

 入院していると気持ちが暗くなりがちだから、明るい服装をしたほうがいいとお母さんが言った。アキエさんはだいぶ良くなってるから大丈夫だと言ったら、アキエさん以外の人も入院していると言われた。僕は納得して薄いブルーのセーターを着た。
 出かけていく場所のことを考えて服を選ぶのは成人式以来だ。会社へ行くのはスーツが制服みたいなものだったし、バイトにもだいたい制服があった。遊びに行くのにも服装なんて気にしなかった。

 ジーンズをはいて薄茶色のコートを着たら、学生気分が抜けきらない新入社員みたいになった。お母さんは合格点をくれたけど、割と恥ずかしい。

 スパゲッティとスープとパンのブランチをお母さんと食べた。昨日の夜、お母さんたちは寿司を食べに行ったらしくて、昼は洋風にしたかったそうだ。

3-19

2010-01-19 23:23:11 | OnTheRoad第3章
シャワーを頭から浴びて、お父さんのトニックシャンプーで髪を洗った。頭はスッキリしたけど、スズキさんの顔は思い出せない。別れて七年になるし、付き合ったのも5カ月だけだから当然かもしれない。でも、今のスズキさんに会いたい気がした。もちろん、服を着て髪を整えてから。

僕がお風呂から出たらお父さんはもういなかった。お母さんが「朝ご飯食べる?」と聞いたけど、僕はもう少し寝ることにした。寝ぼけた顔でお見舞いに行ったら、サトウさんもアキエさんも心配しそうだから。

 スズキさんは小柄で長距離走が得意だった。僕は体が硬いし持久力もないから、陸上競技は向いていなかったと思う。友達がいたから入った陸上部で引退まで続けられたのは、スズキさんがいたからかもしれない。

 そんなことを考えて寝たからか、夢の中に何回かスズキさんが出てきた。夢の中のスズキさんはいつもランニングウェアを着ていて、一生懸命なタカハシ先輩ってけっこう好きです」と何回も言った。実際そう言われたのは一度だけで、僕は「ありがとう」としか言えなかった。
 でも、僕もスズキさんのことをけっこう好きだった。

3-18

2010-01-18 21:30:25 | OnTheRoad第3章
 寝心地が悪くて目がさめたら、明け方の5時だった。夜の間じゅうソファで寝ていたことになる。

お父さんがダイニングでコーヒーを飲んでいて「フロにはいってもう少し寝ろ」と言った。僕は恐る恐る起き上がって、風呂場に向かった。

風呂場の鏡で見た僕はこの前のお父さんよりひどいネグセで、歯みがきをさぼったせいで口の中がねばっこい気もする。
こんなに早いのにお風呂は沸いていて、薬を飲んで寝たから心配した二日酔いにはなっていない。

シャワーのお湯を勢いよく出して、手にすくったお湯でわざとワイルドに顔を洗った。手のひらにヒゲが当たって、男っぽくなれたような気がした。
昨日の夜、サトウさんに誘われたからだけど僕は自分でお酒を飲むことに決めた。お父さんの助言を聞いてだけど、お風呂と歯みがきもさぼった。
食事をする店も自分で決められなかった僕がこんなことでカンドーしていると知ったら、スズキさんはあきれるだろうか。成長したねって言ってくれるだろうか。もう会うのやめようなんて言ってごめんねって思ってくれるだろうか。

3-17

2010-01-18 21:28:40 | OnTheRoad第3章
タクシーを降りたらすごく寒くて気持ちがよかった。お母さんは心配そうな顔で「大丈夫?」と聞いた。飲み過ぎたのはわかるけど、僕は大丈夫だ。
 お父さんは「しっかりしろ」と僕を支えてくれながら、「今度は一緒に飲もうな」と小声で言った。両親にみっともないところを見せたくないしお酒もそんなに好きじゃなかったから、僕は酔っ払うまで飲んだことはなかったけど、ただ見栄っぱりで憶病だっただけのような気もした。

 家に着くと、お母さんはお風呂が沸いていると言って、お父さんは水を飲んで寝ろと言ってコップと薬を渡してくれた。
 僕はお父さんの言うことをきくことにして、服を脱いでパジャマに着替えた。2階の自分の部屋が遠くて、テレビの前のソファに横になった。お母さんが毛布をかけてくれてリビングの電気が消えた。
 お父さんとお母さんはダイニングに行ってお茶を飲んでいるらしく、声が聞こえるけど何を話しているかはわからない。ときどき笑い声が聞こえて、僕はなんだか安心した。

3-16

2010-01-17 22:28:46 | OnTheRoad第3章
 焼き鳥とおでんがいつきたのか僕は覚えていない。約束の2時間がすぎたからとサトウさんに言われるまで、僕はしゃべり続けていたみたいだった。

僕が帰ると言ったら、イシイさんが息子さんに車を出させると言ってくれて、サトウさんはタクシーを呼ぶかと聞いた。僕は2人に大丈夫ですと言って両足で立ったけど少しふらついた。
 ちょっと不安になってお母さんのケータイに電話をしたら、お父さんと食事を終えて電車を降りたところで、タクシーで迎えにきてくれると言われた。10分くらいかかると言う。
 僕の前にはウーロン茶が置かれて「明日は昼頃店に来てくれ」とサトウさんが言った。

 お母さんたちを待つ間、僕はサトウさんたちの話を聞くだけで自分からは話さなかった。イシイさんのボトルはほとんどカラになっていたから、次のボトルはサトウさんが入れると言ってイシイさんは後輩にご馳走にはなれないと言った。

 タクシーが短くクラクションを鳴らして、僕はサトウさんとイシイさんに「ご馳走さまでした。お先に失礼します」と居酒屋を出た。お父さんとお母さんが右につめてくれて、僕は助手席の後ろに座った。
 僕の顔を見て、お父さんは「まっすぐ家までお願いします」と言った。お母さんは化粧をして、いつもとはちがうコートを着て黒い革のバッグを持っている。隣りに座ったら、ちょっとだけ香水の匂いがした。