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楽天のTBS経営統合 ~誰が得をするか?~

2005年10月19日 | ビジネス・マーケティング

ここ一週間ほど、楽天によるTBS株大量取得、及びそれを背景とした経営統合の話などが盛り上がっています。この話題について世間でも賛否両論ありますね。当ブログでは、この経営統合がTBSや広告主、視聴者に便益を与えるものかどうか、という点について論じてみたいと思います。

この経営統合によって、楽天が何をしようとしているのでしょうか。それは、TBS経営統合を申し入れた文書にまとまっています。 http://www.rakuten.co.jp/info/release/2005/1013_2.html

<2> 統合により創出される価値

  東京放送の競争力の源泉は強力なコンテンツ制作力及びその蓄積と日本全国の視聴者様、リスナー様へのリーチ力であると考えます。他方、当社の競争力の源泉としてはインターネットに関する経験とノウハウ、データベースマーケティングのノウハウや情報と3,000万人のグループ会員基盤等が考えられます。これら両社の強みと、両社で蓄積された技術、広告主様への営業力、代理店様との信頼関係が結合することにより、少なくとも次の価値が創出されると考えます。これらを含めた様々な相乗効果により、両社企業価値の安定的・持続的な向上が実現されることが想定されます。

(ア) 視聴者様及びリスナー様にとってより魅力あるコンテンツ提供の環境整備

(イ) データベースマーケティングの取り込みによる広告の高付加価値化

(ウ) ワン・コンテンツ・マルチユースの促進によるコンテンツ価値の最大化

(エ) 収益規模・資金調達能力の向上と再投資による持続的成長

※上記(ア)から(エ)の詳細については、提案書にて東京放送にご提示申し上げました。

 

これら、(ア)から(エ)について、本当に我々に便益が提供されるのか、そして本当に楽天がそれを実現できるのか考察してみましょう。

(ア) 視聴者様及びリスナー様にとってより魅力あるコンテンツ提供の環境整備

これは具体的に何のことを言っているのかこの記述だけだと判りかねるのですが、推測するにインターネット上でTBSの番組をリアルタイムあるいはオンデマンドで配信したり、番組で放送できなかった部分をネットで配信する、などということだと思います。 そうした様々なチャネルでTBSの番組(未放送部分も含め)を流すという発想自体は特に目新しくはありませんが、便利かどうかといわれればそれなりに便利なような気もします。例えば、海外に出かけているときにネット経由でTBSの番組が視聴できるのはちょっと魅力的かもしれません。

 では、楽天が本当にそのようなことが実現できるのでしょうか。インフラはオンデマンドの配信を行う子会社のショウタイム社が持っているので提供可能と思われます。 しかしビジネスとして成立するかどうかは明確ではありません。 実は過去にTBSも「トレソーラ」でコンテンツの再配信ビジネスの構築に取り組んだことがありますが、権利処理コストがかかりすぎてビジネスモデルが構築できずに苦戦を強いられました(参考 著作権の“盾”を破れ――テレビ番組ネット配信の課題)。ショウタイム社がこのような権利処理コストを低減できるノウハウを持っているとは思えません。 そうしたノウハウが特に無いのであればTBSにとっては楽天と経営統合するメリットはほとんど無いと考えます。むしろネット配信をしたいのであれば、ショウタイム社に限らず最も良い条件で番組買い取ってくれるオンデマンド系の会社に番組コンテンツを卸す方が、インフラ投資コスト・維持管理コストを低減できるため、より良い選択であろうと考えます。

(イ) データベースマーケティングの取り込みによる広告の高付加価値化

楽天の強みとして考えられるのは、インターネットショッピングモールで顧客がどのようなものを購入したか、というデータを持っていることだと考えます。このデータを基に、ユーザ個々の趣向にあった(パーソナライズされた)CMを流すようにすれば、広告主に対してもさらに魅力的な広告枠の提供になるかも知れません。 しかし、実際のCMは単に個人の趣向に沿って流せばよいだけではなく、番組の内容や流す時間帯などを十分吟味して流すべきCMを選定しています(昼間に酒の宣伝は流さない、とか)。そのような個人の趣味趣向と番組、時間帯とのマッチングを取った上で流すべきCMを自動的に選択する、という技術はまだ研究段階の域を出ません。さらに、このような『ワン・トゥ・ワン』の広告配信が不特定多数に送りつける現時点のCM以上の効果が得られるかどうかは未知数です。 現時点においては、パーソナライズされたCM配信は、技術面、ビジネス面双方で発展途上にあり、経営を統合して実施するほど実現性の高いものではないといえます。この分野は更なる研究が必要でしょう。当然現時点でこれらの課題を解消するノウハウを楽天が有しているとは考えられません。

(ウ) ワン・コンテンツ・マルチユースの促進によるコンテンツ価値の最大化

これはソリューション及び課題は(ア)と同じと考えますので割愛します。

(エ) 収益規模・資金調達能力の向上と再投資による持続的成長

楽天と経営を統合しないとTBSがつぶれるのでしょうか? 特にTBSの経営が困難になった、という話も無く、過去3年間で見ても当期利益は50-100億円近辺を推移している状態です。平たく言えば楽天と提携しなくてもTBSは当面持続的な成長は可能ということになります。ちなみに楽天の経営状態ですが、昔ライブドアの堀江社長が言っていたように3年連続で赤字になっております。今年は何とか連結ベースでも黒字になりそうですが、まだ経営そのものも発展途上感が否めません。持続的成長が当面の課題なのはTBSではなく楽天の方であるといえます。

 

以上考察してきたとおり、今のところ楽天との経営統合はTBSにとってそれほどの魅力が無いことがわかります。

では、私たち視聴者や広告主にとってはどうでしょうか。放送の再配信ができるならばある程度魅力的ですがHDDレコーダなどでも代用ができるため、ネット越しで見なければならないような環境(HDDレコーダの出回る前の番組の視聴、海外にいるときの視聴、など)でない限りはそれほど魅力的ではないでしょう。また、広告のパーソナライズ化については、これが本当に視聴者のニーズに合致しているかどうかが不明です。人にもよると思いますが、一般的な視聴者はいろんな種類のCMを見る機会を欲しているような気がします。より詳しい情報が欲しければインターネットで入手できる時代なので、これも代替手段が無いわけではありません。TBSの経営が安定することはTBSの番組が好きな人にとっては重要とは思いますが、TBSが無くなれば他のチャンネルを見るだけでしょうから、こちらも代替手段があります。つまり、視聴者や広告主にとってもTBSと楽天の経営統合はそれほど魅力的ではありません

一方、TBSを傘下に入れれば楽天グループの収益構造が安定し、楽天の株主にとっては大変魅力的なプランだと考えます。なお、楽天の筆頭株主は19.34%を所有する三木谷社長その人です:)


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