パペット劇場ふらり旅 ~広島~

芝居好きの私がめぐり合った人形劇の魅力、たっぷりとお伝えします。

「舌きり雀」  ~平田オリザ演劇展vol.1より~  (こまばアゴラ劇場)

2011-05-08 | 人形劇
私にとっても久しぶりの人形劇。アゴラ劇場には珍しく、大人ばかりの会場の最前列のベンチ席に2歳から7歳くらいの小さな子どもたちの姿がみえる。
舞台下手にはトランクひとつを提げた山内健司がストレッチをしながら開演を待っている。

日本語での上演はこの日で2度目だったらしいが、平田オリザ作のこの作品は、フランスの演出家によってフランスの子どもたちのためにつくられた。フランス語圏での上演はすでに150ステージ近くにもなるという。

舞台が始まると、山内は観客も一緒に雀の鳴き声やらせてみたり、最前列にいる子どもたちにひとりづつに話しかけたり。日本の人形劇の上演のときと同じつかみ部分だ。

トランクの中からお爺さんが登場。棒遣いの30センチほどの人形で笠と蓑を付けたいかにも日本の昔話に出てきそうなお爺さん。手を放しても自立する安定した構造。
すずめの役は、山内さん。人形は山内さんの身体をよじ登って口許までいって餌をあげている。人形が、首をかしげたり見あげる仕草が実に愛らしい。
お婆さんのほうは、なんとも行動的というかハチャメチャな登場の仕方といい、とっても現代的で、せっかちで忙しそうだ。
人形操演は知り合いのフランス人のプロに習ったそうだが、舞台の役者が初めて人形を遣ったとは思えないほど達者で驚く。

原作の「舌きり雀」を少し変え、お爺さんが雀のお宿にたどり着くまで苦労した部分をカットしシンプルで分かり易くした。葛籠(つづら)から出て来た化け物に散々な目にあったお婆さんのその後は原作には描かれていたかしら。それと、舌をチョキンと切られたすずめ役の山内さんが口許に赤い血のりをつけて話を続けるところにはちょっとびっくり。

なぜこの「舌きり雀」を作品に選んだのか、平田オリザによると、日本では有名だがあまり教訓的とも思えないし、そのよく解らないところが演劇作品に向いていると思ったのだそうだ。舌を切ってしまうところなどとても残酷だが、雀というのは実は若い娘で、嫉妬したお婆さんが、凶行に及んだに違いないと平田は解釈してみたらしい。
だったら葛籠の化け物に散々な目にあったお婆さんが、終幕部で快癒したこすずめと和解する場面が謎めいてなんとも不条理。

平田オリザが、この「舌きり雀」のどこを面白がったのかよく解らないのだけれど、フランスでの上演は大好評だったらしい。3ヶ月で100ステージというのは、日本の人形劇の公演では考えられない。フランスの子どもたちはどこが面白かったのだろうか。

終演後、山内さんへの質問や感想を中心にこの作品について語るティーチインがあった。
フランスでの巡演は、25分の上演に25分のアフタートークを併設し授業のひとコマ分で主に各地の学校でクラス単位(20人くらい)で行われたそうだ。幼稚園から高校くらいまで回ったという。日本文化への理解も文化庁のこの事業の目的。
上演後、子どもたちから活発な質問があったそうで、フランスの観客の源流を発見したようだと山内は嬉しそうだった。血のりについての質問や「舌は切られたら戻らない」という感想の中で、こどもの一人から「日本語は完全にフランス語に直せるのか」と聞かれ、それがとても印象的だったという。

山内は、フランスの子どもたちは、芝居を観ながら言葉をとてもよく聞いている。それに対して日本の観客は言葉以外のもっと広いものを受け留めようとしている感じがするといっていた。
役者が観客にむかい話しかけたりするシーンでは、観客に話しかける演技をしてしまいがちだが、これはこどもには全く通じない。こどもの観客を目の前にした山内の新鮮な驚きが面白い。

芝居が終わった後、『2000年代を振り返る』と題した平田オリザのインタビュー映像が20分ほどあり、かなりの観客が残って観ていた。「C:青年団主催・こまばアゴラ劇場芸術監督として」では、現代社会の中での演劇の役割が明確に説明されていて、いまこれほど分かりやすく演劇の効用をプレゼンできる演劇人は平田オリザ以外にはないだろう。映像にもかかわらず、終了後観客から拍手が起こった。



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