美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

白い皿「逆襲のやまのうち(3)」

2023-12-08 | 白い皿

 そして俺は今日、風呂に入るタイミングで「バキューム山内」を出動させ、「おい、床掃除が終わったら、今晩の飯でも炊いてやがれ」と出来もしない要望を押し付けて、浴室に入った。

 くほほ。山内の馬鹿め。と心の中で所期の目的から外れた悪態をつきながら、髪などを洗っていると部屋のほうから「ピー、ピー」という機械音が聞こえる。訝りながらシャワーを止め脱衣所に出ると、テーブルの下で山内が例の機械音を鳴らしながら停止しているのが見えた。寒っ、と言いながら仕方なくびしょ濡れのまま近づくと通常、青く点灯している所が赤く点滅している。おかしいな、と思いつつ再びスイッチを押してやると、山内は何事もなかったかのようにすいすいと掃除を再開する。とりあえず安心した俺は再び浴室にはいり、髪を洗い直した。

 しかし、それから二、三分経つとまた山内がピーピーと叫きだす。寒さを怺えて再度スイッチを押しに行くと、山内は嫌味なほどげんきに動き出す。そしてまた髪を洗う、山内が叫く、スイッチを押す。髪・山内・スイッチ。K・Y・S。くさっ、やばいんじゃねえの?酢昆布。山内が叫く度に、「えっ、俺はまだこんなだるい事をしなくちゃならねえのかよ。いい加減にしてくれよ。早く所定の位置に戻りて蓄電して逐電」とか言っている様できわめてむかついた。

 入浴がおわり脱衣所に出て濡れた体を拭いていると、部屋の奥で山内がソファーの下からぬっと出て来て、真先に脱衣所つまりこちらに突進してきた。

 「おやおや、脱衣所に新規発生した芥発けーん。同じ芥でも、てめえは作家としちゃ、芥川龍之介にはほど遠いよ。自殺するってエピソードだけは真似られても動機としちゃ、地面に叩きつけられて、くだらねえ群衆に踏んづけられて埋もれただけってのが関の山だろうぜ、与太郎」

 とのニュアンスを含んだ「コォーーーーー」という無機質な悪声を響かせながら。