On a bench ブログ

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聴いたCD Beethoven:Piano Sonata 29-32 (Christoph Eschenbach)

2024年03月24日 | クラシック

 

*(今回は、上の2枚組CDのうち、ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」1曲のみについての感想になります)

 これは、ちょっと書くのが恥ずかしいんだけど、実は買ってから何年も放ったらかしになっていたCD。

 たぶん、見つけた時にすごく安かったので「とりあえず」的にゲットしたものだと思うのだが、しかしそもそもが今も昔も増えて貯まってくるCDが消化できる量を上回ってしまっているので、どうしてもこういうCDが出てきてしまう(日々それを一枚でも聴けるように努力はしております(笑))。

 ただ、その中でも、このエッシェンバッハというピアニストって、どうしても模範的ではあるが意外性とかの面白みはあまり感じられない演奏になっちゃうんだろうなっていう予感と、最初の曲が以前から苦手な「ハンマークラヴィーア」であることもあって、たまにこのCDのジャケットが目に入ってもついスルーしてしまう、ということを数年間繰り返してしまっていた。

 ということで今回、数日前にたまたまこのCDが再び現れた時も、もういいかげんにして聴いてしまうかと、あまり気乗りしないまま聴き始めたわけだけど、それからしばらく聴いている内、あの「第3楽章」の箇所で異変は起きた。

 この第3楽章については、ベートーヴェンのピアノ曲の中でも最も深遠な音楽とも言われ、一方で苦悩の音楽とも言われたりして、いずれにしても数多あるピアノ曲の中でもかなり特別な位置を獲得している楽章なのだが、しかしぼく自身はいまだ開眼できておらず、したがって過去に聴いた時も、この楽章が長く感じてしまい、なかなか終わってくれなくて困ってしまうことが何度もあった。

 それが、このエッシェンバッハ盤では、明らかに一層、はっきりと分かるくらいテンポが遅い。しかし、それにも関わらず、いや、むしろ一層遅いからこそそこに耳を澄ませ、逆に長さを感じさせないような音楽になっている。

 これは一体何なんだ。

 これをもし自分が弾くのだったら、どうしても「長さ」が気になるあまり、何とか聴き手を退屈させずに無難に通り過ぎてしまいたいなんてつい思ってしまうところだが、そんな雑念をエッシェンバッハはあえて振り払ったということなのか。

 とにかく、ここでエッシェンバッハははっきりと意識的にこの楽章をじっくり聴かせることによって、この長さをすごく「聴ける音楽」にしてしまっている。

 ・・・と、驚きながらも、自分は初めてこの楽章に耳を澄ませて没入するという体験をすることに。そして、やっとこの楽章の美しさが少し分かったような気がしたのだった。 

 そして、以後何度か曲全体を聴いて、ある程度落ち着いた後でネットでいろいろ検索してみると、このエッシェンバッハの遅い第3楽章は、やはり以前からかなり話題になっていた演奏であることが判明。やっぱり、スゴイ演奏だったのだなあ、と。 

 それと、エッシェンバッハとハンマークラヴィーアということで思い出したのだが、以前読んだ別のピアニストのCDの解説の中で、エッシェンバッハは昔、来日公演でこの大曲を弾いた際、いきなり舞台袖からピアノに駆け寄ってきて、しっかり座る間もなく弾き始めたというエピソードが紹介されていて、それはやはり聴衆の前でこの難曲を演奏するのはすごく大きなプレッシャーがかかることなのだという文意だったと思うが、1回のコンサートでそれなら、後世までずっと残る録音ではなおさらプレッシャーがかかったに違いなく、ここでの遅いテンポ設定についても、もちろんその場のノリなんかではなく、考えに考え抜かれてのことだったのだと思う。

 そして、ここからはちょっと別の話にもなるのだが、昨夜、再びネットで検索を進めていたところ、ちょっとした奇跡が。

 この演奏の情報を調べている内に、なぜか一見無関係なバレエ関連のページに行き着いてしまい、何だろうと思って見て見ると、何と、このエッシェンバッハの第3楽章の演奏を用いた、Hans van Manen という振付師による「Adagio Hammerklavier」というバレエの演目が制作されて上演されている、という。

 そして、今の世の中、きっとあるだろうと思ってYouTubeで探してみると、あっという間に動画が出現!

 ただ、それ以上の事情はまだ追えていないし、もともと自分はバレエの知識は全くないので何も分からないのだが、演奏には最初の頃は本当にエッシェンバッハの録音を用いていたというから、もしかしたら、この遅い演奏の美しさに感銘を受けての企画だったのではないのだろうか。

 前にも何度か書いたが、良い音楽に接してその情報を調べていくうちに、またこういう未知の世界が目の前に現れてくるということは、ふだん音楽を聴いている中でも大きな醍醐味のひとつ。

 エッシェンバッハの音楽自体にも、Hans van Manen による舞台にも、いま心震えているところです。

Adagio Hammerklavier - Elisabeth Tonev e Vito Mazzeo

↓(もとのエッシェンバッハの演奏。演奏時間は約25分で、他の演奏では平均的には20分くらいなのだそうです)

Piano Sonata No. 29 in B-Flat Major, Op. 106 "Hammerklavier": III. Adagio sostenuto....

↓(こちらは、速いといわれるポリーニ盤。約17分。だけど、全然急いでいるような印象はないし、こちらも自然ですごく美しい演奏に思えます)

Beethoven: Piano Sonata No. 29 in B-Flat Major, Op. 106 "Hammerklavier" - III. Adagio sostenuto

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