noribo2000のブログ

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ソフトウェア開発における発注者と受注者の関係 ~その先の市場のことを忘れていませんか?~

2005年08月28日 | ビジネス・マーケティング

私は仕事柄ソフトウェアを外注さんに製造してもらう事が多いのですが、その時に「仕様が膨らんだので費用追加お願いします」という外注さんからの依頼がやってくることが良くあります。そして発注者、受注者の間で、膨らんだのは仕様なのか、設計・製造工数なのか、というところを精査することになります。一般にソフトウェア開発は仕事の完成に責任を持つ請負契約で実施される事が多いのですが、その場合双方合意した仕様書に基づいて開発する事が前提となります。ですので、仕様が膨らんだのであれば費用の増分は発注者負担、設計・製造工数が膨らんだのであれば受注者の見積ミスになるので受注者負担となります。

とは言っても発注者も受注者も有限の予算の中で活動をしていますので、実際の交渉時はそれぞれの事情を背景とした様々な駆け引きが発生します。例えば発注者側が「たくさん発注してるんだからそれくらいタダでやってよ」と言ったり、受注者側が「費用追加は要らないし納期の変更もしない変わりに品質を落とすが、それでも良いか」と言ったりします。もっと泥臭いケースもあるでしょう。

しかしここで発注者、受注者ともに立ち止まって考えて欲しいのです。自分の携わっているソフトウェア開発は何のために実施するのかを。

そのソフトウェアは、直接的には発注者の便益のために開発することになるのですが、更に発注者の顧客に対する便益の為に開発する事も多いはずです。そのような便益の連鎖をたどってゆくと最終的には「市場」に行き着きます。従って「市場」に便益を与えなければ対価は得られない、と言う意味では発注者も受注者も基本的には同じはずです。発注者の顧客に便益を与えるのであれば、発注者自らの収支のみを気にして費用追加に応じないと言う態度は疑問ですし、品質を落として発注者との契約を形の上で完了させれば良いと言う受注者の態度も問題があると考えます。

発注者も受注者も「市場」に対しどのように便益を提供するか、という事を考えて行動すべきです。そうすれば自ずととるべき態度が見えてきます。

発注者のとるべき態度: 
(1)仕様追加・変更の場合
その仕様追加・変更が本当に市場に便益を与えるかどうかを吟味し、そうであるならば費用追加をしなければならない。そうでないならば仕様追加を取り下げなければならない。費用追加をした結果予算をオーバーする場合、本当にそのソフトウェアを製造することが市場に便益を与え十分な対価が得られるか再度吟味すべきである。その価値がないと判断したら、その時点で開発を終了する事も考えなければならない。

(2)設計・製造工数増加の場合
原則的には受注者が負担するものであるが、ソフトウェアは見積が困難であるという事も忘れてはならない。杓子定規に受注者負担にすると受注者側の経営基盤を揺るがしかねない可能性がある。受注者側が機能不全になってしまっては発注者も身動きが取れず、結果的に市場に便益を与えられなくなってしまう。納得いかないかもしれないが市場に便益を与えると言う本来の目的を達成するならば、費用を支払う事も考える必要がある。この事に対するペナルティーは別な機会に考えれば良く、必ずしも現在のプロジェクトの中で清算する必要はない。注意深く観察すると受注者側も別なところで何らかの便益を発注者に提供していることが多いので、ペナルティーを科す前にそのあたりも考慮する必要がある。

受注者のとるべき態度: 
(1)仕様追加・変更の場合
仕様策定は発注者が行い自分達はそれに従って粛々と開発すれば良い、という思想を捨てるべきである。受注者は発注者が考えるのと同じように、このソフトウェアがどのように市場に便益を与えなければならないか主体的に検討しなければならない。そのようにして仕様書を検討すれば市場ニーズに対して常識外れの物を開発することがなくなり、結果として発注者からの仕様変更要求もそれほど発生しないし、意識ずれの発生も最小限にすることが出来るようになる。

(2)設計・製造工数増加の場合
発注者(2)の記述では、では発注者に追加費用を出すようことも検討するように促しているが、やはり原則は受注者負担であるはずなので、工数を正しく見積もるのは受注者の責務である。初期見積で正確な見積が困難である場合は、仕様書作成、設計書作成時に詳細化した見積額を発注者にリアルタイムで提示する必要がある。また、上記の仕様変更や設計変更が生じた場合も同様にリアルタイムで提示する必要がある。いつまでも発注者に守ってもらっているだけではそのうち市場から淘汰される。ソフトウェア仕様については発注者と共に発注者の顧客に対し便益を提供するように努力しなければならないが、受注者にはもう一つ、発注者に対し計画通りの納期、費用でソフトウェアを納めるという便益を提供しなければならないからである。

このように発注者、受注者ともに「市場」を意識し、市場に対し便益を提供する方向で検討を進めることで、お互いに幸せになれるはずです。

× × ×

上記の検討から、マーケティング経典に以下の項目を追加しようと思います。私の立場で言えば受注者であるところの外注さんに「市場をみる」という意識を持ってもらうように努力しなければなりません。経典として書くことは簡単ですが、実際にやるのは難しい・・・一般の宗教の布教活動が難しいのと同じかも知れませんね。頑張ります。

マーケティング経典 追加

自分が直接便益を与える人もまた、さらに別な人に便益を与えようとしている。このように便益には連鎖的な関係があり、この連鎖をたどってゆくと最終的には特定の人ではない「市場」に行き着く。

× × ×

人に便益を与えるときに、目先の顧客のことだけを考えていてはいけない。人に便益を与えるときには、「市場」に対しどのように便益を与えるのか考えなければならない。

× × ×

人から便益を受け取るとき、自己満足だけを考えてはならない。人から便益を受け取るときは、自分が「市場」に対しどのように便益を与えるのか考えなければならない。

× × ×

人に便益を与えるときに、一人でできなければ他の者の協力を仰ぐことになるが、その者はあなたや「市場」に対して便益を与えようと思っているわけではない。

それでもそのような者の協力が必要である場合、その者が意識しようがしまいが、あなたや「市場」に対して便益を与えるように導かなければならない。もちろんあなたはその者があなたや市場に便益を提供したのが事実であるなら、対価を支払わなければならない。あなたや「市場」に便益を与えなかったのなら、対価を支払うべきではない。

対価を支払う場合、あなたは何の便益に対する対価であるかをその者に教示しなければならない。対価を支払わない場合、あなたはどのような便益が提供できなかったから対価が支払われないのかそのものに教示しなければならない。このような営みを繰り返すことで、その者もまた自発的にあなたや「市場」に便益を与えるようになるであろう

 


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