ガル君が初めて病院にやってきたのは2か月半のやんちゃ盛り。人なつこくって、よく甘噛みしてたっけね。
将来は立派なイノシシ猟犬になるんだと飼い主さんは張り切っていたよ。
ガル君の飼い主さんはボランティアで仲間と一緒に、秋から春まで毎週日曜日には金峰山周辺に出かけて農作物を荒らすイノシシを退治している。
翌春、まだ10か月だがガル君は初めてイノシシ猟にデビュー。といってもまだ子ども。臆病でイノシシに向かう勇ましさはなく、“ウリ坊”君に数メートル高さの崖から突き落とされたんだって。
初めて怖い思いをしたね。
次の秋には本格なイノシシ猟に出かけたけれど、やっと1歳半。まだまだ数匹の仲間と後方から吠えたてるくらい。
そして2歳の秋。イノシシ狩猟が解禁になり本格デビューした。
その2回目の猟だったとか。
立派になったガル君は群れの先頭に立ってイノシシを追い立てていた。イノシシを追い立てる声が山から山にこだまし、向かいの山に小さくなっていく。飼い主さんが犬の群れを呼び戻したところ、ガル君たち数頭が帰ってこない。
猟犬にはGPSが付けられ居場所がわかるようになっているため、すぐにガル君たちを見つけたが、イノシシの牙で腹をえぐられ息が絶えていた。
子犬の時から一緒だった飼い主さんにとっては大きなショック。
可哀そうだが猟犬の宿命だし、殉死だと思うしかない。この2年目を乗り越えれば猟犬として長生きできるのだが。と寂しげに話してくれた。
夕日の落ちていく金峰山を見るたびに、勇敢で愛嬌のあるガル君の姿が浮かぶ。
桜の花舞う山あいをガル君は走り回っているだろう。